刀装シリーズ | ナノ






葛藤は消えない1



審神者が墓へ向かう姿を見かけた。
僕はその日、思いきってその後を追いかけた。

今度こそ謝ろう、と。

直接傷つけはしなかった。でも、あの時当たっていたらとか。何も悪くない人間を攻撃したのは事実。

人の身の感情には困惑するが、けじめしっかりつけておきたい。



完成しつつある墓石の整理を、その場にいたらしい妖精達と刀装兵とともに作業している姿。誰から何も言われないのにその作業をずっと続けていると妖精達に聞いたことがある。この場で話してみたい気持ちがある、けど、彼女が僕らの声が聞こえないのがもどかしい。それから、はたと動きが止まりこちらを向いた。

『こんにちは、刀様。どうしたんですか?』

笑って挨拶をする審神者。そこには妖精達に向ける信頼した笑顔とはまた少し違う、一線引いた笑み。

僕が都合よく見えているのか最初の頃よりだいぶ安心したような表情を浮かべるようになった。こちらの態度を改めたのがよかったのか、今度ほかのみんなにも聞いてみよう。文字を表せるようなものがないので、彼女の近くに置いていた水が入った桶を持つと、ああ察してくれた。

この墓≠フ刀剣達は本丸内にあった折れた刀だ。庇って破壊、自壊、審神者の手により破壊ーーー彼女が知るところではないけど、同士討ちの破壊もある。これは僕自身もその現場に居たわけじゃなく、鶴丸さんや歌仙さんに聞いただけだ。鍛刀部屋の隅にそっと置かれていたことを思い出す。 並べられた其れを見た時、一緒にいた彼らはやりきれない表情をしていた。

放置され遅くはあれど彼女と妖精達の弔われ眠るこの場所に、怨念や荒れた気配はなく、何処か切なくでも暖かな雰囲気に満たされていた。




掃除で本丸が綺麗になっていくのを見てし終えると彼女は満足そうに頷いている、その仕草にいつも不思議だと思う。

『そうだ、もう一つ。教えたい場所があるんですよ。刀様も良ければお越しになりますか?』

敬語で喋るのが苦手と言いながら丁寧な口調で話す審神者に肯定の意味で近づいた。意思がわかったのか頷き歩きはじめる審神者についていく。周りにいた妖精や刀装兵が僕に近寄ってくる。 肩や頭に乗せてあげた。その様子を見ていたのか、審神者が何やらぷるぷる震えていた。なんで?

門の近くに辿り着いた。そこの傍の茂みに小さな墓石がある。
本丸の奥に刀剣の墓石を見つけた時に鶴丸さんの話を思い出した。

(これって、こんのすけの墓?)
(そうか、今まで来れなくてごめんね・・・こんのすけ)

こんのすけと歌仙さんとは急な別れになってしまった。
戦事をやっているのだ。いつか、と互いに思っていたはず。あんな事になるとは予期できなかった。

歌仙さんのお墓は奇跡的に確認できたけれど、こんのすけは破壊後、三番目の審神者に何処かに捨てられいたのか行方知らずとなり探す間もなくそのまま放置していた。この近くにあったのを発覚したけれど、忘れ去っていたのを後ろめたくて来れずにいた。

『奥のお墓に移動しようかと悩んだんですけれど、白い刀様にそのままでもいいと言われてこのままにしてるんです。でも、やっぱり寂しいですかね、ここにぽつんと埋められいるの』

柔らかな声音が耳にじんわりと響いて目元を抑えた。
刀装兵達がぽんぽんとする小さな手の感触を感じる。



『お墓参りする時、爺ちゃんからよく聞いたんです。爺ちゃんから聞いて・・・私、亡くなった人の幸せを願いたい気持ちや、生きている私達の心の寄りどころであったり、ちゃんとここに生きていたんだ≠ニ、いなくなった≠ニしても確かな証明を形にする思いが込めていたり、お墓や参りするのも大切だな、と思ったんです。 付喪神様にはもしかしたら必要ないと思うかもしれませんし、どんな心境かわかりませんーーーでも、刀様達が奥の墓石にちょこちょこ来てるの知って、神様も思うところがあるんだなと思いました。

式神さんのお墓。ここにも、顔を出してあげて下さい。私が言うのも変だし偉そう気もしますけど。 白い刀様から聞きました、式神さんは違う立場でも仲間だって

白い刀様が、本丸を正常に戻してくれた恩は返すと言ってくれたんです。いや、恩を売ったつもりはないんですよ!?最近、刀様達の態度が柔らかいというか優しいから、お墓や清掃は私の事情で勝手にやったことです。 それで本人?の前で言うのもと思ったんです・・・やっぱり黙って置けないので、お願いがあります。もしかしたら、刀様達が私の事情を知って同情しているのかもしれません。人間の分際で、図々しいとか思っているかもしれません。

でも、政府の言う通りにして私はここを綺麗にして私の帰るべき場所へ、帰りたい。 なので、どうか、もうしばらく私をここに置かせて下さい。 いつ帰れるかはわからないのですが 、私はここでくたばるつもりはありません!

よし、遂に言ったぞ!刀様達には私の声は届いていましたよね!?』




僕はその言葉に苦笑するしかなかった。
周りにの妖精や刀装兵もいつものようにため息をついている。

なんでこの人間は取り繕わないのか。いつも本心で話すのだ。
喋るのが下手くそだからと言い訳してるが、後半の言葉の中に明らかに言わないほうがいいことがたくさんあった。下手をしたら相手の機嫌を損ね、危ない。

だけどーーー小夜左文字≠フ一振の分霊は。僕にとってはその言葉が届いたようで。
内容はどうであれ、ちゃんと対話しようとする彼女の行動が嬉しく感じた。



この先どんな結末を迎えるかわからない。未だ完全に不安は拭いきれていない。審神者の本当の心情はわからない。

恨んでないのかーーー復讐を望まないのかな。
理不尽に連れてこられて、事情があるとはいえ斬りかかってきた刀が周りにいるこの状況を怖いと思っているのかも・・・しれない。



[ーーーーーごめんなさい]
[ーーーーー・・・いつもありがとう]


声は届くはずのないけれど、謝罪と感謝が、自然と言葉となって零れた。

届くはずがない、と。




『ごめんなさい≠ニありがとう=H』
『え?』

審神者が目を見開きながらこちらをを見た。お互いしばらく固まったまま、先に復活したのは審神者で、僕の周りにいた妖精達を見る。

『今の気のせい?声が聞こえた!』

妖精達が、にこにこ笑って気のせいじゃないと言った表情をしている。もう一回こちらを見た。

『あ、あの、もももう一度喋っていただけますでしょうか!?』

どもりながら聞かれるのに、僕も吃驚しているが思わず噴き出した。




口上は名乗れない。契約はしない。

でも。

『僕らはあなたに害することはもうしない。怖い思いをさせて、ごめんなさい。
お墓を、みんなを弔ってくれてありがとう。あなたが帰れるまで・・・よろしく』


彼女は更に目を見開いてーーーーーそれから、笑った。



15/7/28

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