刀装シリーズ | ナノ






認めてしまおうか1



六月が経つ頃だ。

その日は特別天気がいいと感じる日だった。
審神者は馬の世話をしに行き、鶴丸さんと鯰尾さんと御手杵さんは近くの場所へ遠征。
僕らは大広間で本丸留守番という名の団欒をしている。

周りにはちょこちょこと刀装兵達が遊んでいた。もちろん頭や肩にも乗っている。
彼らも出陣しないから剥げることもないので暇を持て余している。それは、鍛刀もしない妖精達もだ。

『鍛刀しないし、手入するような事態になってないからか』

近くにいた刀装兵をつつく。つついていた刀装兵は、ころんと転がり起き上がろうと手足をばたばたと動かしている。ちょっとつつきすぎた。

それにしても、彼らは自由だ。視界に捉えた今剣の頭に乗ってるのは昼寝し始めた。
それに気づいた今剣は起こさないように乗っているのを掴み、座布団の上に寝かせて布切れを乗せてあげている。周りではしゃいでいた刀装兵が自分達もーというように集まって一緒に寝転んだ。
書類を読んでいた薬研が、その光景に気づいて目元を緩ませている。

『やげんはそのかみずっとよんでいますが、それはなんです?』

『ああ、これか?審神者が必要最低限のものの中に入っていたと言っててな』

『ひつようさいていげん、おかみの』

『ああ、そうだ。気になって目を通したがものの見事に政府の都合いいようにしか書かれてない』

薬研の手元にある書類に興味が湧いたのか今剣が小声で尋ねる。
小声で返す薬研が、はあとため息をつく。

『都合よく扱ってるのは始めからわかってることじゃないの?』

現在進行形で偉そうな電話しかしてくるのと、会話をたまたま盗み聞きしてた鶴丸さんから聞いた。ちなみに天井裏に潜んでたらしい。何しようとしてたんだ。

『政府が胡散臭いのはわかっている。しかし、審神者が帰れる方法はその政府に頼るしかない。本当に此処≠セけで済んであの審神者が家に帰れる≠フか・・・死ぬ可能性があったのに、だ。実質なんの対策も知識もなしで此処によこした』

『そうだよね』

『俺っち達の本丸は審神者が来た時には、鶴丸の旦那が危なかったものの俺っち達は正気があった方だ。刀剣も減っていて・・・結局、審神者自身に俺っち達がじかに傷つることはなかった。
急ぐこともなかったからこの六月で、審神者の行動も良いように受けとれる時間があった。
でも、もしもーーー此処と似たような場所≠ナ此処より酷い、更に思考をなくした連中がいるところに放り込まれたなら』

『僕たちがましだったてこと?でも、それは僕らだから思うことであって、あの審神者が実際にどう思っているかは』

『弁護した言い方だったな、俺っちが言いたいのは』
『ようは、あのにんげんたちがサニワをぶじにおうちにかえすのか、ですね!』
『うーん、まあ、そういうことだな』

『確かに、御上がまったく信用できないけれど』




そんな会話をしている時だった。事態が急変したのは。よく噂をすればという・・・まさにそんな状況だったと後から思った。

『家に帰れることになったんですよ』

審神者は浮かれたように笑っていう。そのひとことに僕ら短刀の空気は凍りつく。



外が騒がしく次第に殺気、おまけに本丸外から何者かが侵入したのを感じる。中に居た僕らや寝ていた刀装兵達が飛び起きてその場所へと向かった。

見知らぬ人間の男と、周りを囲むようにした険しい表情をした遠征組と装備された刀装兵達。一人嬉しそうにしている審神者。

そしてこの状況を審神者に聞くとその一言。


『それは本当、か?審神者?』

途切れ途切れに何とか聞き返した薬研に審神者は興奮したように話す。それに、刀装兵達だけがよかったねとぴょんぴょん飛び跳ねていた。

僕らは何の反応も返せない。


彼女は帰りたいと願っていた。あんな緊張感がないのに見えて、年老いているが元気な祖父母の話をしている時、本当に家族が好きなのだろうと、思った。僕らも根拠はなくてもいつか帰れるよと、慰めるように言っていた。


これは喜ばしいことなのに・・・なのに。


頭に最初に思い浮かんだのは。
帰って欲しくない
だった。



なんだかんだ自分自身に言いながらも、結局この審神者は此処で審神者≠ノなって、僕達のー≠ネるんじゃないかと、心のどこかで思っていたのかもしれない。否定しようと、誤魔化そうとしていた気持ちを完全に自覚してしまった。

【彼女が主≠カゃなきゃ、嫌だ】

感情がごちゃ混ぜとなった思考をよそに、周りの様子が動いていく。怒声が聞こえ、意識を戻された。

『誰が・・・帰れるといった。初めに説明しただろう、審神者になった以上帰れない!!まったく人の話を聞かない餓鬼だ!!!ここですることはもう何も無いと言っただろう、お前にまた別の場所に行ってもらうぞ。霊力が少しでもあるから試しにここを任せただけだというのに、うまくいったからて調子にのるな!!
お前みたいな底辺の人間が国の役に立っているんだ、名誉だと思え。愚図愚図しないでさっさと用意しろ!』


男の言葉にーーー周囲の殺気が増幅する。

全員が柄に手をかけていた。審神者はあまりのことに唖然としていて硬直している。
周りの物騒な空気に流石に気づいたのか、ひたすら罵詈雑言を言っていた男は慌てて取り繕う。


『頑張れば、帰れないこともない』


状況をちゃんと理解できなくてもこれだけがわかった。
いや先程の言葉でだいたいは把握する。薬研が不安に話していたことが、現実に証明されたのだ。


『・・・おいおい、こいつは驚いたなぁ?俺たちにお前の言葉が理解できないとでも思ってるのか?』

治まっていたはずの、黒い靄が振り返し。あの男≠殺害した時の、鶴丸さんの姿と重なる。

『な、なんだ!?いいか、お前ら刀剣は黙って俺たちに従っておけばいいんだ!お前らの攻撃なんざ、凌ぐ術を持っているんだ!逆らえば、刀解してやるぞ!?』

混乱してるのか墓穴を掘り続ける人間に口々に言い返した。それにしてもこの男、審神者ではないはず。二番目の男の術と似たようなものなのか。
そんな事関係は無い。ただーーー

『刀解?今更だ』

『斬り捨てます?もういいでしょう?充分わかりましたよ。未来の政府とやらが愚図なのが』

『刀剣男士を付喪神をいかにこけにしているのかは、これ以上ないくらい理解した。他の代わりの人間なんざ要らないんだよ・・・この子を生贄の使いまわしか?槍で仕留めてやろうか?』

『今回は流石に、止められねえな?今剣、今の内に審神者を屋敷内に引っ込めておけ。それか、気絶させろ。さすがに目の前で殺人は見せられないだろう?』

『えー?ぼくもものすごくおこってます!さよに・・・てむりですね』


『復讐しよう、姉様≠フ代わりに』

(その時なんでだろう。自然とあの審神者を呼び方がそれ≠ノなったのだ。思いかえしてみても変な呼び方だ)


聞いていて胸糞悪くなる少女に告げるには残酷な言葉。生贄へと捧げたのを肯定していて使いまわし、別の場所へと送る所業。舐め腐った悪態に、堪忍の尾が切れた。今までよく我慢したものだ。

いや、そうじゃない。僕らの目の前にその身を晒したのが間違いだった。

何かしらの身を守る術をかけてるようだが、はたして破壊覚悟の刀剣の攻撃を防げるのか?むざむざやられるわけでもない。術で身を守り安心して悪態をつけるただの人間程度に、紛い物でも神の逆鱗を耐え切れるのか?

そしてーーー誰よりも早く動いた。


べちゃ


『・・・ざけんな・・・』

高速で何かの物体が、男の顔面にぶち当たる。ウゴオ、と男が潰れた声を出していた。それを気にせず、審神者はひたすら的に投げ続けた。

『ふざけんなああ!上等じゃワレエエ!』


ああそうだった。この審神者が大人しくしているわけがなかった。

そこにいたのは、唖然として硬直していた審神者が馬糞を高速で投げる姿があった。


そこからは、殺る気満々だったのに出鼻を挫かれた僕ら。その時既に男は馬糞に覆われつつあり、じりじりと後ずさる姿を晒していた。

僕らは刀を構えたまま動けずにいて。
審神者は荒ぶる。
暴走は止まらない。

いつの間にか鯰尾さんが嫌いな奴には馬糞を投げるーと言いつつ、追加の馬糞を用意して参戦していた。わざとだろう、顔面に集中的に当てている。薬研が顔を引きつらせてどん引きで見ている。

場の空気がそうさせたのか、必死に止めていた御手杵さんの制止をふりきり鶴丸さんがこれはこれで驚きだなと参戦して、薬研も殺すよりはましなのかと今剣もあとでおふろにちょっこうですねとーーー僕も刀装兵も。騒ぎの様子を見に来た妖精も。

みんな、みんな、最終的に馬糞塗れなって、馬糞で覆われた男を追い返していた。

覚えとけよ、という捨て台詞を吐いていたが。馬糞塗れである。決まらない。・・・僕らも言えないんだけど。

『これが第二次馬糞・・・いや言わない方がいいか・・・後片付けするか』

ぼそりとぼやきかけた御手杵さんが項垂れていた。



15/8/9

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