刀装シリーズ | ナノ






審神者と刀剣の攻防戦?1




『○○○、投げんなつってんだろおおおおうがああああ!!』

本丸全域に少女の大声と、ドカーンと盛大に何か爆発したような音が響き渡る。

ああ、またかーーと思いながらも知らないふりするわけにもいかずその場所へと駆けつけた。



目の前の光景はある意味ーーー地獄絵図。

馬糞塗れの気絶した鯰尾さん(顔面が惨状)と、臭いに耐えそれを懸命に介抱する薬研。笑い過ぎて呼吸困難に陥っている鶴丸さん、着物は悲惨な状態。洗濯が大変そう。そして、挙動不審で馬糞を装備した審神者と、周りにいる刀装兵がそれをどうどうといなしている。審神者はあたりをきょろきょろ見ながら、くるなら、来やがれ≠ニ警戒しているみたいだ・・・これは、どういう状況なのだろう。

思わず、僕は同じように駆けつけて来たであろう御手杵さんに声をかけた・・・近くに冷めた目で鶴丸さんを眺める今剣もいる。



『・・・あのさ、御手杵さん』

『あー、なんだ?』

『本当に、あの審神者何しに来たのかな?』

『・・・それを俺に聞かないでくれ。俺にもさっぱりわかんないぞ』

『おてぎねのきもちはわかります。でも、だれかにきかずにはいられません。いやぼくたちも、だいだいわかってるのですよ。なんとなく・・・でも、たしかになにしてるのでしょう・・・どうしてこんなことになってしまったのでしょう』

僕等、その光景の傍ら三人立ち尽くしたままだった。



ことごとくこの四番目の審神者は、斜め方向に行動するようだ。兄様、やってきた審神者は可笑しな人間だったよ。





冒頭から時間を戻せば、鶴丸さん以外の刀が再び人の形を保てる状態になったのが今の状況になるきっかけだった。



『で、そいつは結局どうしたんだ? そもそも、あんたは俺等が刀に戻ってる間何してたんだ・・・?』

なんともいえない、微妙な空気に反応に困ったような呆れたような口調で御手杵さんが鶴丸さんに問いかけた。無言だけれど僕ら全員、鶴丸さんの方へ視線を向ける。


人間を拒み、疲れ果て、このまま消える覚悟で眠りについた僕ら。そして、それをぶち壊すように来た新たな審神者にいや、人間達に付き合いきれるほどの余裕なんてなかった。仲間内で話し合ってる間は冷静でも、その人間を目に映せば何をしでかす分からない状態だ。現在、その人間は鶴丸さんから逃げただけだけど、自滅して気絶しているのは予想だにしてなかったけれど。

その時点での審神者に対する判断は良くて、抑えて傷つけそれに怯え逃げ帰ってもらうか、それが出来ないなら殺すというのがこちらの総意だった。その場に、審神者との妥協も関係を築こうなどという考えはなかった。審神者の大半は強引で欺かれそれを今までやって・・・結局、最後まで良い関係になれたことなどなかったんだ。

審神者がどんな行動とるにせよ、鶴丸さんもそういう考えでいるはずだと思っていた。

けれど。

『しばらく放置しても処理¥o来ると判断した。で、放置してきた。きみらが人の姿が取れない間、あの人間が来たから様子を見てたんだ。・・・これは、俺の身勝手な判断だが、少しだけあの人間を様子見しよう』

『あんた本当にどうしたんだ?』

『それは、正気か?鶴丸の旦那。ここまで散々、来訪した審神者の様子見で失敗してきたはずだぜ?結果、俺っち達はこのザマだ』

『このにんげんはちがうとおもっていても、さいしょのぼくらにたいするたいどはよくても、けっきょくさいごはひさんでおなじでした』

『人は変わるものでしょう?歌仙さん達のことを忘れたんですか!期待なんて・・・もう』

『僕らに審神者は必要ない』

みんな、人間のことを憎んでいる。でも、同時にまだ・・・まだ人間のことを好きでいる部分もあった。口々にいう言葉の中にそんな思いを含ませている。


まだ信じたい気持ちがある。許して受け入れたい気持ちがある。でも、それを願うにはあまりにも色んなものを失いすぎた。何度も奪われた。もう判断を間違えるわけにいかない。その機会を望まぬ形で与えらても。

『そうだな。君達の気持ちはわかっている。・・・俺だってそうなんだ。しかし、何にせよ接触は取ってくるはずだ。その時に、どうするか決めることにするか? それともーーーー本当に殺してしまうか? 』

堕ちる寸前を気力で、正常な意識を保ってる状態の鶴丸さんからでた言葉。嗤っていた。それは、まるで最後の賭けをしているようなーーー祈るように縋るように。

後一度だけ、人間を信じたい

という思いがわかってしまった。僕等はその気持ちに何も言えずいったん保留にしておくという形でしぶしぶ。




鶴丸さんはその人間に何を見出したのだろう。その人間の何を見たのだろう。わからなくて感情はぐちゃぐちゃだけれど、僕らはまだ自分自身を止められるだろうか?

時間がまた過ぎる。


(あれ・・・?兄様の刀が無い!眠りにつく時は傍らに置いていたのに!!・・・それに、折れた刀が散らばっていたはずなのに・・・一振も無い、なんで?)


部屋の中でみんな固まり座っている時にふっと疑問がでる。近くに居た鶴丸さんに尋ねようとした時、外から審神者の声が聞こえた。

『なんでこの屋敷、あっちこっちに刀が落ちてんの?しかも、折れてるし』

鶴丸さん以外のみんなが警戒する体勢をとる中、僕は全身から血が引くの感じた。


(その刀の中に、まさか、)


『この部屋中から気配のようなものが、なんか誰かいるのかな?す、すみませーん。本日ここに赴任してきた、えっーとなんだっけ?あ、はに、さにわ?という清掃員です。よく分からないのですが、ここを綺麗にして、刀を手入しろとかなんとかと、仰せつかまりました。すみませんーどなたかーーー・・・うお、高そうな大きな刀。これも折れてるし、勿体な・・・』

途中まで、恐る恐る開かれる襖。



折れた刀。

大きな刀。

審神者。

『あああああああああ、それに触るなあああああ』

『さよ!おちついっ』

今剣の制止の声を聞かず、抜刀してそのまま斬りかかる。

ぎゃあっと潰れた声とともに強打する音。刀は避けられ、僕はふっーふっーと息をはく。とつじょ、脳内に蘇る記憶に蓋をして落ち着かせる。

(落ち着け、落ち着くんだ)



その時だった、般若心教が聞こえてきたーーーーー曲調のやたら早い。唱えるというより、歌っている。


小さな箱を持ち歌う審神者、呆然とする僕ら、転がりながら笑う鶴丸さん。その場に、審神者の声だけが響いていた。

歌い終わると、審神者がこちらを見てから部屋の中を見て無言で襖を閉めた。
そして、こちらに来てじっと見つめられたあと拾い上げられる。抵抗する気力もなくて、強張る体を運ばれ。もう一度襖を開き、そっと中に戻された。

『怒ってらしゃるようなので、出直してきます』



そう声をかけて、何処かに立ち去る審神者。後は、硬直したままの僕らとただ狂気的に煩い鶴丸さんがいた。




重い沈黙が続く部屋の中、動いたのはさっき止めようとした今剣だった。

『なっとくできません』

『・・・今剣』

『さんざんなめにあわせたうえに、よこしたのがあんなふざけたにんげん』

『それも、そうだな』

『鶴丸さん!?』

『ぼくらのいかりがこんなのでおさまるわけないでしょう!』

『さっき、虚をつかれて動けませんでしたけど。今度はこちらからですね!』

その声を合図に出て行った怒り心頭の今剣、何か吹っ切れた鯰尾さんが、立ち去った審神者を追いかけて出て行った。その場には楽しそうに嗤い煽る鶴丸さんと、更に疲労を溜まったような御手杵さんと薬研。呆然としたままの僕。この時に鶴丸さんの態度が可笑しいことに違和感を感じる。

何処かで審神者の悲鳴が聞こえた。



結局、兄様の刀は見つからなかった。刀解ではなく破壊だから残ってたはずなのに・・・鶴丸さんに聞けば意味深に笑った・・・本丸内を探そう。



15/7/5

[ 54/106 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
×
- ナノ -