刀装シリーズ | ナノ






本丸に帰還したい4



意識が浮上する。

目を開けたーーー視界がぼやけている。ただボンヤリと、顔のまわりに刀装ちゃん達が覗きこんでいるのが映る。小さな手が、目から溢れている涙を拭おうと動かしていた、その仕草が心にしみる。それから、頭の下に人の膝のような感触がある。手のようなものが、そっと頭を撫でていた。

(じじいさんだ)

飛び起きて、美しい刀が見えた。まとうモヤが、薄くなってるような。

じっと見つめながら向かいあう。なんだか感情ががぐちゃぐちゃで私の顔もぐちゃぐちゃで、おちつかせようと試みても無理で考えがまとまらないままーーーーーじじいさんに抱きついた。鼻水ついちゃたけど、お構いなしである。




ハッとする、刀の感触しかわからなっかったはずなのに、ヒトの形がわかる。カレは彼≠ナ、このヒトは人≠ネんだ。

(触れる。体温がわかる。硬い感触じゃないんだ)

でも、相変わらず姿は刀にしか見えない。一体、何が基準で段階を踏んで、私は必要≠ニするのだろう。自分のことなのにいくら考えてもわからなかった。


じじいさんの困惑している雰囲気と硬直してる感じがわかってしまったが、もうこれ以上落ちつくまでとまらない。この人には、迷惑しかかけていない。ごめんなさい。でも、息が苦しくなるような、胸がなにかいっぱいになるようなものがずっとあるんだ。

じじいさんが、しばらくしてから恐る恐るといった感じで抱き返してくれる。片手で頭を撫でてくれる。その優しい手つきがさらに涙腺を緩ませた。

(爺ちゃんと婆ちゃんがそうやって慰めてくれたなぁ)

ーー困るな、どうしようか?お主は直球だ


そう言いながら、撫でる手つきは優しいままだった。さりげなく移動していた刀姿ちゃん達は、私達にひっついて小さな手でぽんぽんしている。

日が少しづつ傾きかけていた。




「・・・」

ーー・・・


落ち着いてから、小川の近くで言葉を交わすことなく、二人で並んで座っていた。刀姿ちゃん達は、水際で溺れないように気をつけながら遊んでいる。歴主達も現れることなく、穏やかな小さな騒ぎ声が聞こえてくる。

冷静のなってから、自分の行動を振り返ると頭を抱える。

私、今日はロクなことやってない。門からフライングして、襲われて、迷子になって、襲われて、助けられて、ゲロを吐く。そして、故意じゃないとはいえ、なぜか初対面の相手の記憶のようなものを見た。起きたら、その相手に抱きつきぎゃん泣きである。

何も言えなくて、でも、胸が押し潰されるような気持ち。できたのは、彼に抱きついただけだった。おまけに、鼻水と涙がついた。そして、相手は私を落ち着かせるように頭を撫でられる始末である。

本日、何度目かのどうしよう。


ーーなあ、娘よ

「っはい!」

うんうん唸りながら頭を抱えていると、じじいさんから声をかけられる。反射的に返事をした。

ーーすまないな

目を見開く、謝罪の言葉に。

「い、いえ、こちらこそ・・・ごめんなさい」

私も謝った。


ーーお主は何も聞かないのか?とはいえ、聞かれても望む返答はない

不思議そうに尋ねられ、やんわり拒否の言葉。どう返答しようか迷う。 正直がいつもいいように転ばないと知ってるが、それでも、口達者ではない私は思ったままに喋ることにした。いつもどおりである。

「正直、気になるは気になります。聞くなというなら聞きません。だから、その私はあなたのこと何も知らなくていいの=H」

オブラートにこれ以上、関わるなと言い含められてることには気づいてる。この人と今、どう関わればいいのか確認するために再度確認。それにしても重い過去があるはずなのにフットワークが軽い気がする。まあ、普通に会話してる私もだ。

ーー直球か。可笑しな人間だ

「私、喋るの下手なんです。確かに可笑しいかも?」

ーーふむ、嘘や誤魔化しが苦手そうだ。これ、否定せんか

「だいたい、直ぐにバレます。これでも一応自覚はあるんですよ」

ーーそれで、あんなに怒られるのか

「え」

ーーいや、なんでもない。聞かないでくれるならばそれは有難い。

「えっと、はい」

ーー今回のことは、本来なら起こりえなかった事象だ。まあ、事故にあったと思えば良い

「えええ、事故・・・あれを事故で済ませるの」

さっきのしんみり、何処にいったというようにぽんぽん会話する私達。既視感あるような?
途中、意味深いことを呟いたが気にせんとこう。深入りするなということなんだろうか・・・事故だと片付けられた出来事。こんな、事故あってたまるか!!と思わないこともないが、妖精見えるし、刀喋るし、神様だし、こんなこともあるのかな?とにかく、気にしなくていいと言ってくれてるんだから、見逃されていると思おう。

ーーははは、ああ、そうそう。あと、お主は殺す対象に引っかかっておらんから、安心せい

「ナチュラルに、いきなりぶっこんできたよ!?」

見透かされたような発言に恐怖する。どこが安心できるねん!?じじいはじじいでも恐ろしいじじいだ、見た目は綺麗?な人らしかったが。鶴さんも、驚きしかしかけてこないけどよく重傷にさせられるから、じじい神様達はヤバイの多いの?

「まあ、いいか」

ーーよくないと思うぞ。さて、助けたのは助けたから最後まで面倒見ようか。どうやらあと一刻もすれば、お主の保護者が迎えにくるようだ

「一刻?」

ーーそちらの時間でいうと三十分くらいかの?

「えっ、あともうちょっとじゃないですか!でも、やったー!」


さらりと言われたが、保護者てみんなのこと?この人なんらかのセンサーついてるのか。人外だしね。そして、あと三十分。


安堵と喜びのつかの間。


ーーそうだ。もう少し。それまで、そうだな。一つだけ教えておいてやろう?
お前は少し人の道から外れつつある、半分神隠しされてるせいかな


「え?」


なんともないというように、次から次へと彼は言い放つ。
時間が止まった。



15/5/23

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