刀装シリーズ | ナノ






現在へと進み始める2



鶴丸さんは歩みよっているように見えてその実、審神者の行動を一歩、線を引いて見定めて関わっているように思った。



そんな理由を抜きにして、鯰尾さんに続いて一歩を踏み出したのは御手杵さんだった。人間の御上から、追加の資材を量は少ないがもらったのか刀装を大量に作って増殖させている、現場を鶴丸さんと目撃したらしく、理由を尋ねてみれば、『襖、壁紙、障子、畳の取り替えに手伝ってもらうんです!』と満面の笑みで返され、お腹が空いたのか盛大に腹を鳴らして『休憩します』といい去っていたらしい。

なんかその時点で可笑しい。僕らが攻撃を仕掛けなくなってから手入を受けたのもあって、安心したのかそれとも妖精達がいるからなのか警戒?を解き普通に会話(血文字)しているし。明らかにやろうとしていることが少女一人、刀装兵に手伝ってもらったとしても無理ということ。手伝ってもらう以前の問題。そして、突拍子もない(毎回そうだけど)盛大に鳴らす腹の音。

開き直ってこの現状を受けいれて進んでいく姿というか、初め見た印象の違いも・・・その図太さに、歩みよってみようと思ったのだと言っていた・・・あと取り替えを手伝っている最中に、審神者が増殖させた刀装兵が自分の何十倍もの大きいなものをえっさほいさと部隊を作って運ぶ姿に、なんか色々と諦めた、と。




その次に薬研だった。いくらあ・・・能天気でも腹の内に、実は何か隠し持っているんじゃないかと腹の探り合いしてみたが、聞けば聞くほど審神者についてのことは、まったくの無知ではないが詳しいことは知らず理解できていないことが分かった。審神者の扱いを今後どうしていくかと逆に悩んだと言っていた。今後の把握のため、審神者はわけもわからず言われた通りに、審神者関係のものをそれとなくやらせてみた。手入と刀装以外はほぼ才能がないみたいだ。連結と刀解はしていない。審神者をやるなら、刀集めは絶望的だと複雑な表情をしていた。

薬研は薬研で審神者≠ニの関わりに悩んでいた。こちらに良いように教えられるけれど、審神者になるかどうかではなくどこまでのことを教えた方がいいのか、と。

そんな時だった。いつからか、あの審神者は作った料理を僕らの部屋の前に置くようになっていた。僕らは最初、人間から食べ物を与えてもらうことがなかったため警戒して食べなかった。でも、ある日薬研が何を思ったのか食べたのをきっかけを作った。それから少し席を外すと言って出て行く。具合が悪くなったのかと心配したけどその後、鶴丸さんが食べ始めてみんな食べる流れになる・・・在命時に燭台切さんが作っていたのをよく見た、塩で握られたおにぎりとお味噌の二品、口に含んだ瞬間。

胸が張り裂けそうな、泣きたい締めつけられたような気分になる。部屋に戻ってきた薬研の目元は少し赤く、僕らはそれに気づいたけれど何も見なかったことにした。

それから、薬研にこっそり教えてもらう。

薬研は審神者に聞いた。
『これは何のつもりだ?食事なんかださなくても人間とは違うから食わなくても平気だ』
と、きつく血文字で言ったみたいだ。

その時の審神者の返事は、
『お供えものです!不味いなら果物取り寄せましょうか』
との返答だった。

そういう問題じゃないと思う。



今剣は、お風呂がきっかけだった。

『お話で神様もお風呂に入るのを知っています!刀様、一番風呂どうぞ!』

とのこと。そう言われても人の姿をとって風呂に入ることなんてなかった今剣。三番目の審神者の時はその段階に行くまでに崩れていったので、風呂への入る基本がわからないでいた・・・鶴丸さんは入ることがあった。
清潔を保つ。汚れを落とすということは、知ってはいる。それに、ここに来た人間達は入るなと言われていた。そう返答すれば、硬直したあと恐る恐る聞いて。

『えと、でも今はそんなこと言う人いませんから、自由にしていいのでは?仕方がわからないなら他の刀様に詳しい方は?いないなら、妖精さんと刀装ちゃんが私と一緒に入っているので、入り方がわかるはずですよ!』

そもそも、なんでそこまで人間より下手に出るんですかね?昔話の神様は大概、人間を助けてくれることもあるけど振りまわす方が多いですよね。刀様達て、不思議な存在ですね。と、言いながらお風呂姿の刀装兵を渡されたらしい。

人間であるの少女が発言していい内容ではない。そして審神者の刀剣のこと全然、理解してない。薬研の悩んでいる苦労はいずこに。それって、自分達が上だと言っている。振りまわしていいように取れる。と引き攣りつつ言ったと、今剣が薬研と似たような表情で語っていた。

それに、審神者は。
『もうすでにここに来る前からに同じ人間に振りまわされいるし、刀様達にもでんじゃらすに追いかけられたし、こうして、たぶん・・・普通に会話できてるので大差ないですよね』

大差あると思う。一緒にしては駄目だと思う。今剣は、審神者の発言に自分がしっかりと面倒をみようと悟った。都合はいいけど、思考回路の残念さに心配になった、と。

でんじゃらすの意味を尋ねたら、危険と答えられたそうだ・・・危険だとはちゃんと認識していたようだ。それがなぜあのような行動になった。

そして、渡された刀装兵はなぜか腰に布を巻いていたから、お風呂に入ることになった僕らは気になりすぎて刀装兵に尋ねると気持ち的に男より性別はない。まあ気にするな≠ニいうような感じがとれた・・・そうなんだ。
そして指導する刀装兵。それを取り囲む僕ら(ほぼ全裸)というなんとも言い難い光景を生み出されていた。遅れて来た鶴丸さんが爆笑していた。この人楽しそうだな。




でも、僕だけ一人。審神者に直接関わらないでいる。
見かけたら避けてしまう逃げてしまう。もしかしたら、何かしてしまうじゃないかと自分を信じれなかった。他のみんなが審神者を受け入れいくのに、僕は一人焦っていた。あの審神者は根が悪い人間ではないだろう。みんなの話を聞いて知っている。なにより、妖精や本丸の住人達があんなに懐いているのだ。そんなことここに来る人間じゃ初めてのことだった。でも、怖かった。今度こそはと信じたい相手が変貌するのが、また大切なものが手から零れていくのを。



審神者が楽しそうに刀装兵と会話をしているのをよく見かける・・・会話というか、審神者が一方的に喋りかけているみたいだけど。何故かあの審神者、刀装兵や妖精の言いたいことはわかるらしい。鶴丸さんが以前(血文字)尋ねてみたらなんとなくだそうだ。

いい加減だ。

ーーーでも、暖かった。刀装兵を見る審神者の顔を酷く眩しかった。あの中に大倶利伽羅さんの刀装兵達がいるのだろうか。


僕だけ、一歩を踏み出せずにいた。



転機が訪れたのは。

本丸の中に散らばっていた刀がどこにいったのか探していた。何か知っている鶴丸さんに聞くけど教えてはくれない。でも、本丸内を探せば見つかるという。その途中、鍛刀の妖精達が玉鋼を運んでいるのを見たので重そうだったから手伝う。これをどうするつもりと問えば首を傾げてから、ついてこいという仕草をした。

本丸の奥地に足を進める。こんな場所があったのかと驚く。木々に囲まれひっそりとした場所。そして、その先に開けた所があった。薄暗い通り道から、急に光が射し込んだので目が眩む。しばらく目を瞑り徐々に目を開けて慣れていく。

そこにあったのは、何十個もある玉鋼。僅かな気の残骸で、その下に彼らの刀が埋まっていることに気づいた。

『これって、もしかしてお墓・・・?』

呆然と呟きながら、妖精達を見る。妖精達は優しい表情で頷く。

『なら、玉鋼は墓石?君達が全部してくれたの?それとも、鶴丸さん?』

違うというように首を振る、でも手伝ったと。
じゃあ誰がと考えなくても、該当する者が一人いることに僕だって気づいていた。




見渡す視線の先に、一つの玉鋼に幾つかの刀装兵達が集っているのを見つけた。

近づくと、水を掛けたような感じと小さな野花が幾つか供えられていた。刀装兵達は、じっとその墓′ゥていた。静かに見ていた。

『大倶利伽羅さんが眠っているんだね』

こちら向いた刀装兵達がこくりと頷く。ぱっと僕に駆け寄りよじ登る。それを手で優しく掴み肩に乗せる。この刀装兵達は肩や頭に乗るのが好きだ。それは、大倶利伽羅さんがよくしてやっていたからだろう。

大倶利伽羅さんは刀装を作るの上手だったから、係を任せられた時とても嫌がっていた。でも馬やものを大切にする人であったから作った刀装も彼なりに大切していた。刀装兵達もそれを感じとっているのか彼のことが好きなようだ。とにかくわちゃあと大倶利伽羅さんにくっついていた。

その姿をよく周りの人達はからかって笑ってたから、不機嫌に見えたけれど刀装兵達を触る手つきは優しかったのを覚えている。ずっと、残された刀装兵達も覚えているのだろう。


彼の最後に交わした会話を思い出した。

出陣する前だ。本丸でも残ってる古株組に次いで練度高かった大倶利伽羅さん。手入れをされず重傷一歩手前のまま彼は、残った刀装兵達を外し鍛刀部屋に残す場面に遭遇した。

『大倶利伽羅さん!・・・そんなことしたら、刀装も無しなんて折れてしまう。ただでさえ、厚樫山なのに・・・!』

『俺の死に場所は俺が決める・・・あいつだってそうだ』

『でも!』

『・・・お前だって、いつその状態で放り込まれるかわからない・・・お前の兄がそうさせないようにしているが、あの女の目的は結局あの刀だ』

『・・・!』

『俺には、これは必要ない。お前にやる』

いやいやと、首を振る刀装兵達は大倶利伽羅さんに必死にしがみついついていたけれどいつもの優しい手つきではなく、無造作に僕に渡されたのを何か感じとり大人しくなる。本丸に残ってる刀剣達は一部以外、大小の傷を負っていた。資材は口渇し刀装も少しか残っていない。

大倶利伽羅さんは選択したのだろうか。彼は優先したのだろうか。先に折れた燭台切さんのように。


最後の最後まで残り頑張ったけれど、本丸に戻ってきた時には破壊寸前で急いで手入部屋に運ぶ。連れて帰ってきた御手杵さんが三番目の審神者に必死に頼んだけれど、間に合わなかった。



『ーーー妖精達に連れてこられたのか。でも、見つけたか』

『鶴丸さん』

隣に居る鶴丸さんに驚く。
驚いたか、と頭上から声が降り注ぐ。どうな顔で話しているのかわからない。ただ、その時は見ない方がいいと思った。

『本丸に入ってきた時、斬り捨てようとした。でも入り口近くにあったこんのすけの残骸を見て呆然としたまま近くに穴を掘って埋めたのを見て驚いた。それから屋敷内に侵入を許してしまったのに気づき追いかけて気絶される。何をしているだろうと、思ったさ』

『あの子は、迷子の子供かもしれないな。まあ、思考回路や行動は・・・普通かどうか判断しかねるが、良識や思うことはあるのだろうなぁ。此処≠ニは別の場所に、あの部屋に放置していた三番目の亡骸が埋まっているーーー散乱したあいつらの刀、その時の俺はそれどころじゃなかったからな。あれから、この刀やこの亡骸をどうすればいいと聞かれて、好きにすればいいと俺は答えた。

そして、あの子がとった行動は此処≠ノ刀の墓場を作った。本当に驚きだよ。
刀に墓場とは、とな。でも、きっとその行動を折れた刀剣にとるのはあの子だけじゃないだろう。

ーーー俺も、俺達もいつの間にかあの人間達みたいなことをあの子にしていたんだろうか、と思った』


淡々と語る鶴丸さんにこの人の状態がもう戻らないと気付いている。纏う気が近づくにつれ肌を刺すようになってくることに。でも、意識だけは正常に近くて・・・ーーー鶴丸さんが僕の頭を撫でる。


『小夜坊ーーーここに江雪もいる』

『・・・うん・・・知ってる』

探さなくても、慣れ親しんだ兄様の気の残骸を感じる。

もう一度、もう一度・・・最後に人を信じてみよう・・・信じたい

胸に湧き上がる気持ちが、今にも崩れそうな体を支えていた。



15/7/12

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