刀装シリーズ | ナノ
現在へと進み始める1
夜も更けた頃だ。鯰尾さんがなんともない声音で言い放った。
『審神者に、真名聞いたら答えませんかね?』
いきなり、何を言いだすのだろう。
『そこまで馬鹿じゃないだろう』
『今思ったんだが真名喋るなて教えられているのか?』
『そこは本能的に危機察知とかないかな?』
『ふつうにこたえそうなのがよそうしてしまいます。なんだかー』
広間に各自、座っていたみんなは鯰尾さんの発言にすぐ反応をする。
僕らは睡眠をとらない。手入をしてもらったのもあるけれど、度重なる碌でもない審神者達の主命の影響か疲労は溜まるが、寝なくてもいいような体になってしまっていた。それとあの時≠ニ同じ鶴丸さんはこの場にいない。けれど、あの審神者にちょっかいかけに行ったのだろうか。そういえば、真夜中なのに叫び声が聞こえたような。様子見だと言ったけど、どのような判断を下すのかまだわからない。探しに行った方がいいかな?
『でも、生贄として献上された疑惑でたじゃないですかー?何も知らされてないんじゃないの?』
『ええ、まあ、そうですね。そのうえぼくらのすがたがみえないみたいですし』
『人に見えてないなら都合良いが、あの審神者にはどう見えてるんだ?一応、こちらを認識してるみたいだけどな。意思疎通できないのが困るよなー』
『・・・刀が空中に浮いてるように見えてるんじゃないか?』
『それにしてはあまり怖がってないような・・・』
『俺なんて、馬糞投げ返されたしね』
『それは、鯰尾兄の自業自得の部分が大きいだろ』
鯰尾さんの呟きに全員反応しつつも、少し暗くなる。
一つ問題が解決してもまた問題は出てくる。
一つの問題とは鯰尾さんの審神者に対する態度はおさまった。先日の事件から何がどうなって和睦したのか分からないけど、ひとまず鯰尾さんは鯰尾さんなりに四番目の審神者を受け入れたらしい。小さなちょっかいはかけるみたい・・・でも、今までみたいに酷くはないはずと薬研が言っていたが、どうかな?
鯰尾さんは意外にもあっさりしていた。それまでにそれだけの出来事があった。鯰尾さん曰く、馬糞を投げ返すというあほな人間な行動もあったが、めげずに馬の世話をしようとする姿や馬達が警戒を解き自身を触らせるようになっていることに驚きつつ絆されいったらしい。馬達の看病を審神者と一緒にし始めた。審神者は鯰尾さんの態度に戸惑いつつまあ、いいかと判断したらしい。一人でたどたどしくしてたからか、鯰尾さんがやると馬達も大人しく従うので世話がしやすくなったのだろう。
そして、次の問題。
あの審神者は最初から態度が可笑しかった・・・心当たりは幾つかある。お経を歌うし、斬りかかった僕を持ち上げて部屋に戻す、思い返せば会話を成り立たせたことがない、妖精達を通じて接触を図っていた(妖精との会話はこの際気にしない)、鯰尾さんの顔面に馬糞を投げる。そして、審神者と名乗るが審神者の業務をせずただひたすら本丸の清掃をしている。
浮上したのは在命時にこんのすけから聞いた、いわゆる別の審神者に引き継ぐまで繋ぎの審神者という者かーーー現時点で有力なのは人身供養として捧げられたのか。
怒れる神を鎮める。不浄の地を清める。何も知らない。付喪神が視えない。会話ができない。
年若い人間の娘。これらに思い当たる、後者の方が有力だった。
人間は何を勘違いしているのだろう。生贄を捧げればすべて解決できるとでも思っているのか?
まったくの見当違いだ。僕らの望みは静かに還るかせめて眠りにつければいい。生贄なんていらない。もう自らを破壊して、逝くしか選択技はないのかな?
・・・そうやって折れていった者達もいた。
残った僕らそれを選ぶのはーーー最期に約束したことが思い留ませている。
そんな空気の中鶴丸さんが部屋に戻ってくる。澄んだ笑いと疲労を滲ませる嗤いが融合したような奇妙な表情で、君達に報告があると言われた・・・全員、引きっつった表情をした。
この絶妙な流れでの報告。まさか、そんな都合よくは、しかし、この既視感。
嫌な予想しかない。
『あの子の真名分かったーーーーーー≠セそうだ・・・いやー驚いた驚いた。ああ、あと会話も可能となった。だが、あの子には突如、壁や襖に血文字が浮かび上がるように見えるらしいがな』
『馬鹿だった』
『いや、予想できたけれど』
『よりにもよってつるまるに』
『これってこんなあっさり分かっていいものなのか・・・?』
『あの審神者の頭が心配になってきた』
『『ーーーーて、会話可能になった(のか)(ですか)!?血文字!??』』
案の定告げられる。真名発覚の報告。
鶴丸さん本人に直接聞いてきたのか、この人は相変わらず我が道を行く。鶴丸さんの無駄にある行動力に審神者の警戒心というか軽率さに呆れつつ、更に発覚した唐突な意思疎通の発覚。血文字てどいうことなんだろう・・・鶴丸さん本当に何をしてきたんだろう。
そして、さっきの悲鳴気のせいじゃなかったんだね。あの審神者と関わる時可笑しかったり、でも昔みたいに普通になったりと変化することに首を傾げる。あっさり進みすぎる事にひたすら脱力するのを感じた。
それからのことだ。
事実上、魂まで掴んだ。もうあの審神者に振りまわされることもないだろう(しょうもないことでは振りまわされたが)。こちらに害のあるような行動すればすぐにでも対応できる。というのでーーその時、すでにあの少女の身をどうのこうのしようとは思っていなかった。まあ、あれかもしれない。所有権がこちらに移った余裕の表れなのか。少しばかりの妥協と、期待。
15/7/12
[ 56/106 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]