刀装シリーズ | ナノ






今は未だ平穏


鶴丸さんを仲間に迎えてから、また幾つかの月日が経つ。その間に本丸の仲間は、短刀、脇差、打刀、太刀、槍、薙刀と少しずつ増え続けた。審神者にレアと称されるらしい、江雪兄様や一期一振さんは来たのに、何故か大太刀の刀剣は来なかった。そういうこともあるらしいと薬研が言っていた。

『縁≠ェないのかもな』

『縁=H』

ぱそこん≠ニいう人間の絡繰りを器用に使いながら、顔をえきしょうがめん≠ノ向け指先をでこぼこした板に滑らに打ち込みながら話す薬研。近くで、柿を食べていた僕は薬研の呟きに尋ねた。庭先から、他の短刀達の遊ぶ声が聞こえる。

『ーー審神者によって、本丸に来る刀剣の種類が偏る場合があるらしいぜ。打刀が来やすいのは何処でも共通してるらしいな・・・刀派で来やすいのもあるみたいだ。中には、鍛刀がまったく出来ないけど、刀装や手入だけ異常に出来る性質を持つ審神者もいるらしい。ここでは、刀剣だけが鍛刀行なうが、普通は審神者と近侍の刀剣との共同で妖精に依頼する。鍛刀をする時に、一緒の近侍に近しい・・・か?ーー関わりのある者を呼び寄せることが出来る場合もあるみたいだな』

かたかたっと小さな音を響かせながら、饒舌に喋る薬研。同時進行にしてるのが、いつも凄いと思ってる。初期の頃は破壊しようとしていたこのぱそこん≠焉A薬研は月日が経つ内に必死に独学で学んで使いこなせるようになった。それで、後からきかい(僕は絡繰りと呼んでいる)に強そうな人達に教えられるまでになる。長谷部さんとか燭台切さんは薬研並とまでいかないけど、使えるらしい。・・・歌仙さんはちょっと苦手みたいだけど、刀剣の中でもぱそこんのきかいに強い方である。鶴丸さんは色んな不安があるから、一人で触らせないようにしているらしい。

『まあ、要は総ての刀剣を集めるには運もあるってことだ。来なかったら来なかっただ』

『兄様達いるしね』

薬研がその話はしめるように言う。この時、僕達の兄弟はもう既に来てるのでそこまで鍛刀やどろっぷ≠ノ執着がなかったための発言だ。審神者と違い、刀剣(一部以外)の方の認識は結構こんな感じが多い。でも、主の願いや必死にしてる所なんか見ると応援したくなるのだろう。なんだかんだ言いつつ協力するのだ。主の為に。・・・ここでは関係ないけど。

『ーーさてと、今月の報告書が完成した。休憩するか・・・小夜も一緒にに着いてくるか?』

『僕は何もしてないけど、行く。あ、柿を食べる?』

『食う』

両腕を伸ばし、伸びをする薬研がこちらに目線を向け聞いてきてくれた。僕は答えると、手元にあった柿を勧める。薬研は一口に切った柿を片手で豪快に鷲掴みし口の中に放り込む。この仕草、実は僕と今剣の前でしかしない。
鯰尾さんにはバレてるらしいけど、他の兄弟や他の人達の前では行儀が悪いからって手本みたい行動する。前に、燭台切さんと一期さんの前でうっかりしちゃったせいで怒られたみたい。少しくらい見逃して欲しいと、不貞腐れながらぼやく薬研は外見の姿と相まってて、普段の彼らしくはないけどそういう一面もあるって知れて意外だなと思った。それが特別なことのように感じて、嬉しかったのは僕と今剣の秘密だった。

外の方から、今剣の声が聞こえてくる。他の短刀達と混じって鬼ごっこしてるみたいだ。続いて、岩融さんの大きな声が聞こえる、どうやらあの人が鬼のようだ。
『いわとおしー!ぼくがあいてですよ!』『おう、相手をしようぞ!』『鬼ごっこはそういう遊びじゃないですよ!』『自由だな!』
・・・と聞こえてくる声達に僕と薬研は笑いあう。旧知の仲である岩融さんが来てから、更に活発なった今剣は毎日楽しそうだ。


『あれに、混ざるか?』

悪戯を思いついたように笑う薬研に、僕は頷いた。



前を行く薬研の背中を見ながらあの時のことを思い出す。
今剣と仲良くなった後の出陣の際に、初めて助けてくれたこと、頼ることを教えてくれたのは薬研だった。

口を開けばーーー復讐、復讐という僕の、性格は自分で言うのもなんだけど厄介だと思う。
小夜左文字≠ニいう刀が持つあの過去が僕をずっとなにかに縛り続けている。だからって別に、それを背負い続けることを放棄したいわけじゃない。今剣に僕が気付いていなかった自分の別の一面を教えてもらってから、もう少しだけ物事を前向きに捉えられたらいいのにと思うようになった。だけどすぐになんて変われないから・・・僕なんかに気遣ってくれるみんなが優しくて、暖かくてどういう風に関わればいいのかわからないままだった。

それ故に、何かしなくてはと出陣で無茶な戦いをして体制を崩した。

敵の一撃必殺が避けられなく受ける覚悟をした時にーーー薬研が僕を庇うように目の前に立ちはだかり、敵の攻撃を避け柄まで通し倒す。こちらを振り向いた薬研は、怒りと、でも無事だなと安堵したような奇妙な表情で僕を見た。

『なんで、あんな無茶するんだ!あんたはまだ練度が低いんだ!それに加えて数回しか出陣してないんだろ・・・焦ることなんざねえぞ』

『別にこのくらい大丈夫だよ。敵は多く殺さなきゃ、復讐を』

『敵を殺らなきゃなんねえのはわかる・・・でも、全然大丈夫じゃない。脇腹を見せてみろ、その前に受けた攻撃であばら一本イッただろう?て、見せる訳ねえか、触るぞ』

『・・・っ』

薬研の叱るような台詞につい反発して言い返すが、あの戦いの中で僕の様子を見ていたことに動揺する。そして、バレてないと思っていた傷をあっさり見破られる。触られた感触で脇腹に鋭い痛みが走った。

『ほーら痛いだろ。手入をしてもらうの嫌だろうけどな、俺っちも一緒についててやるから諦めろ』

『・・・こんなの擦り傷だよ。確かに、今は薬研の方が・・・』

『どの口がいう?あんたは短刀の中でも能力は総合的に上なんだ、特に群を抜いて生存と必殺は申し分ない。あとは練度と経験だ。だから、焦るなーーもう少し俺らを頼れ』

『・・・!充分頼ってるよ。それに・・・僕こんな性格だし・・・』

まるで、会話すればするほど駄々をこねているような気分になってきて情けなくなってくる。自然にさりげなく僕を褒める、薬研の器量にもう何も言えなくなってきた。しかも、頼れとか。

『まあ、あんたが何言おうが性格がどうのとか関係ない、俺っちがこの部隊にいる限りあんたをーー仲間をむざむざ折らせるつもりはないさ。俺≠フ仲間になったんだ諦めて覚悟しろよ』

口説き文句にも聞こえるその台詞に僕は完全に敗北した。
だけれど、すべて前向きな方向に考えられはしないものの、若干僕自身の言動とか・・・雰囲気柔らかくなったと思う。あとできた宗三兄様や江雪兄様が、こんな僕を見て驚かれたものの柔らかな表情で抱きしめてくれたのと、薬研とのあの件は大切な思い出だ。


ちなみに、一緒に戦っていた歌仙さんと今剣がこんな会話していたことを僕は知らない。

『薬研は本当に短刀なのかい?』
『さあ?やげんはみためはたんとう、こころはたちでもいいじゃないですか?ぼくはなぎなたくらいのきがいをかんじます!』
『大太刀ではなく薙刀。そうかもしれねいね・・・でも雅ではないね。男らしさすぎて』
『かせんはそればっかりです』






賑やかになる本丸、住人が増えるのは喜ばしいことだけれど同時に問題もある。

『なかなか・・・うまくいきませんね』

『そうだね、どこがいけないのかな?畑を耕して食料を得たいんだけれど・・・』

『刀剣が飯食う必要ねーだろ』

『でも、あのぱそこん?ていう驚きのやつに・・・映されてた飯は美味そうに見えたぞ!』

『鶴丸殿、少々落ち着き下され』


もともと食事を摂ってなかった僕ら初期組や大方の刀剣達は特に食事について必要としていなかった。でも、僕等にも個々があるわけで様々な考え方や出来る人がいるため、空腹を感じているなら食事をしてもいいのでは?やら、なら畑を開墾してみては?などという意見がでた。

提案者として畑を開墾をしようと動いたのは、燭台切さん、江雪兄様だ。それと鶴丸さんと一期さんが手伝いをしている。食事には驚きがつまってると探究心を発揮させて、よけいなことをやらかして江雪兄様と一期さんに冷めた目で見られ、怒られていた、割にちゃんと畑仕事を行ってるので、はぶられてはいないみたいだ。それは、食事は必要ないと言ってる同田貫さんにもいえることだけど。当番といわれればこの人は真面目な人だからさぼりはしなかった。
むしろ御手杵さんの方が畑仕事から脱走していた。蜻蛉切さんと同田貫さんによく回収されてるけど。

これだけの人数でやってるものの少しは収穫できるらしい。ただ量を増やしたいらしいけれど、なかなか上手くいかないようだ。そこら辺は、燭台切さんが薬研に相談して、薬研が本丸のことを書かれた書物など読み漁って探している。その一説に《審神者》の協力が必要と書かれたていたのを苦虫潰した表情で話していた。

『兄上達よくやりますね。貴方もそう思いません?』

畑の近くで話し合う五人を遠目に見ながら、縁側で一緒に座っていた内番姿の宗三兄様が、憂鬱そうにため息を吐く。同じく縁側で、だいぶ距離はあるけど腰掛けていた哀愁漂う大倶利伽羅さんに話しかける。二人とも燭台切さんと江雪兄様に巻き込まれた類なので、すごく仲はいいとはいわないけど世間話するくらいにはそこそこの関係を築いていた。

『諦めた。審神者にさえ関わらなければいい』

『そうですね・・・同感です。といいますか、やはりあれ≠フ力がなければ作用しないんでしょうか』

『あいつらも気付いているだろ。だから、他の方法を探している』

『唯一あれ≠ェ僕らに、好き勝手にしろといって必要最低限しか関わってこないのが救いなんでしょうかね。僕等を、時たま見るねっとりした視線は気色悪いですけれど・・・』

・・・あの男を好き勝手にいう二人も、恒例の面通しを受けてから僕等と同じような心境みたいだ。二人だけじゃなく他の面々も、あの男の態度と行動にもう何も期待せず必要最低限の関係を築けていればいいかと諦観している。それでも、主≠ノ執着のある長谷部さんとか加州さんとかは周りの人達が気をそらせる努力をしていた。あの時、深く関われば何かしらの悪寒を抱いた初期組が、後から来た刀剣達に一応説明していたのだ。案の定、ねっとりを受けた中性的な綺麗顔立ちの兄様達とか脇差、短刀達はあらかじめ対策を立てといたので・・・いまのところ、変なことはおこっていない。性格等で、好みが左右するみたい。知りたくなかったけど。

今一番、危ないのが藤四郎兄弟の乱で、しつこくねっとりと遠目から乱を眺めているあの男の姿を発見したらしい一期さんが、苦悶した表情で少女らしい格好を正すよう苦言していた。弟達の個性を愛しているあの人はできればあまりいいたくないようだった。
乱に関しては鯰尾さんも気にかけているようで、いざとなったらといって投石の練習をしていた。骨喰さんが呆れたように見ていたけれど、結局、同じように練習していた。他の短刀達までそれは広がっていたのを見て、鶴丸さんが藤四郎兄弟は本当に仲良いなと珍しく驚きを仕掛けず優しい表情で見守っていた。

乱はその心配に気付きつつも大丈夫だといって、いまだ格好は変えていない。乱から直接聞いたけれど、目線がきつくなってきたら髪を切ってなるべく男らしく振舞うと言っていた。服装も変えた方がいいとも思う。薬研との会話のあと大太刀の次郎太刀さんが来たので、あの男が次郎さんにビビっていたらしいから大丈夫のこと。そりゃ、あの人迫力あるけど。

『ああ、ほら小夜』

『兄様、何?』

『柿を剥きましたよ、食べましょうか』

『食べる』

大倶利伽羅さんと話おえた、宗三兄様はいつの間にか柿を剥いてくれていた。
幸せな気分でしゃりしゃり柿を頬張る僕を、兄様は普段の鬱鬱とした雰囲気を潜ませ柔らかな様子で僕の頭を撫でてくれた。

どこの兄も弟には甘いらしい。

これが兄弟≠ネのかな?



15/6/9

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