刀装シリーズ | ナノ






語る短刀の昔話1


この本丸≠ノは、僕ーーー小夜左文字と今剣、薬研藤四郎、鯰尾藤四郎、鶴丸国永、御手杵の六振と、審神者の姉様、迷いこんで来て仲間になった燭台切光忠、大倶利伽羅、同田貫正国の三振が、暮らしている。ここの本丸は理由があって、現在通常で行われる本丸業務を放棄。政府に関与されずむしろ放置状態、なので緩やかに自分達で好き勝手にしている。戦事に飢えた槍と太刀組の要望もあり、練度上げも兼ねて出陣は自主的に行ってはいる。


審神者姉様が此処≠ノ来てから、一年と半年が経つ。あの人の行動はいつも斜め方向に行ったりするのでその間に様々なことがあった。つい先日大事件も起こったりした。そんなーーー審神者姉様が最近少し可笑しい。いや、常に可笑しいけど。何か僕等に聞きたそうにするのに、口を開けたり口を閉じたりを何度か繰り返している。

それはこの前の大事件、厚樫山に飛び出して行った件くらいからだ。

この事件は審神者姉様と山菜採りに行こうとして色んな要因が重なり、結果的に審神者姉様が厚樫山に一人で、迷子でいいか・・・迷子になって通りすがりの刀剣に保護されて、鶴丸さんが迎えにいって一応無事に終わった。鶴丸さんにだいたいの概要は聞いたけど、姉様を保護した例の人≠ニどんな話したかは教えてくれなかった・・・その鶴丸さんも少し、考えていることが多くなったけど・・・僕の気のせいなのかな・・・雰囲気が怖いような気がする。薬研や今剣に聞くと、それぞれ何かしら感じてるようだ。鯰尾さんがぽそっと。

穏便に済めばいいけど・・・≠フつぶやきが頭に残っている。


ーーーでも、姉様も鶴丸さんも普段通りに行動が突っ走しってるのもあるのでしばらく様子見だ。何かまたやらかしそうだ、と薬研を筆頭にみんなため息をはいていた。




そこら中から蝉の鳴き声が聞こえてくる。季節は夏に変わっていた・・・といっても、景観が変わる装置を押すだけと審神者姉様がいっていた。但しそれに加えて気温の変化もあるので、姉様は未来の技術てどこまで進化した、とこの暑さにバテながらぼやいていた。

この景観の設定は薬研がこの本丸に来た頃に、審神者の業務や本丸の機能とやらを隅々まで調べていた際に発見したらしい。しかし、発見したのはいいものの、季節を楽しむ機会が無くそのまま忘れられていたもので、姉様は前の審神者とは違い季節ごとの景色を見るのが好きらしく、ここに来てから幾つかの月をまたいだ頃に薬研に景色、もしかして変えられる?と聞いたのがきっかけ。
そういえば・・・と思い出して、それを教えてあげたら早速試したらしい。

姉様が現世からこの本丸に来た時の季節で、春≠フ庭に変えれば瞬く間に、桜の花弁が風で舞い散る美しい光景になった。あの時、その場に全員が集まっていたから少しお祭り騒ぎだった。みんな人の姿になってから初めて季節≠ニいうの感じたので、感無量だったと・・・思う。
とても嬉しそうに喜びながらお礼をいう姉様に、薬研は虚をつかれた表情してから、少し照れくさそうに頬を掻きながら笑っていた。薬研のそんな表情は久しぶりに見たから・・・少しだけ驚いたけどでも同時に嬉しかった。あの頃≠フ薬研はずっと気を緩ませず色んなものを背負ってふん張っていたから・・・ようやく、と。

あとで、姉様が奇妙な物体を弄りながら、景観てものすごく値段が高価だったらしく、前の審神者が御上の人間達に優遇されていたせいなのか本丸内の景色の衣替えがほとんど揃っていたことに複雑そうだった。なんだかなぁ・・・と僕等を見ていうから、気にしないでというと顔面を撫でてきた。今思えば、頭を撫でてたつもりだったのかな?


そんなこんなで姉様が夏に変わったので、季節の変わり目の大掃除と称しこれを機に、本丸内の点検や掃除がちゃんとできてないからしばらく出陣・遠征を止めて、掃除週間にしようと提案してきた。そこら辺は、暇を持て余した刀装兵や妖精が動物達に乗ってちょこちょこしてくれていたけれど、あの子達にも見れる範囲にもやれることにも限界があった。そういえば外に出ていくようになってから疎かになっていたかもしれない。小さい奴らに頼りすぎていたなと、思って全員頷いた。一部の人達はあまり乗り気ではなかったけれど、現在の状況で点検を怠り結界の綻びをついて大掛かりな奇襲される場合もあるから、油断は禁物と渋々納得していた。

本丸の大掃除は本丸内の住民全員でするとして、二人一組でそれぞれ少人数でできるところを先にしようとなった。くじ引きという方法で決めた二人組は、今剣と同田貫さん、鯰尾さんと鶴丸さん、御手杵さんと姉様、薬研と燭台切さん、そしてーーー大倶利伽羅さんと僕、小夜左文字。意外な組み合わせとか、その一組駄目なんじゃないのかなとか偏りが酷いとか、色々思うことあるけど一番困っているのは僕と大倶利伽羅さん。

面と向かいあって・・・話したことない・・・そして、場所は彼等のお墓



「・・・本当にあったのか、墓石」

大倶利伽羅さんが、お墓≠見て呟いた。無意識の内にでたのかな。それのことは途中参入の三人に話しているけど、この人が実際に目にしたのは初めてかもしれない。
他の二人は先に成り行きで見つけたらしい。


それがある場所は、本丸の奥の奥。その隅っこの方に僕等はいた。周りを木々が生い茂り一目見ても、わからないようにしてある。その先を進みーーーそれは、あの人達が何者にも荒らされることのなく静かに眠れるように造られた場所だ。日の光が届くようにしてるから、暗いことはない。

最初にその場所を作ったのは、姉様。墓石ではなく玉鋼を置いてるのは、丁度いいのがそれしかなかったからと言っていた。表面に名が彫られているのは、妖精達があの人達の僅かに漂った神気を探って判断したらしい。妖精達は刀と一心同体といっても過言ではないくらい、お互い対等の関係を築いていた。鍛刀でも手入でもその他でも彼等は僕達を支えてくれていた。だからなのかな、折れた刀だとしても個が一つ一つ判別してくれたのを。この場所知った時その事実を知った時、それぞれどういう風に受けとったかは各自知るところだ。

雑草を抜いて、花を添え、線香を立て、水をかけて、手を合わせ目を閉じる。それを終えてから、そのまま二人何も話すことなくじっと目の前の何十にも置かれたお墓≠見続けていた。

この人が見ているのは自分の名が彫られている玉鋼。

「ここにいた俺は、いや」

大倶利伽羅さんが、尋ねようとしたけど口を閉じた。
馴れ合いを嫌う人だけど、やるべきことはやる人だから僕と一緒に作業してくれてほっとしていた。このまま、何も聞かないのかなと思っていたけれど、また無意識の内に呟きでる。もしかして動揺してるのかな。ここにいたこの人≠ェ折れた時のことを思い出して、ぽろりとこぼれた。

「ここに眠ってる人達は、みんな誰かを守って守ろうとして折れていったんだ」

僕も大倶利伽羅さんも、あまり人付き合いが上手くない方だ。正直、どのように関わればいいのかお互いわからないと思う。普段、僕には今剣が大倶利伽羅さんには燭台切さんとかみんなが引っ張ってくれるというか・・・この人に話してみよう。でも、僕が話してもいいんだろうか。少しの不安。

「・・・僕等のこと、この本丸の昔話聞いてくれる?」

不安だけど意を決して話しかけてみた。ついと、こちらと目があったのち、木蔭に連れてかれて地面に座り聞く体制をとってくれた・・・のかな?聞いてくれると解釈して、どう喋りだそうと思考を巡らせる。こう言ったものの、こうすんなりいくと思わなくて焦る。

ーーーでも、この本丸に居続けるなら、いずれは知るだろう。


この折れた刀達の話を。彼女がここを少しずつ変えていった昔話。



15/6/5

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