刀装シリーズ | ナノ






嵐の前の静けさ1

それからの日々は何か緊急事態があるわけでもなく・・・少し拍子抜けを感じつつも日々を過ごしていた。


そんなある日のことだ。



最初からこの本丸には絡繰りなどなかった。

御上と連絡がつかなくなり幾日か経った後に、審神者が罠とか仕掛けといた方がいいじゃないのかな≠ニ言い出した。僕らはいきなりなんだと思ったけれど、この審神者の発言や行動に慣れてきてはいる。

もしかしたら様子を見に来た御上の連中を捕まえる、という返答に鶴丸さんが勢いよく食いついていた。驚きの気配を察知したのかもしれない。少し前までは審神者の寝起きに驚きを与えに行くくらいだったのだけど、最近は控えているらしかった。この前の審神者の件もあるからのようだ。
そのこともあり目に見えて張り切っている。

『そいつはこの本丸に絡繰りを仕掛けるてっことか?』

『そうですよ!敷地内に入ってきた奴らを捕獲して拷問して情報を吐かせる!』

縁側で竹筒の井戸水を飲んでいた御手杵さんは勢いよく噴き出す。

『拷問!?いきなり何しようとしてんだ!』

阿保っぽ・・・一応平和的な思考の持ち主が唐突に物騒な単語を言ったので、御手杵さんはつっこまざるおえないようだ。
僕は少し気になったので聞いてみた。

『ちなみに拷問て具体的にどんなこと?』
『さよ、みょうにのりきにならないでください』
『え?えっーと、脇とか足こしょばったり、かごめかごめしたりとか?あれなんか怖いよねー』

あ、大丈夫だ。

神妙な顔をした今剣の言葉なんて気にしない。

『・・・それ拷問じゃない』
『なんとなくそうは思ったが』

((うん、わかってた))

全員の心の中で同じことを思った。的外れな内容にほっとしたのとしょっぱい気持ちになりつつ、急に裾を引っ張られる感覚に気づく。鍛刀と手入の妖精達にちょいちょいと衣の袖を引っ張られている。そちらをよく見ると小さな手に工具のようなものを持っていた。

じっーーーと何か物言いたげに見つめてくる妖精達。僕と妖精が見つめ合っている姿に気づいた薬研が妖精達の視線に気づく。

『なんだ、お前ら・・・やってみたいのか?』

こくりと頷く妖精達。そわそわしている姿に、もしや何か造りたいのだろうか、と思う。

『うーん、政府に放置されてる状態だからな、今後も何か起こるかわからない。改修したりしてみるか?』

渋々漏らす言葉に妖精達は、わーいやったーと言わんばかりの姿にところどころにいる刀装兵達もよかったねーと拍手。やる気満々の妖精や刀装兵達に集られながら同じくよかったねーと喜ぶ審神者の姿も、混じっていても違和感ない光景。それぞれ工具を持ち直しばっーと散りながら、僕らの分も用意している、とのことを立ち止まった妖精に伝えられた。

『聞く以前に準備万端。ああ、確か鍛刀も手入も滅多にしないから暇を持て余していたよね』
『それもあると思うが、審神者の影響も凄いんじゃないか?』
『ようせいたちもよろこんでいますしあのサニワもげんきがでるのなら、これでいいじゃないでしょうか?』

帰れないかもしれないとあの事件から明らかに元気がなかったので、気分転換になって前向きに考えれる方向になるなら今回いいきっかけになるかもしれない。

『あのな、薬研』
『ん?御手杵の旦那どうした?』
『鶴丸がさっきから見当たらないんだ』
『え?それなら鶴丸さん、妖精達と一緒に行きましたよ?』

きょろきょろ見渡す御手杵さんが薬研に言いにくそうにしながら、薬研に言うのを聞いた鯰尾さんが、そういえばというように答えた。

それを聞いた薬研は。

『さっきから声が聞こえないと思えば鯰尾兄、気づいていたんなら止めといてくれ!小夜、今剣!ひとまず、一人捕獲しに行くぞ!』
『了解』

『あれもひまをもてあましていたのをわすれていました!サニワはどんくさいですからねー』
『避けてはいるようなんだか。この前も本丸内の結界に綻びを見つけて一応修復して、その周辺に念の為罠を仕掛けたやつにひかかってたしな・・・旦那が回収してたけどな』
『なんやかんやあいしょういいんでは?』
『差が激しいよ・・・』

いつもいつもじゃないけれど、なにかと大暴走する時がある鶴丸さんとやる気満々の妖精達。
主に仕掛けたものが審神者が引っかかる可能性がある。僕らだって把握しなければならない。

でも同時に知っているのだ。あの人のあの行動に込められた意味も。仕掛けても、僕らが避けれる程度のものにしていることも。


後日。
それも結局のところ、なんだかんだみんな凝りすぎ改修しすぎで、後の本丸になり。
審神者が意外と物を造るの上手と発覚した。



暮らし始めたら色々な問題もでてくるわけで、僕達は審神者の名前を鶴丸さんの報告で聞いて知っている。でも、知っているだけで僕らは審神者を“その名前”で呼ぶことはない・・・神とあらわすのは正直いってあまり自分で言うのは好きじゃないけど、意思を持って呼ぶ名を通し、人間に大小の影響は与えてしまう。

なので呼び名は僕らは審神者か二人称で。審神者は僕らを刀様と呼んでいる。
その呼び方どうなんだと思わなくないけど、僕らは審神者に直接名を名乗ってるわけではない。
刀同士の呼称で会話しているのまで気を使っていない、半月以上も居れば筆談でしか話せなかった頃よりは違うーーーだから審神者も僕らの名をうっすらと知ってはいる。でも、互いの名を呼ぶことのまずさは教えてはいた。

その刀様という呼び方は審神者なりの配慮と認識していた。まだこの時僕らは審神者が僕らの名を呼びたいという気持ちがあって少しずつ悩みが膨らんでいくのを知らなかったのもあるけれど。
それは、また別の話になるので今は置いておく。


『ユー、私の本名で呼んじゃいなyo☆』

問題は本丸を改修作業をいったん中止して休憩中に、審神者が何を思ったかふと発言したからだ。その発言後、妖精や刀装兵にぼこぼこにされている。あ、正座させられた。

『刀剣男士ていうのは、付喪神で一応神様だからその神に真名で呼ばれるなど普通はあってはならないこと。無理矢理、眷属にさせられる場合もある・・・と教えたよなぁ?』

審神者には見えないだろうが、目がすわって若干顔が引きつっている薬研の顔に、これは説教が延びるな・・・と。それにしても、呼び方はそのままでもいい。ただでさえ、特殊な環境に身を置いているし、この人間≠ヘそれに対するちゃんとした訓練とやらも受けてない。鶴丸さんも害は無いように見えるけど少し前まで荒御魂の状態が酷かったから、これ以上はできる限り影響を与えたくない。今の状況は何が起きてもおかしくない。

『まあ、真名がわかった時点でちょっと心配してたが』

『こんな馬鹿にちゃんとお上は教えることもできないなんて!』

『するつもりはないですけど、かみかくしされちゃいますよ』

『魂、握ってるんだよ?』

『君はもう少し慎重に行動した方がいいと思うぜ』

くどくど審神者に対して僕らは言うが、少しかわいそうになってきたかもしれない。そして、どさくさに真名を尋ねた当事者も混じってることに気づいた今剣にじと目で見られ知らんぷりしている。

『みんななら、大丈夫な気がした!』

『『いや、話聞いてんのか?』』

先ほど抱いた感情はただちに消えた。


薬研の言葉をきっかけに始まる名前の大切さや、審神者の常日頃から思っていた軽率に見える行動の数々を指摘し終えた後、いつの間にか日が暮れかけていた。確かに審神者の害意の無い行動に絆された僕らだけど、流石にこの流れで呼ぶわけにはいかない。結局、互いの呼び方はそのまま。

『と、いいますか。なんで俺たちがこんなに気にしなきゃいけないんですか?』
『まぬけだから連れてこられたんじゃ・・・』
『あいつ・・・もし無事帰れてもまた同じ目に合いそうだな』

長時間正座していた審神者が足を痺らせて悶絶しているのを見て、全員疲れた雰囲気を漂わせながら思った。審神者に追い打ちをかけるように、痺れた足を刀装兵達が弄っていた。


わりかし本当に心配している事案である。一緒に過ごせば過ごすほど情がうつることに。


15/10/7

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