刀装シリーズ | ナノ






ブラック本丸へやらかしに行く


「ふむ・・・近頃、無理な行軍を行う本丸が増えたな」

木々の合間に身を忍ばせ、厚樫の山へと出陣してくる様々な本丸の部隊の様子を見る。

三日月宗近の趣味の一つは、はいか・・・散歩。厚樫の山で暮らし始め月日は何十年も経っている、この山の地形を網羅するまでに三日月は熟知していた。故に、潜んでも隠れて相手が観察出来る場所を山ほど知っている。



自身のような刀を探しにくるのは勿論のこと、第三勢力が落とす刀を目的に動く本丸が増えた。無理な行軍をするものの大半の本丸は手入をしっかりし休憩は与えているようなのでそこまで危惧するまでもない。しかし、一部。可笑しな部隊が見かけることが多くなった。

そう思考していると、肩に乗っていた刀装兵が髪を引っ張る感覚に其方を向いた。視線がかち合い、刀装兵がその小さな手である方向を示す。

ほう、と息をつく。これは、また。

「幾度とみかけたが、あそこの部隊・・・雰囲気も可笑しいがーーー鬼落ちか闇落ちしそうな輩で構成されておるな。もう暫くしたら、完璧に堕ちそうだ」

示された先にはある部隊が、本陣である歴史修正主義者と戦闘を行っていた。
山姥切国広、一期一振、江雪左文字、石切丸、鶴丸国永、鶯丸。審神者達のいう、レア四振入れての編成。
闘いぶりからして、練度もそうとう高いことが窺えよう。だが、毎回見るたび。ほぼ全員負傷しているまま、刀装もろくにつけていないことが共通していた。

「刀が落ちなかったか」

なんとか勝利したようだが、暗い表情のまま帰城する姿。特に一期一振と江雪左文字の表情は悲愴に満ちている。

「あの二人は弟達を盾にとられることが多いからな、今回もそうか?」

自分自身が以前≠「た場所もさることもながら、今の状態≠ナこれまで様々な本丸に潜り込んできた。そしてあの部隊のように共通してだいたいあの二振は、犠牲になりやすい弟の短刀や打刀、脇差を条件にされて苦労していることが多かった。

良くないことを思いだしてしまった。それは、人の下につく気はない理由とは別に、最近自身が本丸や部隊に近寄らない理由だった。


前々回、守りもしない約束をして苦しむ様を見て愉しむものがいた。その時は約束≠フ言霊を利用してそれ相応の仕返しをしてやったが、結局その時のその二振は大切な者を守りきれなかったことに悔いて自ら自壊した。苦しかっただろうに、澄んだ表情で助けてくれたという礼と、それでも破壊を選んだ詫びのあの時の記憶が蘇る。

三日月は無意識の内に目を細めた。視線の先は去りゆく部隊の様子だ。
足がよろけた中傷の一期一振を石切丸が支えてやる姿や、重傷の山姥切国広を鶯丸が背負う姿、鶴丸国永と江雪左文字がその二組を援護するような辺りの警戒する位置での姿に仲間内の心遣いはあるらしかった。でもーーー取り巻いている見覚えある靄の黒さに、時間がないことを告げている。


解放の手助けをしてやることは出来ても、心までは助けてやれない。百年近く過ぎても、何百回本丸を渡っても、そんな本丸の刀剣達を本当の意味で助けてやれたのは十にも満たない。あれもまた一種の救い≠セと言われたこともあったが、三日月はそうには思えなかった。

遠い遠い昔の記憶の中、一番最初の本丸。歴史修正主義者と戦いながら傷ついても、穏やかな日常を本丸で暮らす幸せそうな彼らの姿は、大切な記憶である。・・・あれが、尊ぶべき本来の形。





それでもーーーあの時守れなかった約束、ずっと。


何か伝わったのかゆるゆると髪を引っ張り、どうするの?と言いたげな刀装兵がこちらをじっと見ていた。少し寂しそうな表情をしている。



その、小さな頭を指で撫でた。

「今日の所は帰るか」

どうするか、決めてはあるのだ。




お馴染みの山小屋に帰れば、赤眼達が暇潰しに手合わせをしていた。
そして、一部が俺の目を狙って攻撃してくるのをかわし、話し合いをするので収集をかける。かわした一部の赤眼は勢いが止まらないので、そのまま壁にぶち当たりめり込んでいる。形がつくのが増えつつある。そろそろやめてほしいのだが、懲りずに何回も繰り返す。学習能力のない奴め・・・が、最近は同胞である他の赤眼達まで呆れた眼で見られてるので少し可哀想だと思わないこともない。だからといって攻撃を食らうつもりはない。

それにしてもえげつないな。刀装兵達が常に用いる先制攻撃の一種で使っているが、毎回、向こうから断末魔が上がっているので、痛そうに思う。ん?棚に上げているのは重々承知だ。




「明日、とある本丸に潜入しようかと思う」

その言葉に赤眼や刀装兵達が動揺する。その中に、壁にめり込んでいたのを引っこ抜きずるずると引きづり話の輪の中に戻る赤眼達もいる。散々、小狐丸の本丸勧誘や捕獲しに来た本丸の参入を、拒んでいる俺の行動を知っているからこその反応と分かる。

「意外か?前々回と前回。潜入してから数年経っておるから、そろそろ動き出そうかと思ってな」



時の政府とやらが自身の存在を認識していて放置しているとはいえ、審神者や本丸の潜入は関わることは慎重にしなければならない。曖昧な境界線にいる俺にとって、特に審神者のいる*{丸は敵陣に潜入することに等しい。舐めきってうっかりしていると、厄介な審神者に当たった時やることを終えてすっと立ち去ることが難しくなる。

これは刀剣男士として顕現して数年くらいの時の失敗談だったりするが。日が浅かったともいう。人の姿をとって顕現するのは短くそれ故、若かったのだろう。堕ちた後は大いに暴れたり、諸々破壊したものだ。それから、少し落ち着けばまた人の手に渡るが色々と荒れていた。一部の下郎以外は、手出しはしなかったが折り合いつかず和解することもなかった。・・・優しい者もいたが。

何度も失敗して何度も望んだ結末を迎えることが出来なく。その間、時は過ぎて数百年たった今。自称爺を名乗っているが、刀だった頃は千年、刀剣男士として数百年。堂々と爺と言いきれよう。取り乱すこともなく、今までの経験を生かし何事も冷静に対処や感情を制御できるようになった。はぐらかすのも一段と上手くなった気がする。

たまに、わざと呆けたり腰痛のふりして、他の者に世話焼かれるのもいいなとも思ったりもするが・・・一人暮らししているとそうは言っておられんからな。



まあーーー今は刀装兵と暮らして楽しい日々を過ごしている。赤眼も仲間に加わり一層賑やかになっている。とても、満足している。


「しかし、ああも、堕ちるか思い留まれるかの瀬戸際に立っている者を見ると、手助けしてやりたくなる。さっき見かけた奴らは、まだ思い留まれる方かもしれん。審神者をどうにかすれば、まだ刀として生きてゆくことも選択できるくらいに」

《審神者をどうにかする》という部分に刀装兵達が不穏の方に考えたのか、ころしちゃだめー!と引っ付いてくる。正反対に、目潰し攻撃してきた赤眼を筆頭に、よし殺るか!と便乗してくる。殺る気満々である。いつの間にやら肩に乗って待機する姿に、微妙な手の平返し。爺は複雑だ。

だめにきまってんでしょう!と待機していた赤眼に飛び蹴りを食らわす刀装兵。喧嘩を始めたようだ。審神者に作られた特殊な刀装と、歴史修正主義者の刀装の反応の違いに、思わず笑いが溢れる。歴史修正主義者の刀装兵は、刀剣男士や審神者に敵対する行動をとるのが本来のあり方だろう。こうやって双方穏やかな(一部除いて)に暮らしているのは特殊なことだ。いや、俺のこのような存在も特殊だが。うむ、あれだな。特殊の異常反応を起こしていると思っておこうか。考えるのは放棄しよう。意外となんとかなるものだ。

なんにせよ。引っ付いている刀装兵と赤眼をひっぺ剥がし、目の前に一個ずつ整列させるように置いて今回の件についていう。


「御前達は、今回留守番だ」


ぴっーーー!と猛抗議の声が上がったのは言う間でもない。




仕方ないだろう。黒い靄は隠せても、それでも俺という三日月宗近≠ェ特殊なことに刀剣男士には遅かれ早かれ勘づくだろう。三条の刀剣がいるなら尚更早いだろう。審神者が気づくかどうか、運に任せる。実際、姿を見ないと判断できないからな。そんな特殊な状態で、刀装兵を装備してるのを見つかりでもしたら間違いなく不審感を抱かれる。


さて、ドロップの仕方どうやったけ、かな?



「これが・・・!これが三日月宗近=Iついに、ついに俺は手に入れたぞ!!!!これで、あいつらに堂々と見せつけてやれる!俺が優れていることが!あはははは!」

ちと煩いなこの豚。ああ、違ったこの審神者。

あと臭いがきつい。魂が薄汚れた者が発する特有の臭いだ。自分が決めたこととはいえ・・・久方ぶりの下劣な人間の姿は結構、精神にくるな。



あの話し合いの後、刀装達に留守番を言い渡し。日が変わったのを確認して、いつものように厚樫山で様子を見ながらあの部隊を探す。連日出陣してるようだから敵の本陣近く、見つからないように待機した。で、先程、本陣にあの部隊がやってきたのを確認にしてドロップしたように見せて現れた。
本陣に何度も向かっているので、おそらく俺目当てか?とは予測していたがどうかな、と思っていたがほっとしたような表情から確信を得られた。その表情の多い中、どうやら石切丸だけが俺に何か感づいたようだが、結局何も言わずそのまま連れて帰られたというわけだ。

「・・・それにしても喋らないな。まあ、優美だし、その方は様になっているからいいだろう」

口元を隠すような仕草で鼻を着物の袖で摘み隠しながら、よく何を考えてるのかわからないと言われる表情を浮かべる。相手はそれに気づかず優美に笑っていると思いこんでいるため、上手いこと勘違いしている。こうなればまず序盤は上々だ。


・・・ふむ。しかし、この人間。可笑しいな。

(刀剣との本来ある主従の繋がりを無理矢理繋いでいるように見えるぞ?)

審神者を観察していると繋がりに違和感を感じとる。周りにいる刀剣の表情も必死に色んなものを押し殺そうとしている。


「主殿!三日月殿は連れて来ました!どうかっ、弟達の手入れを!」

「うるさい!せっかくの三日月のドロップだぞ!そんなの後だ!元はと言えば、お前らが役に立たないから、俺が惨めな思いをしたんだ!」

ガンッ

「ぐっ」
「一期!」

膝間つく態勢で一期一振が審神者に弟達の手入を望むが、その必死な望みを一蹴し。罵詈雑言を吐き、一期一振の頭を蹴りつけた。衝撃で態勢をとれず倒れこみ、鶴丸国永が駆け寄って抱き起こす。ただでさえ一期一振は中傷を負っている。人間程度の力といえどかなり体の方に負担が大きいはず。

(・・・随分な扱いだ)

「とにかく、俺はやることある。おい、お前!三日月はいったんあの部屋に連れておけ。後で、楽しまないと・・・いけないからな」

一瞥もなく、審神者は石切丸に指示を出す。それから、俺の方を向き厭らしい笑みを浮かべながら、体に触れた。

(気色悪い)

思わずぶっ飛ばそうとしてしまいそうだったが、それをやると確実に審神者が死んでしまうので自身を落ち着かせる。やれやれ、俺もまだまだ。

審神者はさっさと何処かへ向かいその場から姿を消した。残されたものは自分たちの場所を戻っていった。

「此方に」

硬い表情のままの石切丸が、指示通り俺をあの部屋≠ニやらに連れていくようだ。長年の勘か、あの審神者の言葉と表情を見れば、良さそうな場所ではないと告げている。いかがわしいことする部屋だろう。

あの審神者をどうするかは決めてあるが・・・さて、この石切丸とどう話をつけようか?



15/8/16

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