刀装シリーズ | ナノ






崩壊する日常1



幾つもの時が過ぎ、其れは突如ーーー穏やかだった日常が崩れるのだ。


崩壊の兆しは何だっただろうか・・・たぶん馬当番している時だった。それ≠今剣から聞いたのを。

『演練=H』

『はい!あの審神者がえんれんというものにとつぜんでるといいだしたそうですよ? かせんたちがこんわくしたようにいってました!なんでも、べつのほんがんのぼくらとぎじせんとうして、きずをおってもじどうてきになおっておたがいのれんどがあがるらしいんですよー。そんなものあったんですね』

今剣は、馬の体を洗いながらなんともない口調でいう。なんか、重要な部分を話してくれてる感じがするけど、雰囲気がまるで世間話しているようだ。それにしても、演練という存在は初めて知った、刀剣男士として顕現してから幾つかの時を過ごしたけれど、そんなもの一度も参加したことがない。薬研辺りは存在くらい知ってたりしそうだ。

なんか便利なものらしいけど・・・。

『なんで、急にまた』
『うーん、そうですねこのまえ、ほら。いやそうにしぶしぶ、おかみのところにようじがあるからといって、かせんをつれてでかけたじゃないですか。あのときになにかあったらしいですよ?』
『ふーん』
『えんれんにきょうみなさそうですねー・・・ぼくもあんまりきょうみないですけどね』

興味がないわけじゃない。最近、あの男の様子が可笑しい。今までの態度が劇的に変わったわけとかではない・・・じわり、じわりと。

『だって、いまさら・・・演練ていうのもあの男が同伴なんだよね?確かに、それだけ聞けば良さそうだけど・・・あの男と居るのって気まずくないかな?それに僕は気持ち的に実戦の方がいいな』

『きまずいといえばきまずいですけど、あれなんですよね、さいきんあの審神者のこうどうおかしくないですか?いちぶをのぞいたものいがいはきにしてないですが』

『ああ・・・いまのも、そう感じてるんだ?もしかして、初期組とかはそう思ってるのかな』

それまで、こちらをちらりと様子を伺うだけでも珍しいあの男(他の者に向ける気持ち悪い目線は外しておく)。しかし、歌仙さんの件の前々からうっすらと、僕ら刀剣と少しずつ会話する試みをしているようだった・・・特定の者だけど露骨だ。その件の後から、妙に僕ら全体の刀剣に態度が柔らかく?穏やかな態度をとっていると感じている。

最近来たばかりの者や、あの男とあまり関わりのなかった者はその態度に気にしてないようだが、一番古くから居る刀剣男士ーー初期組や地味にちょっかいをかけられる者や勘が鋭い者はあの男の変わりように困惑と警戒を抱いていた。(あとからそれも甘かったに違いないと思った)



話はそこで終わり、当番の続きをする。僕の手に馬が擦り寄るのを見ながら、得体の知れない気持ち悪さを誤魔化そうとした。



その日は畑当番を終えて、出陣から帰ってくる宗三兄様を出迎えに行こうとしていた途中だった。

『うーん』
『いまさら、俺らに口出しするのはどういうことだよ』
『わからないんだよな』

『あの御手杵さんと、同田貫さん・・・どうかしたの?』

今日の内番で手合わせのはずの御手杵さんと同田貫さんがやけに深刻に話をしているのを見かけて思わず、会話しているのに話かけてしまった。

『ああ、左文字とこの・・・小夜か』
『左文字の末っ子か、あの場にいたのは数人だけだからな。まだ広がってねーよな』

『?』

僕が話しかけたことをあまり気にしていない御手杵さんが呟きのように言う、それに同田貫さんも呟やく。二人が何を話しているのかさっぱりな僕は疑問符ばかり浮かぶ。

(短刀が知らなくて、数人しか知らない。何かあったのかな・・・いや、もしかして)

『あー・・・あのな、あの審神者が出陣と遠征の部隊編成に口出ししてきたんだ。今までは好き勝手にしろと言ってたのによ。ついこないだ、演練とやらにも行ったがあの審神者は一体何がしてえんだ?なに今更、主らしいことしやがって』

『しかも、一方的だしなぁ。燭台切や一期のやつと部隊編成で話している時に、割り込んできたからな。何を思ったんだろうな』

『お前は能天気過ぎなんだよ』

同田貫さんが御手杵さんに指で額を弾きながら、二人はまた話はじめる。
僕は少し硬直していた、やはりという内容に動揺していのだ。普通の審神者ならその内容に口出ししても別に何ともないだろう、主≠ニして当たり前のこと。あの男は決してそれについて今まで触れてこなかったこと、審神者が行なうことは全て放棄しこちらに放り投げていたのにーーーだ。

『それって、他の人達には伝えに行ったの?』
『んー?燭台切と一期のやつが、いったん脇差以上の刀剣で話し合うていってたぞ・・・あ』
『あー・・・左文字には喋っちまったな。短刀にはまだ言うなつって左文字の長男に言われてた、な』

『江雪兄様が?歯切れ悪いけど・・・』
『同田貫は、江雪が苦手だからな』
『よ、余計なこというんじゃねえよ!』
『はははっ!』

『(確かに相性悪そう)』

江雪兄様と同田貫さんは仲が悪くはないけど、だから良いてわけもなく、互いの思考の違いで少々折り合いが悪いらしかった。でも、そこらへんは険悪にはならないようにしている様だ。

それにしてもあの男は本格的に、審神者として動きだすつもりなのだろうか。でも、相変わらず勝手な人間だ。散々、放置しといてそんな話し合いもなしに強引に。

『あ、小夜』
『御手杵さん、何?』
『時期に短刀にも伝わると思うから、俺らが喋ったこと内緒な?』
『・・・うん』

くしゃりと、御手杵さんは大きな手で僕の頭を撫でた。さり気なく口止めしたなこの人。でも、御手杵さんは黙りこんだ僕を思っての行動だと思った。この人は意外とそんな気遣いをする人だ。だから、突くこと以外出来ないわけじゃないのにな。


撫でられ続けながら、ひっそりとそう思うのだった。



異様な速度で実る畑の隅に植えた柿の木から実を採り、台所内に入ると燭台切さんと大倶利伽羅さんが深刻そうに話している。最近、あの男の行動で他の人達が深刻そうに話し込んでいるのを見かけるのが多くなってきていた。

『料理て難しいものなんだね・・・うーん』
『これだけか。全員分が出来ないのなら、この件は置いといた方がいいんじゃないのか』
『柿とか水洗いしてそのまま食べれるものがあるからまだいいんだけど・・・でも、出来ることはしたいんだよね』
『それは、無理だろう。あの審神者が俺達のすることに難癖をつけ始めた』
『それが、問題なんだよね』

(食事関連のこと話しているんだ・・・ついにそこまで口出しされはじめたのか)

燭台切さんの言葉に、大倶利伽羅さんが淡々と返す。
あまり人と関わりたがらない大倶利伽羅さん。昔馴染みの燭台切さんがなにかと世話を焼いてるらしくて、それにほだされているのかわからないけれど彼に対しては若干態度が柔らかいように思う。あと、他の人ととも必要とあれば話してはいる・・・僕がそう思ってるだけだけど。

それと、大倶利伽羅さんはあまり僕等に近付きしないけど、決められた役割はちゃんとする人だ。この本丸は刀剣だけで手入や刀装をしているので、それも内番に組み込まれているんだけど大倶利伽羅さんは刀装を製作するのが得意で、刀装係に就任していた。今はやってないけど、鍛刀も彼が受けもっていた。燭台切さんから聞いたら、鍛刀の妖精と仲がいいらしい。
(そんな、部分があるからかな?近寄りがたい雰囲気してるけど、喋ってみたらそうじゃないの)

『お?こんな場所にいるのは珍しい面子だな。小夜と、旦那達?特に倶利伽羅の旦那』

僕が台所の入り口付近でつっ立っていると、背後から声が聞こえたーーー薬研だ。

(確かにここで二人いるのは珍しいか。僕はたまたまだよ)

『あ、小夜君と薬研君。小夜君は・・・柿を洗いに来たんだね?切り分けようか?』

『ほっとけ』

燭台切さんが穏やかに声をかけてくれる。
大倶利伽羅さんは何時もの仏頂面で一言呟き、台所内から出ていってしまった。

『倶利ちゃんてば』

燭台切さんはやれやれとしたように、机のモノをさっと片付けようとした。それに、気付いた薬研は燭台切さんに話しかけた

『人間の食事にはなっているのにな』

『そうなんだよね。でも、このくらいしか作れないかな。畑も結構頑張ったんだけど、あんまり量が増やせなくてね。それにどうやら、僕等の主≠ヘ僕等が人間のような生活を振舞うのが気にいらないみたい・・・あ、これ食べる?』

畑仕事や人間のような生活を送ることを禁じる≠ニつい最近、あの男からそんなことを僕ら刀剣達に主命した。もともと最低限のことしかしてなかったのもあり、それはすんなり受け入れられたのだけど、気持ち的に勝手にしろと一年近く放置されていた僕等はなんだが納得出来ないもやもやした感情を抱いている。

『・・・いや、いい。やるなら他の兄弟にあげてやってくれ。本当は俺っちもそれに参加はしたかったんだけどな。調理の基本を覚える前に、こんなこともやらなきゃならねえとは思わなかったからねえ・・・』

燭台切さんが机の料理を薬研に勧めるけど、薬研は手に持っていた絡繰りで作った書類をポンと手ではたきながら他の粟田口にと言った。

燭台切さんは一応料理が出来るらしいので、何度かこっそりと試していた。作ったものは全員に行き届かないので、その時その時で僕等にくれようとするけど・・・なんとなく悪い気がして断ってしまう。秋田や他の粟田口の短刀達は素直に嬉しそうに食べてるから、それはそれでいいと思う。

『そっか。小夜君は柿があるからいいのかな?』
『え、うん』

『あの人、柿の木のことや他のちょっとしたそのまま食べれる食べ物については気付いてないみたいなんだよね。結構見渡せばあるのに・・・興味ないのか、育ててることを知らないのか・・・なんか抜けてるよね。そこが幸いなのか不幸なのか』

『・・・そのいい加減な部分の隙をつけないか』

『薬研・・・何か言った?』
『なんでもないさ』

燭台切さんがあの男のいい加減なところを言ってる間、何か薬研が呟いた。僕はそれを聞き取れなくて尋ねると、誤魔化された。


たいしたことじゃないのかな?さて、柿を洗おう。



15/6/21

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