刀装シリーズ | ナノ






本丸に帰還したい3



鶴丸国永は焦っていた。

少女と連絡がつかないまま、数時間が経っている。

他の者にそれぞれに指示をだし、必死に少女の気を探った。微かに存在を確認出来るものの、様々なモノの所為で正確な位置を見つけれていない。

舌打ちしたい気分だ。



話は数時間前に遡る、この本丸の審神者である少女と共に、山菜採りを行うことになっていた。しかし、いくつもの不手際が重なり想像だにしない事態が発生した。

一つ目、ここ最近、頻繁に門(ゲート)を使用していたこと。定期的に遠征などにしか使わなかった門を、出陣で頻度が多くなり少しだが不具合が起こっていた。彼を含めた刀剣達が微量の神力で維持している部分もあったが元は機械、その点検を刀剣にしては機械の扱いが得意な者たちがしていたが、精密にとまではいかない。特に困るような支障もないので、少々の不便は仕方ないと妥協していたのがいけなかった。

二つ目、この本丸の中でも機械に慣れている 、鯰尾藤四郎以外の刀が自分・燭台切光忠・薬研藤四郎と偏ってしまったことだった。最初の一回目は鯰尾が入力する手筈になっていたが、なぜか機械に一番疎い同田貫が入力していた。理由はまだ聞いていないが、よりにもよって・・・である。
他の面々も似たり寄ったりで、唯一の人間である少女は門に触ったことがなかった。ここに来た時も政府の者がすべて行ったらしく、やり方すら教えてられていなかった。 万が一にも、逃げださないようにするためだろう。生贄として捧げられたのだから。

三つ目、少女が飛びだしてしまったこと。
少女の性格上、久しぶりの外に興奮してよく確かめもせず出ていったのだろう。
その場にいた小夜左文字が泣きそうな表情で申し訳なさそうに、残像が見える速さで飛びだしっていったらしい、とめれなくてごめんなさいと教えてくれたので、頭を撫でといた。


それにしても、どれだけ楽しみにしていたんだ。

少女の行動には、こっちがいつも驚かされる。
こんな、驚きはいらないと溜息をつきたくなった。


(無事でいてくれよ、お嬢さんーーーーー説教は、覚悟しておくんだな)









(深海に沈んでいくのって、こんな感じなのかな・・・それにしても、なんて寂しくて悲しい気分になる場所なんだろう)

暗い、暗い、闇の中。水の中に沈んだような感覚は恐ろしいけど、どこか冷静に考えていた。夢を見ている感じがする。

それから、どのくらいにそうしていただろうか。緩やかに情景が映しだされていく。


平安時代の人が着るような蒼い狩衣が特徴的な男の人が見えた。ただ顔のまわりにモヤがかかっていて、素顔が見えない。にもかかわらず、美しい人だと分かった。なんだろうあの隠しきれないオーラ。彼のまわりには様々な人がいた。同じように顔は見えないけれど、少年、少女?、青年、壮年らしいのに囲まれている。どの人も、きらきらした輝きがあるのは、私の気のせい?これは、確実に顔面偏差値が最高MAXと予想。

場面がさらさら変わる、次は縁側に覆面をつけた男の人と蒼い人が縁側でお茶をしている光景。二人とも和やかな雰囲気でとても幸せそう。


桜が舞いながらぐるっと夜に変わる。月の綺麗な夜、ああ、三日月だ。蒼い男の人が覆面の人に跪いている。どこか物語のワンシーンみたいだ。

『約束しようーーー必ず』

声が聞こえた。この声質て?この映像は、もしかしてじじいさんの記憶だろうか?そうだしたら、なんでこんなことになっているんだろう。まるで人の心の中を覗いてるみたいで、罪悪感が芽生えた。


散々、摩訶不思議な体験はしてきたけど、ついに脳内に人の過去が流れこんできたよ。これって、あれか。よくあるお約束てやつなのか!?初対面であった相手の記憶見るとか・・・早く覚めてくれ。この後の展開嫌な予感しかしない。

まあ、それも衝撃的だったけど・・・・・・一番は刀様が人間の姿をしているの確認してしまったこと・・・嘘だろ?嘘だろ!?できれば、全力でスルーしたい事なのですが、認識してしまったのはしょうがない。どれかどれやらわからないけれど、ガチで人間やん。私のジ◯リ像が崩れていく。本丸に戻れたらどんな顔をして会えばいいんだ。フラグをたててたからか!?ノオオオオ!

そういえばあの蒼い人、ちらちらでてくるけどじじいさんのなのかな?なんてきらきらしたじじいなの。



ダメージ(ほぼ自分のせい)が徐々に溜まりながら、悶絶してると。一転する。

荒れた屋敷、血みどろ、無数の刀が折れ散乱している、泣き叫ぶ声と誰かを庇う懇願の声、憎悪、悲哀、絶望、様々なものがいれ乱れるように渦巻いている。

暖かな雰囲気、どこいった。なんで!?何があったの!?さっきまでガラッと変わりすぎ!うわあああ、嫌な予感、嫌だ、嫌だ!心の準備させておくれよ!じじいさんも、鶴さん達やお母さん達と同じような境遇なのか!?

混乱してると、また場面が変わる。



楽しそうな雰囲気の覆面をつけた男とぼろぼろの蒼い人。覆面の男は別の人間みたいだ、醜悪さがただもれてる。ぼろぼろの蒼い人を押し倒して、着ているものを破りさく。なにをするのか、わかってしまった。血の気がひく。

おいやめーーーー次の瞬間、断末魔の悲鳴。蒼い人に跨った男から刀が生えていた。ゴボリと血が飛び散る。

後は、スプラッタだったみたいだ。私、途中から目を塞いだ。音声は聞こえてくるから、よけいに想像しちゃった。今までも色々見ちゃったことあるけど、コレはもう駄目だ。早く覚めてくれ。

『ああーーーーすまない。すまない、ーーーよ、約束を守れない』

平坦、だけど悲痛なつぶやき。泣きそうなーーー声だった。



また場面ががらりと変わる、今度は様々な人が出てきた。優しそうな人、でも恐れた。傲慢そうな人、でも求め過ぎた。気弱そうな人、でも譲渡した。無関心な人、でも何も求めないだから放置した。

様々な人々の間を渡る蒼い人ーーー美しい刀。

『少し疲れたなぁ、人には疲れたなぁ』

人々の元から去り、黒い靄を少しずつ纏いながら一人で山を彷徨う日々。それから、彼を求めて色んな刀剣達が彼の元に来る。でも、それもあまり変わらなかったみたい。彼等を通じてようやくまともな人々に出会えたとしても、咎を背負ってしまった彼との折り合いが難しいものがあったらしい。

結局、彼は一人でいることを選んだ。だけど、同じような境遇の刀剣達が訪れた場合。
彼等を解放するかのように蒼い人は、その刀剣達の主人を殺し続けた、心を折り続けた。

ぶつりっと真っ暗になる。

『守れなかった俺だ、せめてものーーーーー』

彼は神ではなく、別のモノへと変わりつつあった。長い長い、終わりの見えないーーーーー




嫌悪や恐怖といった感情が麻痺しているような感じがする。自分の顔がぐちゃぐちゃなのがわかる。

おきて、おきて、あるじさん
もうおわりだよ
だいじょうぶ
ほら、なかないで
なかないでーーーーー

どこからともなく、刀装ちゃん達の声が聞こえてきた。なにか頬をぱしぱしされている感触がする・・・


ーー同調しやすいのか、これは困った



15/5/23

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