刀装シリーズ | ナノ






番外 祖父母の心孫知らず



ある日突然、孫娘が行方不明になった。

塾や部活などしていなかった孫娘は、いつも真っ直ぐに学校から家に帰ってくる。たまに、友達と寄り道や買い物で遅くなると、いつも連絡はくれたはず。そんな子が、いつまでたっても家に帰ってこない。保護者として当たり前の心配だ。学校にも、孫娘の友達にも、心当たりのある場所に電話し探したが見つからなかった。

血の気の引くような焦燥に駆られながら、警察にも相談しにいった。捜索届けを提出した後、しばらくしてその孫娘の友達も消息不明となる。血相変えた彼女のご両親が、自分たちのところに来た。その頃に、可笑しな事象が自分たちの周りに起こり始めた人知を超えた。

ーーーもうなり潜めていたある直感≠ェ警鐘していた。

昔のツテで知り合いの元刑事にそのことを相談した。
そこで奇妙な情報を得た、孫娘と似たような失踪が近年増えているらしい。

『ならば、社会問題にもなっておかしくないだろ』

『それもおかしな話なんだがね、なんでも[神隠しされたように消える]というのが、共通している部分があるらしい。あまりにも異常な案件で、マスコミに情報統制しているそうだ』

『あくまで噂程度に留まっているわけか』

『知り合いの記者から聞いた、こんな情報もある。ある金融会社に黒服の男がやってきて、金を借りていた消費者の代理ということで、一括で返済したらしい。その後奇妙に思ってその消費者の周りを調べたらしいが、その人間を知っている者がいないらしい。皆一様に記憶が曖昧で、まるで[その人間の存在する記憶が誰かに消去されたような]状態でゾッとしたんだと』

『怪談を聞きにきたわけじゃぁねぇぞ』

『まあ、聞けよ。じいさん。それで、インターネットでも調べたら[そういった]体験談がでるわでるわ……この国だって一年に何万人もの行方不明者がいるんだ。常識にとらわれない説明できない事象がある』

『ありがとうよ…その筋をあたるしかないか』

アンタの血筋だ、大丈夫だろ。慰めのように言った友人の言葉通りに、孫娘を信じたい。人の死の報せは[感じられる]だから、今のところ孫娘は生きてはいるだろう。だが、どういう目に遭わせられているかはわからないのだ。

妻とともに、持ちうる知識とお互いの考えを討論し、昔から知り合いなどに話を聞きにいき、あちら側と関わりのある人をしらみつぶしに探した。


そして、時渡りを行う人物と出会うことなるのだ。
時の政府≠ニいう組織と最初の接触。この手掛かりを決して逃さない。








まだ孫娘が幼い頃である。

『ばあちゃん!かいものにいこうよ!』
『昼食を摂った後に行きましょうか』
『あさからいくんじゃなかったの?』

夏の日差しが焼きつくように降り注ぐ縁側に、幼い孫娘は腰をかけ足をブラブラゆらす。隣で夏野菜に、水を与えていた妻にそう話しかけいるのが聞こえた。そう返答する妻に孫娘は、ええっと不満の声を上げる。たしか昨日の夜にそう話していたはずだとぼやいた。

『あら、伝え忘れていたわね。朝にね、おじいさんの昔の友人がくるの。めったに会わない人よ。できれば、昨日の夜の内に“ミエテイタ”らよかったんだけどねぇ』

訪ねて来るというのなら素知らぬふりなどできないかと納得したのか、じゃあご飯まで遊んでくると言って大人しくひきさがる。孫娘は妻が言う“ミエテイタ”という言葉を気にしておらず。考える必要も無いだろうソレが、自分たちにとって“当たり前”のことを知っていた。

あの子は、物心付く前からソレらを感じとれた。俗に言う第六感。明らかにヒトのカタチをしていない真っ黒な塊や異質な空気、あるいはカミと呼ばれる者がそこかしこに、ひっそりと共存していることを。

阿呆ではあるが妙なところで聡い孫娘は、周りの人の反応でソレらに気づいていないと不思議がっていた。

ある日、あの子は儂らに尋ねてきた。

『ほかのひとは、どうしてふつうにしてられるの?』
『それはね、他の人に見えないモノなんだよ』
『じいちゃんたちにはみえるの?どんなすがたをしているの!?』

好奇心旺盛で猪突猛進な孫娘に、どう説明しようか悩んだ。自身のことを棚にあげるようだが、この孫娘はどうやら自分におおいに似てしまったらしいのだ。もうすでに、孫の表情はわくわくしてとまらなくなっていた。

『ふふ…どうでしょうね?大きくなったら、その内あなたにもわかるわ』
『えー!』

そんな、孫の好奇心を妻ははぐらかす。

『だから絶対に人に言っては駄目よ?もし言ってしまったり、ばれてしまったら、人が集まる集落に私達は住めなくなってしまうの』
『どうして?いっちゃダメなの?』

むくれる孫は聞き返してたが、無意識に察しがついている。おかしなことが起こっても、妙に冷静なふしがあった。

『人は自分と違うものをすんなりと受け入られないんだ。それに拒絶して、攻撃や防衛という手段をとる』
『おじいさん、その話はまだこの子には難しすぎるわ』
『そうか?早ければ早いほど知っておいた方がいいと思う。それに、この子は年のわりに物分りがよく、ちゃんと受け止めているじゃないか。少々、阿保だが』
『あほー?』
『もう、おじいさんったら。あなたはいつも忙しないんですよ』

詳しく伝えようとして妻に遮られるが、ため息をつきつつやれやれというようにそれ以上は言ってこなくなった。忙しないのは自覚してある。もう、相手も諦めの境地だ。

『ばあさんの言うように、おおぴらっに言ってはいけない。だけど、怖がりすぎるのもいけないよ?儂らにとってそれが“普通”なんだ。なあに、人より少し違うだけさ!でも、ちゃんと周りに気をつかいなさい』

豪快に笑いとばして言った。妻は呆れたように見ていた。

『まだ、お前には時間がたくさんある。そのうちに教えていくし自分でも知っていくさ』

孫娘は深くは理解できなかっただろう。身内の贔屓目でも見ても素直な子だ。なんらかのおかしなものに巻き込まれないように、気にいられないように、自分たちが生きているうちはこの子守ろうという気持ちからだった。もう少し大きくなってから、それの言葉の意味をいつか理解して覚悟できるまで。妻と相談して、古くから伝わるまじないを施した。





それまで、感じられていた不思議がわからなくなってしまったというのに、孫娘は何事もなくすんなりと受けいれていた。さすが儂の孫だ、少しは気にしろ。

何事もなく平和に暮らしていく日々。抱いた不安は杞憂で終わるだろうと思っていた。心のどこかであの子なら、大丈夫だと安心していたのだ。





孫娘とのなんともない大切な日々を思い出して、時間が経つことにあの時の選択を後悔した。

どうか、無事でいてくれ。



18/4/2

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