刀装シリーズ | ナノ






刀装兵を可愛いがりたい1

ポカポカと気持ちのいい日差しと、小さな畑の中で作業する人間一人と小さきもの。


「刀装一号ちゃん!この前、タネを蒔いたところに野菜ができてた!うおお、すごいわー相変わらずこの畑!」
「ぴっ!」

右肩に乗る刀装兵と私は喜びを分かち合う。異様なスピードで実るこの畑の構造を、考えることはとっくの昔に放棄している。そちらに気をとられていた私の頬に、ちょいちょいとした感触がある。ゆるりと左肩に乗っている刀装二号ちゃんを見た。

「ぴっ!」

どうやら米の方も収穫できるらしい。うむ、よきかな。・・・うん、本当にどうなってるんだこの畑は。そう疑問を持ちつつも満足気にしていると、今度は頭の方で髪が引っ張られる感触がする。痛くはない。少しくすぐったい。

「刀装三号ちゃん、どうした?」
「ぴいっ! 」
「あー、そっかお腹空いたか!昨日、川で獲ってきた魚も皆で夜ご飯に食べちゃったしなあ。乾物にしたいけど素人だし分かんねーわ」
「ぴっ?」
「え、鍛力のとこと手入にいる妖精さんがそれできるの?なにそれすごい。チート!」

そういえば、小さな刀の一つも卒なく色々なことをこなしていたな。もう最近・・・私なにもしてないや。ちょっと危機感。あ、刀様の手入くらいはしてたわ。 今日も大きな槍と中ぐらいの刀が魚を獲ってきてくれるというし、とりあえず頭の上にいる三号ちゃん曰く妖精さん達がなんとかしてくれるみたいだ。早速、鍛力と手入部屋に直撃しようと思う。交渉はしようぜ!交渉しなくても快く引き受けてくれるだろうけどな!

ふと、現代では観光スポットくらいにしかないデカい城を見るーーーここに来て一年も経つんだなあ、としみじみと思った。 この一年本当に色んなことがあった。話すにはとても摩訶不思議なことだと私は思っている。 まあ刀様達曰くそう不思議なことでもないらしいが、普通の人間である(はず)私にとってショッキングだったのよ。


でも。
右左、頭の上の刀装ちゃん達が私の髪を三つ編みにし始めたのを見て
うん、今日も平和だ。
と思うんですよ。

決して現実逃避ではないことを言っておく。


拝啓、爺ちゃん、婆ちゃんへ今日も私は緩やかにサバイバル()してます。早く家に帰りたいのですが、色んな事情で帰れないです。 といいますか、半年前に政府()にキレて楯突いたせいで、現世?との連絡手段が一方的に途絶えています。その直後は戸惑ったりしましたが、爺ちゃん直伝のサバイバル知識と、刀装ちゃん含めた妖精さん達と、刀の姿なのに何かと凄い刀の付喪神?の刀様達という愉快な面々のおかげなんとか今日も生きてます。そう思ってないとやってられない。

そもそもあいつらは何をしたいんだと常々思ってます。 この一年、私は今まで生きていた中でとんでもない理不尽な扱いを受けています。

帰宅中に誘拐されて、この城を浄化?して清掃して刀を直して、偉い人が住むから人が住める場所にしろとか言われましたが当時の私には理解不能です。今でも理解できるかっです!
(内心・・・ぱっと見はまともな大人の人に見えるのに、刀とかなんとかいうとんでもない電波に捕まってしまったとガクブルしていました)

色々と説明みたいなことが言っていましたが、誘拐?むしろ拉致?された人間が冷静になんてなれないのが普通です。でも、こちらの家族構成と私の生い立ちみたいなもの知っているうえ、脅迫するようなこと言われたらどうしようもないです。 携帯も没収され、高校生といっても子供である私には、恐ろしい国家権力から逃れる術もこの状況を切り抜ける知恵もなかった、大人しく従うしかなかった、のです・・・思い返したら怒りが沸き上がってきた。

当時、家族に別れも言えず謎の書類に強制的にサインさせられて、必要最低限のものを持たされ後は和風ホラゲーに出てくるような場所に一人ポンっと放置だ。人権とはなんだったのか! 一緒に来た政府の野郎に、詳しいことはここにあるロボット式神(なんという融合)に聞け、そして半年間後に様子を見に来る、一応政府が支給したスマホに状況を報告するようにと言って、さっさと帰った。ちなみに奴は始終偉そうだった、めちゃくちゃ面倒くさそうだった。殺意が芽生えたのは仕方のないことだ。あと、私はガラケー派なんだよ!スマホ使ったことねえよー!


そして、半年間。
私は生と死の綱渡りをしながら、 浄化して(最悪な空気が澄んでいった)
清掃して(血飛沫とか悪臭とか謎の白いカピカピしたものetc・・・Rー18とR18Gのような規制がかかる物体を見つけた時は断末魔の叫びをあげ嘔吐したのはトラウマ)
刀を直して(ヒトモンチャクガアリコレガイチバンクロウシタ)
死にそうだった馬さん達を看病、馬小屋の修理
食料確保の為畑を耕し一通り終わり
妖精さんと仲良くし 刀様達と少しずつ和解し(というかお互い妥協)

半年過ぎた頃 ーーーーそいつは姿を現した。 半年前に私を放置した政府の野郎である。

あの日は・・・今日みたいないい天気の日だった、元気になった馬さん達を世話しながら回収した馬糞を畑の肥料でもしようかなと考えていた時だ。なんか門ゲートのところが騒がしいので、白い刀がなにかやらかしているのかと呑気に考えその場所行くと、奴がいた。 殺気を出しながら白い刀と大きな槍と中ぐらいの刀、数名の刀装ちゃんたちが奴を取り囲んでいた。中央にいる奴は顔を青褪めさせている。

私と目があうと早く刀を降ろさせろと命令してきた。私は殺気を出している刀達をとりあえず諌め・・・びっくりしていた。奴が何の連絡も無しにきたことより、刀達が刀を構えていたこと(刀の姿にしか見えないし)とか普段温厚である刀装ちゃんが殺気を出していることにだ。殺気出させるって何したんだコイツは。 それから、ひとまず安心したのか奴は話し始めた。

見たところ報告通りにこの本丸は機能している、空気も正常である、付喪神の方々は些か血気盛んだか出陣出来るくらいには回復している、一応合格だ。なぜ出陣しないのか、これだから低学歴の子供は。お前がしていることは名誉あることなんだぞ≠ニ延々。

聞いていて不快になる傲慢な物言いに、私だけでなく周りにいる刀達の雰囲気も更に冷えていく。

(コイツは馬鹿なんだろうか、皆いるのにわざわざ言うなよ。出陣てまだ今の皆にとって割りきれないことなのに)

出陣に関しては三ヶ月頃、報告をおえた後に急に出陣しろと言ってきた。ここに放り込まれた時と話が違うと言い返したら、家族がどうなってもいいのかという悪役のような台詞を吐いた。 まあ、私からしたら悪にしか見えない。そもそも出陣てなんだ?と思った。武士か。アレなのか刀だからなのか。 困った私は刀様方にここにきた経緯を話すことにした。出陣のこととか分からないというと驚いていた。思ったより穏やかだったこの話し合い?はみかねた漢らしい小さな刀が、遠征からしはじめることを言ったらいいと譲歩してくれたので、そのこと伝えると色々と煩かったが最終的に渋々、奴も頷いた。

ちなみに最初、報告の仕方がよくわからないので刀様達に聞いたら、詳しいやり方を知っている漢らしい小さな刀の一振が指導してくれた。それがきっかけとなったのか刀達は妙に優しくなった。なんだ同情しているのか同情するなら家に帰してくれ!と思ったのは仕方のないことである。
周りの刀達にヒヤヒヤしながら、奴がようやく話し終えた。それから奴は急ににこやかになり、私にここから立ち去る準備をするように言ってきた。最初何を言っているのか分からなかったがその言葉を理解すると、馬鹿で阿呆な私は喜んでしまった。ようやく家に帰られるのだ!爺ちゃん婆ちゃん私頑張ったよ!と。

何も言わない私を気にしないで、奴は刀様方に媚び売るように言い募っていた。
今更取り繕ってもむりだと思った。

この娘よりも、素晴らしい美しいお方が後日いらっしゃいますよ。霊力も豊富で頭のいいお方です。心優しく貴方がたの事情も把握していますよ。彼女はそのことを聞いて、心を痛めていました。本当にお優しいお方です

なんか感極まったように喋りはじめる奴に引いてしまった。 私の目線から見たら、宙を浮いてる刀達に顔を赤くして言い這い寄る男の図である。

それわざわざ言うことないだろうと思う。その人がいくら素晴らしくてもこの刀様方の受け取り方も様々じゃん。期待値上げるのは着任ハードモードですよ。てか、遠回しに失礼なこといってないか!?とも思うが、突然の帰還宣告にどうでもよくなっていた私。 余りの騒がしさに屋敷の中にいた小さな刀がわらわらとでてくる、鞘に収まった刀の先に刀装ちゃんが一つ一つ乗っている姿が可愛らしくて呼吸困難になりそうだった。どうしたの?と聞いてくる刀達に私は思わず弾んだ声で喋ってしまった。

家に帰ることになったんですよ≠ニ。

今思えば酷いこと言ったかもしれないと思って、後でそれとなく刀様達に聞いたら少しだけ寂しそうなそんな雰囲気を感じた。快活な小さな刀様ははっきりと悲しいと言われて動揺した。

固まった刀達に私は首を傾げた。常々家に帰りたいと愚痴のように言っていた私である。刀達は優し気にいつか帰れるよと話しを聞いてくれていたはずだ。もしかして凄い嬉しそうにしたのがいけなかったのかなと反省した。悪いように受けとめてしまったのか?と。 刀装ちゃん達は良かったね!と言うようにぴょんぴょん跳ねていた。表情は笑顔である。

私も笑顔で奴の方に再び顔を向けた。

奴は何を言っているのだ≠ニいうような顔をしていた。

私が、今度硬直する。そして奴は怒りの形相で次々と言い放った。

誰が帰れるといった。お前にまた別の場所に行ってもらう。ここですることはもう何も無い。人の話を聞かない娘だ。サニワになった以上帰れない。霊力が少しでもあるから試しにここを任せただけ、うまくいったからて調子にのるな。お前みたいな底辺の人間が国の役に立っているんだ、名誉だと思え。愚図愚図しないでさっさと用意しろ

そりゃあもう酷いこと酷いこと。勝手に拉致したのに。 一応神様の目の前だというのによくも悪態をつけるものだ。あと口が軽い。

私はそれよりも帰れないと言う言葉にショックを受けていた。あの愛おしい家に帰るために頑張っていたのだ。それが、帰れない。 唖然とするしかなかった。



流石に口を滑らしたと思った奴はまた取り繕うように言った。 頑張ればいつかは帰れないことも無い、と。 ぶつり、となにかが切れた。溜め込んでいた、押し殺していた感情が爆発した。



15/4/19

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