刀装シリーズ | ナノ
だから戦う
既に復讐は果たされているとしてもこの身に巣食うどす黒い意思は消えることはない
僕が背負い続ける咎を根本を変えられない
でも
そんな僕でも、守りたかったんだ
守りたいんだ、大切なものを
あの人間達に復讐をしようとしたこともあった鬼と堕ちても構わないとも
兄様達はみんなは僕らを庇って守って折れていった
白いあの人は僕等の手を汚させることなく汚れを背負い荒御魂へと変貌していった
最後の審神者は少しずつ此処を変えた変わっていった
どれも、決して。
駆けつけた先は想像とは違う光景が繰り広げられていた。
『今剣!薬研!』
審神者の方へと先に向かった薬研と今剣は辿り着けていたようで、若干軽傷を負ってるが大丈夫そうだ。
(鯰尾さんと御手杵さんはいない、か)
『旦那!』
『つるまるっ!さよ!ぶじですね!』
二人はこちらに顔を向けていないけれど、鶴丸さんの声に気付いたので僕等がここに来たこと認識した。
『小夜坊、俺は二人の方へ応戦する』
『わかった。僕は審神者の元へ行く』
『ああ、頼む』
離れの周りには門前で囲まれた以上の敵が密集している。見たところ誰も離れに入っておらず、駆けつけた短刀二振りが中心になり交戦をしていた。それに周りには二人を援護するように刀装達が縦横無尽に動いている。ある者は敵本体に攻撃を、またある者は敵の刀装達を相手にしていた。二頭の馬達も敵を蹴り飛ばしている。鶴丸さんは相手の人数の多さから、判断して戦いの中心へと飛び込んだ。
防壁を築き守るよう。遠戦の刀装達や盾兵達に囲まれていた審神者の側に急いで駆け寄る。ぼろぼろの刀装と、ぼろぼろになってはいるが審神者は外面から見えるのは擦り傷程度だ。生きていることを確認し死にそうな致命所もないことに少しほっとした。駆けつけた僕には気付かず、正面を向き刀装に指示?をだしている審神者の顔は青褪めている・・・審神者の膝元に砕けた刀装があった。
僕に気付いた盾兵たちは審神者の横髪を引っ張り存在を伝えようとした。引っ張られた横髪に気付いた審神者はばっとこちらを向き体を強張らせていた。
『え・・・うわっ、刀様?!』
『あなたはなんで離れの中にいない!』
敵じゃないと気づき強張らせていた体から力を抜けたように感じる。離れの中に逃げ込めと散々言ったはずなのに何故外にいるのだと口についてしまった。こんなこと言いたいわけじゃないのに。
『一番最初に妖精さん達が気づいてすぐに離れに逃げ込もうとしたら、もうすでに囲れてて盾兵ちゃんたちが守ってくれて大丈夫だけど、でも離れに逃げ込んだら、様子がおかしいて妖精さんたちが・・・その、えっと』
説明してくれるが支離滅裂でわからない。審神者はだいぶ混乱していた。
普段はあれな行動をとっても本来は戦場を知らない普通の子供。彼女には刀≠ニしてしか映らない。けれど、確かに目の前で殺し合いが行われている。その近くでいるのは危険なのだ。
普段の本丸が、彼女にとって安全な場所と言えるかどうかは僕達が言えることでもない。いつもいた場所がいきなり戦場と化した。少女を殺そうとする殺気を浴びて、混乱しているものの気絶か発狂していないのはまだ良いと思うか、それともすでに彼女の中に存在していたはずのものが・・・おかしくなってしまっているのだろうか。
今のところ無事でもまだ終わってはいない。具体的に離れの様子がおかしいのかまだわからないけど、僕ら刀剣達が集まってもいる。一旦、中に避難させた方がいい。
『ごめん、いきなり』
『私の方こそ。刀様が助けてくれてるから大丈夫だよ。あの、槍様と・・・』
『・・・二人は別の場所で戦っている。とにかく離れの中に入ろう。離れがおかしいかは見てみるから』
そう言うや途端に、周りにいた妖精達がわたわたと何か伝えようと手振りをしていた。
『・・・妖精?』
袖を引っ張られ、ここ、ここと必死に訴えかけられている。離れの外面を隅々と見る。
審神者の話の中に、妖精達が一番最初に奇襲に気づき、離れの様子がおかしいとも言っていた。妖精達は常に本丸と共にある、だから察知もできたーーー彼ら気づいていたのか。気づいても言えなかったのか。
『守護が効いてないんだね・・・』
妖精達の表情はしゅんとしていて、それを見てようやく抱いていた疑問が確信へと変わる気がした。今回の奇襲のきっかけになるものが、鶴丸さんが自分が原因だと責めていたことも。
『私は、中に入ればいいーーー危ないっ!』
僕に審神者が声をかけた時だった、今までで一番大きな爆音が近くで鳴る。何か小さい塊がぶつかってきた。突然の衝撃に受け身を取れず転がった。
あまりの大きさに鼓膜揺らし、少しの間聴覚がいかれたが落ち着くと爆音の先の方へ急いで確認する。僕の周りには彼女を守っていたはずの盾兵がいた。さっと血の気が引く。審神者の居た場所へ咄嗟に顔をむける。
先には、審神者が。審神者が、血を流して倒れていた。
動けない審神者に敵の大太刀が迫っていた。僅かに残る刀装が彼女を守ろうとしている。
(間に合わない)
“小夜!逃げなさい!”
“・・・さちあらんことを”
どくん。どくん。
鼓動が激しく鳴っている。
(また奪われるのか)
その光景が、これまで見てきた様々ものと重なった。遠い遠い昔、僕が僕の存在を認識させた。あの感情がせり上がる、懐かしい。忘れていたわけではないあの感情が。
復讐ーーーーー違う。
『僕の刃、受け止めてよ!』
全身から湧き立つこの闘志はなんだろうか。相手の刀の動きが見えるいつもより体が軽い。首元を狙う。深く斬り裂けたが、その一撃では破壊までいかない。体勢を変えもう一度。あと一歩。三度目。これで貫けばーーー狙った場所は空を切り相手の攻撃を受けた。全身に激痛が走り堪えきれず片膝をつく。敵は止めを刺そうと、大きく刀を振り上げようとしている。
(まだ、動ける)
乱れた息を整えた。
(守りたかったんだ、守りたいんだ大切なもの≠)
寸前のところまでひきつけて、後退し相手の攻撃を交わす。今度は相手が体勢を崩れた。その瞬間を見逃さない。
『僕を怒らせたんだ・・・当然だよね!』
すべての感情を力に変えて挑む。
攻撃を与えたはずが、破壊までいかない。これまでこの本丸に侵入してきた中でも手強い。
(あともう少しなのに)
『小夜!後ろっ』
鋭い声は薬研だ。
後ろに殺気を感じる。目の前の敵ばかり見ていて、背後をとられた。今、その攻撃をくらえばひとたまりもない。振り向いたとしても、前にはまだ奴がいる。
『後ろだぜ!・・・おっと、こいつらには手出しさせないぜ?』
後ろ敵の体が崩れ落ちた。ぐっと引き寄せられ。後ろには鶴丸さんがいて、目の前の敵の攻撃を跳ね返す。戦っていたはずの薬研は審神者の容体を確認している。今剣とそれ以外のものたちは必死でちかづけさせないようにしている。少しずつ敵も減りつつあった。あともう一息でこの場に居る奴らを倒せる。鯰尾さん達やまだ何処かに潜んでいるかもしれないが、最悪の事態はまだ防げている。
息は荒くなっているけれど、体まだ動けるか確認する。最初より痛みが麻痺してきたのか、傷を負っていても感じなくなっていた。手入れもされず、傷を負ったまま戦場に放り込まれた時の経験が今、生きてくるなんて、皮肉だと思いながらも鶴丸さんの真横に移動する。悠長にしている時間はない。
『戦、なんでな』
『・・・鶴丸さん?』
『手段を選んでいるわけにいかない・・・君らは一旦屋敷内に避難してくれ・・・目に見えるところにいられても見境いがつくかわからないんだ。そろそろ・・・自制するにも苦しくなってきてな』
真横にいた鶴丸さんが黒い靄に覆われいくのが視界の端に映る。目の前にいる敵が何かを発した。その場で生き残っている他の敵が鶴丸さんに近づいてくるが、ぶわりと大きな風のようなものが激しく吹く。吹き飛ばされそうになりぐっと足に力を入れた。
『いいから入れ。これに巻き込みたくないんだ・・・
せめて君たちだけは、傷つける訳にはいかないんだ』
『・・・っ、さよっ!つるまるからはなれてください!』
緊迫した今剣の声が焦燥するような表情で、真横を向くとおどろおどろしい鶴丸さんの姿。もう理性的には見えない。なのにその眼の光が敵たちを定めていた。
制止の声より早く敵陣へ突っ込んでいった。次々と周りにいる逆行軍を斬り倒していく。止めを刺す。一人一人殺していく。
荒御魂の影響で姿が変わり、どちらが逆行軍なのか区別がつかない。だって、もうあれは鬼ーーー両肩を掴まれ後ろに引き摺られる。
『審神者は離れへ今剣と運んだ。小夜、離れに入るぞ。馬も妖精もすべてだ』
『待って!確かに人数は減った、でもあの鶴丸さんだってあのままじゃ・・・っ!』
『そんなのわかってんだ。あの状態になった旦那を今俺たちができることはない。お前だって中傷になってるだろ』
『僕は戦える!』
『麻痺してるからって痛みが消えたわけじゃない!攻撃加勢することだけが戦いか?状況を見て一歩引くことも大切だ・・・審神者を襲う敵を倒そうとしてもうじゃうじゃいる最中に放置は』
『あっ・・・うっ』
先程、頭に血が昇って攻撃を塞いだまでは良かったものの、審神者をそのまま安全な場所へ移動させずにいた。駄々をこねているような自分にも。
『しつこい!ですね!』
がきんっと鈍い音が響く。
『今剣、審神者は?!一緒に離れに避難して、』
『たいへんなんですよ!そのサニワがめをさましたとたん・・・せいしもきかずおはかのほうにいってくる≠ト、とうそうとようせいをつれてはしっていったんですよー!なにかんがえてんですか、あのあほおおお』
『『あ?』』
戦況は更に混乱していく。
15/12/13
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[mokuji]
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