刀装シリーズ | ナノ






手の上の小さな温もり




三日月宗近は本日何度目の困惑をしていた。



その理由は、目の前にちょこんとと正座して、不束者ですがというようにしている三つの刀装兵だった。

この刀装兵、助けた人間の娘から貰ったものだ。いや、正しくは住処にしている山小屋に帰宅した時、懐を見たらそっと入っていた。まんまるの目をぱちぱちして、目があうとにぱっと笑って、つい撫でてしまった。愛いのう。
気づかなかったからには、この刀装兵の隠密はなかなかのものらしい。そういえば、敵方との抗戦で見事な突きを披露していた。倒せはしないものの、充分な戦闘力である。

「うむ、お主は凄いな」

「ぴっ」

刀装兵は俺の言葉がわかるのか嬉しそうに返事した。


悩んでも仕方ないがない。さて、これからどうしたものか。





三日月は最初こそ、とある審神者に仕えていた。男は不器用だが刀剣達に愛情を与え、刀剣達も男に親愛、敬愛を持ちながら接していた。これは三日月にとって、唯一の刀剣男士としての幸福の想い出でもある。

しかし、それも醜悪な人間達に壊されてしまった。愛すべき主≠ヘ彼等によって、もう二度と会うことはない。

俺は失敗したのだ。守るべき判断を。


それ以降のあらましは、あの娘が見た≠ニおりだ。すべてとは言いきれないが。

憎むべき人間を自らの手で殺したとき、人間への憎悪は薄れていた。その代わりだいぶ存在が穢れて堕ちている。だが鬼堕ちではなく、荒御魂のような状態になっているようだ。
でも、長い年月をかけたのか優しい人間にも出会えたからか、荒御魂でありながらも冷静にものを見て判断できている。

そして、あの主≠ニの約束がずっと三日月を、支えていた。残念ながらその約束は違えてしまったが、それでも三日月が刀剣男士≠ニしているうちはあの約束を守り続ける所存だった。




三日月は人間が好きだ。刀の頃、千年ほど人々の営みを見てきた。汚い部分も見てきたが、三日月は人間の中にも優しい者がいると知っている。

懸命に運命に抗い、生きるために戦う。誰かを愛し、その誰かも愛して夫婦になり子を設ける。子を愛する親、親を愛する子。様々な、人々の人生。

他の刀達とは見てきた部分は違えど、三日月はそれでもいいと思っていた。それは刀剣男士≠ニいう存在になってからも。

でも、少々人の欲望に揉まれるのが疲れてしまった。


だが時折、訪れるぼろぼろの刀剣達を見るたび、どうしようない衝動が襲う。その場合、無害と振る舞い気の緩んでいる愚かな人間を、長い歩みのうちに見つけた契約の抜け穴を使って葬ってきた。心を折るという方法もあるが、些か自身と出会う人間はどうしようもない奴が多いらしい。自ら判断して赴いているが、俺自身もそんな体質に変わってしまったかなと思う。

現時点での基準は人より同士の方が優先である。それもすべてが受けいられることはないが、俺の自己満足かもしれぬ。


優しい人間もいた、俺を受け入れあなたを理解したいという。それは嬉しかった。やはり、そんなこと言ってくれる人間がいるとういうのは嬉しいものがある。荒んでいた心を癒すような。

だから、彼女にみせたこれまでの記憶。でも、それは間違いだったのだ。力あれど、繊細な魂を持つあの人間は優しすぎたゆえ、受け入れすぎたゆえ、

壊れてしまった。

俺はまた失敗したのだ。



これが三日月にとって二つ目の後悔だった。彼は大きな傷を心に負ってしまった。
だから、一人でいることを望んでいる。自身が関わると、不幸になってしまうと。





見つけた刀装兵のお願いもあり助けたが、あの娘を拒絶した。

想定外の事態で、記憶を見られて正気を保ったままでも、だ。三日月も娘の記憶を見た、とんでもない行動をとっていても、図太くても阿呆でも、刀剣との不思議な関係を築いていても、

自身の業がーーーーまた縛ってしまうかもしれない。


相手方の刀剣の意図はわからないが、せめてあの娘の状態だけでも教えようと思った。理解しているのかは、わかりかねる。



あの娘は特殊だ、他より少し精神が強くてもーーーーー人間は脆いのだ。

だから、金輪際会わないこと言った。せめてもの、線引き。

双方にとってのはずの。しかし。



座っていた、刀装兵を手の平に乗せる。見つめあった。

「俺といると、あんまり楽しくないぞ」

今ならあの娘に返してやれんこともないと、そういえば刀装兵は首を横に振る。



刀装は刀に装備させるもの
我らはあなたを選んだのです
我らあなたに受けた恩をお返しします、壊れるその時まで末長く

おともさせてください


銃兵がくっいてきた。装備できないけど、一緒にいてもいい?という。



山を散歩している時だった。道端に面妖な刀装が落ちているの見つける。

めそめそ泣きながら、何かを探しているようだ。俺は何故か放っておけず、その刀装兵の背を摘んだ。

『刀装兵の迷子とは・・・珍しいな?どれ、泣きやまんか』

更に泣き出した。刀装兵を慰めなんてしたことがない。困る。
急にはっと気づいたようにある方向にじたばたしはじめる。何か騒ついた気配を感じる。

『ふむ、暇だしな。ついてってみるか』

それを聞いた刀装兵。こっち、こっち、と指を掴み誘導する。

『はっはっはっ、そう焦るな』


それは、彼が一人≠カゃなくなるーーー最初の出会い。





刀装兵を潰さないようにそっと抱きしめる。
ほんの少しだけ、泣きたくなるような嬉しような、愛おしい気持ちを胸に。

彼は幸せそうに笑っていた。


【三日月宗近の心情】



15/5/23

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