刀装シリーズ | ナノ






思い出しては歩み行く1



それに違和感を感じたのは、あの会話をしてから一月経って少しの頃だった。

三番目の審神者は、一部を除いて残った刀剣達は受け入れて本丸の立て直しをし始めることとなった。人よりの生活は前のような状態で戻りつつある。ただ、まだ人の生活≠ニしてそこまでいかず、まず出陣、遠征して本丸の整える方となった。そのおかげなのか、資材も支給されるのが増えていった。

それが普通だと思っていた。薬研は厳しい表情で審神者の様子を見ていたけれど。

その日は、出陣やら遠征で人が少ない日だった。三番目の審神者は僕に声を潜め刀剣のことを聞いてくる。

『ーーーねえ、小夜。ここには江雪と鶴丸以外に一期がいると聞いていたのだけど・・・見かけないけれど、もしかして刀姿に戻して隠しているの?』

『そう、だけど。もう、此処にはいないよ?・・・最初の審神者によって破壊されてしまったんだ・・・どうしてそんなこと』
『嘘でしょ、あまり来ない部類なのに』
『・・・え?』

その時、いつもの優しい雰囲気ではなくがらりと人が変わったような様子。憎々しげに呟かれた言葉にギョッとする。

『いえ、ごめんなさいね。嫌なことを思い出させちゃった?私がもらった資料の中にこの本丸の状況や刀剣について書かれていたの、だいぶ違うみたいで・・・少ないから』

『そう、それから二人ほど審神者がきたよ。そんなのどういう風にしていたか分からないや。薬研や歌仙さんだったらそこら辺のこと詳しく分かる思う』

『そうなの?いや、もういいのそれだけ知れたら。特に薬研にとっては身内でしょ?お兄さんのことだもの。こんなこと聞いて本当にごめんなさいね』

その姿は一瞬で取り繕うように普段の姿に戻る。いつもの優しい顔ーーーその時貼り付けたように感じたのは、錯覚だと思った。

彼女は優しかった。特に雑な扱われ方しかされなかった刀には感じただろう。平穏な日々から苦痛に満ちた日々へと、そしてそれが過ぎ個々でも求めていた穏やかで優しい日常。もう、地獄の日々は終わったのだ。

もう、誰もあんな悲しい折れ方なんて。

このままでいてくれればいいんだがな

拭えぬ不安に鶴丸さんの呟きが思い出された。



それから数日経ったある日。
ある部屋を通るとあの女性とこんのすけが何やら言い争いをしている。襖が閉められ遮断されてるのにも関わらず洩れ聞こていた。

(こんのすけがこんな声を張り上げるなんて、珍しい)
三番目の審神者の場合のことであるが。

『審神者殿!鍛刀をするのはいいですが・・・その勢いで行うと、せっかく集めた資材や政府から支給された資材が、いざという時になくなります!』

『粟田口達のみんなが、一期に会いたいなて言っていたから頑張っていたの。こんのすけ、ごめんなさい』

『一期一会様のことは刀剣の方々に聞きました。叶えてやりたいこともわかりますが、鍛刀を多くするのはもう少し控えて下さいませ。ようやく、本丸が動き始めた状態なのです。この先何が起きるか分からない状態で資材が足りないのは避けた方がいいです』

『わかってるわ。今度から気をつける』
『では、私は政府の方に用事があるので失礼致します』
『ええ』

丸く収まったのか、こんのすけが去る音とともに、一人残った彼女の独り言が聞こえた。


『式神の分際で』

背筋を何かが伝わり、ぞっとした。




先日の背筋を撫でるような冷たい独り言を聞いてしまい、それがずっと引っかかっている。相手が僕に気づく前に・・・僕は立ち去ったけれど。

隣に座る薬研に話しかけた。

『薬研』

『なんだ?』

『・・・最近あの女性。鍛刀するの多いね』

『それもそうだな・・・何かあったか?』

『なんでも、ない』

庭で遊ぶ他の短刀達とあの女性を見ながら、それを縁側に座り薬研と眺める。

ここ最近あの女性の行動や発言が気になってることを言おうとしても、今のような庭先で穏やかな光景を見て、僕の勘違いなんじゃないだろうかと他の人に言うのを躊躇っていた。

『・・・何か抱ええてんなら。話したい時に話せ、いつでも聞くぜ?ああ、それか距離を置いてる奴らなら確信を持てるんじゃないか?』

『・・・うん、え?』

それを薬研に話そうとするも、言いよどんでしまっていた。だけれど、薬研の発言にびくっとする。

『鯰尾兄達の話を聞いてから俺っちもずっと引っかかっていたんだ・・・』

以前から審神者業務を代わりにしていただろう?審神者は変わっても、それは続いていた。でも、今回の審神者はそれはすべて審神者がやる事だからと言って俺っち達刀剣は審神者業務に直接関わるようなことは無くなった。まあ、本来ならそれが通常なんだろうな。でも、立て直すにしてもこれからやることはどっさりある。
これまでの審神者は気にしていなかっただろうが、今回の審神者は違うみたいだ。あの書類の中には政府とのやりとりに関する重要なものが含まれてるから、あまり刀剣に触れさせたくないんだろう。嫌なもの見せるから、というのが理由らしいがそんなのは散々見てきた。一応、気遣ってくれたんだろうけどな。・・・政府の態度や刀剣をもの扱いなのは知っている。
早く通常の本丸に戻すのなら、別に少し手伝っても問題ないだろう?今までも政府が気付いていたのかどうかは分からないが、それはそれと適応できるだろ。だが、審神者に協力的と示している態度をとってもおざなりなんだ。

『俺っちとしては、まだあの審神者のことをすべて信用してない。どうも刀剣に見せたくないナニカがあるみたいだな・・・吉か凶か、な?』

小声で語る薬研は心境に複雑な色を含ませている。
耳を傾けていた僕はあの女性を見た。優しい優しい穏やかな表情で、楽しそうに短刀達と遊ぶ姿は嘘偽りにないように見える、筈なのに。

(鶴丸さん達にもう一回話を聞いてから、こんのすけに相談してみよう)

この時、僕は選択技を間違えた。早くにこんのすけにちらりとでも、不安を打ち明けていたのならーーーもしもは・・・ないけれど。



『馬当番をしている時に通りかかったから、審神者様も一緒にやりましょうて言ったんだ。あ、無理には誘ってないよ?一緒にしてはくれた時は驚いて嬉しかったけれど、もうすごい適当でさ、最後は汚くなったて、馬の世話なんて知らないて言ってさっさ風呂場に言ったよ。その態度にしばらく硬直してからかちんときたけれど、俺たちの時代から遥か遠くの未来の人間だし、女ならそう思うなら仕方ないのかと一応やってくれたし無理やり納得してた。でもさあの時、馬達もなんか嫌がってたんだよな・・・。誘っといてなんだけど、正直、嫌々手伝うなら断ればよかったんだ。あれ以来、誘ってないし。あっちも寄り付かないからいいけどね』

『俺な、華やかじゃないのは自覚してる。でも、こっちだって心はあるんだぜ?小夜の前でぼろっとでた態度はさ俺の前じゃ通常だぞ?最近出陣に行って、重傷で帰ってきたら舌打ちするわ。でも鶴丸も似たような感じなら全然態度違うからな。鶴丸に嫉妬する所か女て怖えーーな気分だよ。放置されそうになった時、江雪と鶴丸が口添えしてくれたからさ、さすがに手入れしてくれているから、何とも言えない。しいて言えば態度が露骨。小夜も心あたりないか?他の短刀との差とか・・・あ、江雪には内緒な?こんなこと言ったら俺がぶちのめされる』

『あの女は、短刀を戦にださない。それは知ってるだろ。出陣する時代は鎌倉。練度が足りないのもあるが、やってることはーーーあれらと同じだ・・・資材の問題は想像していたより深刻だ、あの狐には言っておいたが。ただ一筋縄ではいかない・・・そのうち、ぼろをだす。お前も覚悟しておけ』


刀剣によって態度に差がある、これは薄々分かっていた。御手杵さんと大倶利伽羅さんの話から他の人達も気づき始めているかもしれない。短刀を戦にださないのは子供の見た目でだせないらしいけれど、鯰尾さんの話からいい人間に見せるようにして失敗してる感じがした。



15/7/20

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