刀装シリーズ | ナノ






本丸に帰還したい2


(ゲートからフライングで飛び出した先が、ゴロゴロといるヤバい奴らの巣窟なんて聞いてないよっ!)

茂みの中でひたすら自分の愚行を呪いながら、これからどうしようかと必死に考える。


言い訳になるが、こうなってしまった理由がある。 出陣楽しくて毎日暴れてる刀剣の皆様が小休止という名目で、比較的に最初の時代辺りの山奥で山菜採りに決定した今回の遠そ・・・遠征。
最初のメンバーは同田貫・御手杵・今剣・小夜・鯰尾・私で、次のメンバーは鶴丸・お母さん・大倶利伽羅・薬研ともちろん私の編成で二日間に渡って行うことになっていたのだが、先ほど申したように、るんるんが最高潮に達してしまい。 なんか、入力に時間がかかっている同田貫が、ようやく繋がったという声を聞いて高テンションのまま、私がゲートにフライング退出。後ろから、やべぇ間違えたとか、え?ここちがう?!とか、いう声が聞こえて振り返ったらどこにも門(ゲート)がなかったんすっよ。なにいってるとおもうが(以下略

で、その後、周りにうようよしている禍々しい刀に殺ったるぜえええというように襲いかかられ、お供の刀装ちゃん達が投石を投げて隙を作り戦略的撤退して、命懸けのかくれんぼ中である。 本丸に侵入してくる歴主達より、遥かに強いことが私でもわかってしまいガクブルだ。ここ最初の時代よりさらに先の時代に違いない。

ああ、どうしよう。

現在、私の持ち物。服装山対策されたジャージ。大きめのショルダーバックに入ったお弁当と水筒とタオルとおやつとその他である。武器はカバーつけた小さな鎌しかない。竹籠は逃げる時に捨てた。幸い?お供の刀装ちゃんが四ついるけど、軽騎兵・重騎兵・精鋭兵・投石兵と攻撃が少し心許ない。そして・・・あと一つ、銃兵とはぐれてしまった。いやあああジーザスううう!

顔から滝のように汗を流す私は、寄り添ってくれていた刀装ちゃん達を抱きよせた。

(落ちつけ、落ちつけ、焦るな、焦るな。爺ちゃんがこういう場合、状況をしっかり見ろといっていた。それで、劇的に変わるわけじゃないけど)

ばくばく鳴る心臓が落ち着いてきたかなと、思った時だ。


全身、鳥肌がたつ。


即座に、転がるように茂みから出た。その瞬間、茂みが薙ぐように散らされる。体勢を崩しているところに、更に追撃される。転がって避け立ち上がる。周りをみれば、逃げ道を塞がれている。後ろ確認すると急斜面の坂、底が見えない。落ちれば複雑骨折どころじゃない、死ぬ。

あ、積んだ。と思うと同時に、何故か頭が冷静になってきた。腕にいた刀装兵は、私を庇うように前へ四方に飛び散り臨戦態勢でいる。手には小さな刀を構えていた。それを、見るとかないっこないのにさっきまでの不安が消し飛んだ。

(大丈夫、まだ、やれる)
硬直状態のなか、敵がじりじりと迫ってくる。冷や汗が、背中をつたう。
(どこでも、いいから逃げ道開かないか!?うん、待てよ?この地形利用出来ないかな!)
背後にある、底へ真っ逆さまな急斜面。もう思いつく方法などこれしかない。一か八かの大勝負にでよう!
(カミサマ、いるんなら!少しくらい手助けしてくれっ!)



遅いかかる二振を屈んで避け、空振ったのを体勢を立て直される前に思っ切り斜面の方へ蹴り飛ばした。

「おんどりゃあもういっちょおおう」

女子あるまじき喉太い雄叫びをあげる。二振絡みあって、落ちるのを踏ん張ったがそうはさせずタックルをかます。 落ちていった。

急いで前をみれば一対一で相手をする刀装と敵。攻撃はできてないが、恐ろしい瞬発力と機動力で敵も攻撃が当たらないでいる。宙に浮いているが其処に刀が在るのか、刀身の上を走っているように颯爽と渡りーーおそらく、目潰した。断末魔の叫び声が上がる。かわいい顔してエゲツない。
見えないけど想像しちゃった私。思わず某万屋漫画のように胃の中身がリバースする。普段から見慣れてるはず、だけどクルときはクルのだ。それに、なんだか体が重い。

二振やったのに気を抜いてしまった私に一振が迫る。相手をしていた投石兵が、ぴっーーー!と叫んだ。

(しまった、ゲロを吐きながら、死ぬのかな)

迫る見えない刀身。空気が蠢く。四つん這いの私。目を見開きながら、スローモーションのように。



寸前のところで視界に、何か大きな物体が立ちはだかる。それは、一瞬で迫っていた刀を真っ二つにした。

ーー詰めが甘いな

上から低く呟かれた声音が聞こえる、それに続いて他の二振を破壊した。最後の一振の攻撃をかわしているのか、鮮やかに避け、大きな音をたてると共にーーーー刀が粉砕された。 しーんとした中、何か振るようにして、かちゃんと仕舞う音。刀を収めたのだろうか。

刀装兵が私の周りに集まり、ぴーぴーと泣きつきながら私にしがみつく。

(たすかった?)

少し離れたところで、一振の刀が悠然とたっている。美しい装飾の大きな太刀。
だが、薄くではあるが黒いモヤをまとっている。あれ、見たことある。昔ーーー


冷たい視線で見られている気がする。品定めしているようなそうでないような。じっとこちらを向いている気がする。

でも。

「おええええ」

思うことがたくさんあるが私は自重せず吐き続けた。

ーーなんと・・・お主、大丈夫か?


ドン引きしたような声音で困惑する、命の恩人(刀)と。泣きついてしがみついていた、刀装ちゃんは四つで固まりドン引いたように見ていた。ひどいっ!




「大変、お見苦しいものを見せました!すみません!!助けてくれてありがとうございます!」

ーーははは、そう畏まらなくてもよい。頭を上げてくれ?な?


あの後、見かねた恩人に連れられて小さな川があるところに移動した。知らない刀にほいほい着いてってしまったが、気分が最高に気持ち悪いのと口の中をうがいしたかった。それから、いちおーう助けてくれたから?単純である。

深く頭を下げて謝罪とお礼。落ちつくと自分でもアレはない。なんちゅうもん見せてしまったと穴には入りたい。それから、婆ちゃんが親切にしてもらったらちゃんとお礼を言いなさいと、よく言っていたが、理由のわからない親切は危ない。正直、この刀の行動にちょっと半信半疑。あの時の冷たい視線?はなんなのか。と、薄いけれど黒いモヤ・・・これは少しだけ心あたりがある。

ーーところで、娘よ

「はいいい!?」

思いっきり声が裏返る。

ーーそう怯えずともよい、お主・・・審神者か?一人しかおらんが刀剣はどうした?

ビビってるのがバレているが、特に気にしてないようだ。審神者と認識してるのか、疑問を口にされた。

「え、あ、はい。正式な審神者じゃないけど審神者です!迷子です!」

ーーなんと、迷子か?

「そ、そうです。別の場所にみんなと遠そ・・・山菜採りしようとなってついていく筈だったんですが、先にゲートに出ちゃってから違う場所に気づいて、慌てて、後ろ振り向いたらゲート消えてて」

はしゃぎすぎたことは言えまい。
しおらしく経緯を説明する私を、刀装ちゃん達が胡乱な目で見ていた。 無視した。

ーーふむ、そうか。そうだ。もしやこの刀装・・・お主のか?

どこからともなく、先ほどはぐれた銃兵ーー五号ちゃんがちょこんと現れた。

「じゅ、銃兵!五号ちゃああん!無事だったんだねっ!」

ぴっー!と言いながらてててっと駆け寄る五号ちゃん、私と他の刀装ちゃんも駆け寄り感動の再会を果たす。綺麗な刀が、よきかなよきかなと言っていた。




五号ちゃんと私を助けてくれた、この綺麗な刀。

つい名前を訊ねてしまった私に、カレはじじい(仮)と名乗った。以下、じじいさんは主人を持たない刀剣男士らしい。この厚樫山で日課の散歩していたら、道中に変わり種の刀装兵が、ぽつんと落ちていてめそめそ泣いているのを発見。保護してどうしたものかと考えていたら、急に刀装兵がある方向を見て向かおうとする、摘んで止めようとしてもじたばたするので、視線の先に向かう。
そこで、襲われてる私を目撃・・・でさっきの状況に。ナイス五号ちゃんナイス!て、厚樫山て知ってる!噂のデス・スポットじゃん!私死ぬじゃん!

五号ちゃんとの再会・救出してもらったのはいいけど、問題が山積みで手放しに喜べない。
この世の終わりとでもいう表情をしていたのだろうかじじいさんが提案してくれた。

ーー困っているようだ。お主の刀剣達が、迎えに来るまで俺と一緒にいるか?

「えええええ、いいんですか!?といいますか、迎えに来れるの鶴さん達!?でも、これ以上ご迷惑は!?私、謝礼持ってない!??あ!お弁当ならあ・・・」


ーーよいよい。来れるさ、契約があるからな、お主の霊力でも辿ってくるだろう。迷惑ではないぞ、謝礼いらぬなぁ。そうさな、暇を持て余していたところだ、迎えに来るまでじじいの話相手になってくれまいか・・・お?とっ?


迎えに来れることが発覚したので、少し安心した。気がまた緩んだのか突然、体から力抜けた。それと気持ちが悪い、でもふわふわする。

「・・・れ?」


崩れを落ちるのを受けとめるように、見えない腕と手の感触がする。顔を上に向かされる、もちろん視線を感じとれるものの何も見えない。じっーーと見つめあってるようだ?

ーーほう?先ほどから俺に対する態度が可笑しいと思っておったが・・・お主、俺が視えてないか?

「気づかれたんですか・・・刀の姿は見えるんですが、ヒトの姿は私には見えないんです」

ーーしかし、俺のことも知らなさそうだなぁ?だいたい、この刀を見れば審神者ならわかる筈なんだが?・・・おっと、穢れがたまりすぎてるな。生身の人間があの者達に触れるなど、無茶をする・・・俺にもあまり触れない方がいいのだがな

「きもちわるい、ねむたい」

意識がふよふよする。少しづつ、視界がぼやける。少し前までは普通の会話ができていたのに、ままならない。

ーーふむ・・・よし・・・少し眠れ。やはり・・・お主は少しこちら側に寄り過ぎているな。少しばかり嫌なモノをみせてしまうよなぁ




どこか、哀しそうな声音が聞こえた。
最後に、ぶつりと意識が途切れた。





あの、靄は知っている。
あれは、犯した罪の証。
荒御魂に堕ちた証。
かつて、堕ちた鶴丸国永が纏っていたーーー



15/5/17

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