刀装シリーズ | ナノ






認めてしまおうか2


『家に・・・帰れると思ったのにいい・・・頑張った・・・のにいいい!死ぬかと思ったのに・・・何度も思った!怖かった・・・!刀は浮いてるし、飛んでくるし、死体はあるし、グロいし、でも・・・刀装ちゃんや妖精さんがいたから・・・頑張れたのに、いつか帰れると思って頑張れたのに・・・血文字は浮かぶ、屋敷内はぼろぼろ、なぜか怪我はいっぱいするし・・・・・・うちに、帰りたい、帰りたよお・・・おじいちゃん・・・おばあちゃん、うっ・・・ぐっ・・・うえ・・・会いたいよ・・・』


号泣と鼻水と馬糞塗れのなりに支離滅裂な言葉。落ち着かせるためなのか妖精や刀装兵達が、寄り添い頭をぽんぽんしたり涙や鼻水を拭いてあげていた。

鶴丸さんと御手杵さんと鯰尾さんが、後片付けはしておくから短刀組は審神者を連れて風呂にでも入ってこいと言われる。どうしていいのかわからず、自分達では彼女をどうすることもできないと判断したのか、下手に慰めるよりできることを選択したようだ。匂いが強烈すぎて嗅覚が麻痺していた。

幾分か落ち着きぐすぐす言っている審神者の手を引いて♂れを落とすため風呂場へと向かう。
・・・任された、僕らも審神者の様子にどうしていいのかわからずにいた。



ごはんを食べるように促し、僕らが寝る大広間で審神者も妖精も刀装兵も交えて雑魚寝。審神者が寝たのを確認して声を潜めて話す。

『平気なはずなわけないよな』
『変な人間ですけど・・・でも、必死だったん、だなぁ』
『サニワにとってぼくらはこわいものですよね、ふつうは・・・じかくはしてましたけど、あらためてほんねをきくと、おもったいじょうに、きついです』
『俺っち達・・・何やってたんだろうな』

散々話し合ってなんとなくはわかっていた。わかっていたつもりだった。彼女の本心をもろに聞いてしまい、みんな精神的に重傷である。

誤魔化しても無理だ。認めてしまっているのだ。彼女がかけがえのない存在になっていることに。



結果的に御上に逆らったことになった。これから彼女や今度こそ僕らもどうなるかわからない。
鶴丸さんは一人、寝ている審神者の頭を撫でてていた≠サの日を境に僕らは彼女に触れられるようになる。



翌日、審神者から昨日の事を謝られあの男から連絡があり、やりたければやればいい≠ニ宣言したこと。
それと与えられていた物資がなくなる∞連絡もなくなる∞もしかしたら本丸ごと消滅するかもしれない≠アとを聞いた。

拍子抜けしてそんなことかと思った。僕らが軽く流していたことに、審神者が挙動不審になる。
物資なんて前任達がいた時やほぼ鍛刀にしか使われていなかったし、今は遠征を繰り返して自分達で少しずつ備蓄していっている。連絡に関してはあって、ないような感じだ。なくなったと思えば、また時間が経てば寄越してきたし。そもそも御上が刀剣達が審神者業を請け負っていたのを把握していたのかも疑問だ。

本丸消滅は重要なことだけど半信半疑だった。消滅するなんて初めて聞く。それなら何故今まで、審神者が死んだ場所に次々と代わりの人間を割り当て、放置していたのだ。そして、わざわざ拉致した審神者をここに放り込んだ。僕にはまったく意図が読めないけれど、鶴丸さんと薬研は予想つきつつあるようだ。

『それよりも君のご家族はいいのかい?』

その問いかけに審神者は思わず泣きそうになっていた。

鶴丸さんは慌てた様な感じで、審神者の頭に手でよしよしと撫でる。審神者も僕らに触れることに気づいているのか大人しく撫でられていた。しかし、視界の方は相変わらず僕らの姿が刀に見えるようだった。



それから脅しだと思うが念の為、後日、刀剣達で話し合い。半分だけ本丸を神隠し状態することにした。半分神域寄りにして向こうからの勝手な操作をさせない為の対策だ。もちろんすべて繋がりを絶っていないので、直接本丸にこれる手段は残しておく。来るかどうか微妙。しばらく向こうも様子見の形をとるだろうと、薬研が言っていた。

神力が強い部類に入る鶴丸さんを主軸として僕らもそれを使ってみたんだけれど、案外使えたことに少し吃驚。


『案外できるもんですね』

『半分でも神隠しか、こうもあっさり出来ちまうとあれだな』

『君達が引いててどうするんだ』

思わず感想を洩らす鯰尾さんと御手杵さんに、鶴丸さんが半目で言った。

『一番″ナ初から出来れば・・・』

僕の呟きを拾った今剣が言う。

『それはむりですね。ひとになりたてでしたし、いちおういままではけいやくのしゅごがありましたし、ぼくらもかんぜんむけつではないですからね。さにわをおいだしたらけんげんできなくなるのもじかんのもんだいもあります。たちばがぎゃくてんしてるどころか・・・それより、いまのじょうきょうがとくしゅというか・・・ろくふりだけでできるのがものがったっています』

『主従契約してないしね』

『かんたんにいうと、あやかしよりのかみ≠ニにんげん≠フかんけいですからね』

『薬研が言うと普通に聞こえるのに。いまのが言うと、物騒』

『そうですか?まあ、あのサニワのてきおうりょくはすごいとおもいますけど。あんなにおおなきしたのに、あれからはたけしごとにいそしんでいますよ』


けろりと言う今剣。あの審神者の意識に引っ張られがちなのか影響は受けている。
帰れないと判断した審神者は、完璧に諦めたわけではないが生きていく為に必要だからと、畑仕事を勤しんでいた。

(鬼気迫る様子に、かつての江雪兄様を思いだした)

確かに人間は食事が大切だけど。


顎に手を当てていた薬研が鶴丸さんに話かけた。

『なあ、鶴丸の旦那』

『ああ、なんだ。薬研?』

『神域寄りなんだよな・・・ここ?』

『俺っちたちはむしろこの空間の方がいいが、人の身である審神者は影響受けないか?・・・特に作物』

鶴丸さんが爽やかな笑顔で言った。

『影響は受ける』

『徐々に人の道から外れていく。見た感じあのお嬢さん≠ヘ精神が崩壊するってことはなさそうだが』




『確信的か』
薬研が目元に手を当てる。

『駄目だろ!それ!』
叫んだのは御手杵さん。

『すこしばかりひとみちがはずれるくらいだいじょうぶですよ』
どこか吹っ切れつつある今剣。


『平安生まれこわーい』
『愉しんでるよね、鯰尾さん』


心中に抱えるものはたくさんあるけれど、どうやら新たな日々が始まるようだ。


15/8/9

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