刀装シリーズ | ナノ






嵐の前の静けさ2



縁側で橙に染まった空を見ながら御手杵さんが黄昏ていた。それから、はっーーと長い溜息を何度もはきだしている。あまり見ない光景なので、通りかかった僕と今剣が角からこそっり様子を見ていた。

( めずらしいですね)
(どうしたんだろう・・・)
(・・・もしかして、このまえのあれのせいなんじゃないですかね?)
(このまえ・・・?・・・あ)

今剣の言葉で思いだした一昨日のこと。

絡繰りを仕掛けし終わってから何もやることがなくなった僕達は、内番や資材を蓄えるため遠征を細々と行っている。もうある程度、余裕もうまれてきて・・・みんなほのかに出陣したい、刀を振るいたいという刀剣としての欲求がでていた。でも、この不安定な環境でこの審神者を一人にしておくのも心配であり、刀剣の数も六振りとなんとか第一部隊がぎりぎり組めるくらいだった。それもあって、なんとかうまいことできないものかと悩んでいる。

この面々の中でも、御手杵さんはその思いが強く常々俺は槍で突くしかない≠ニ周りが器用に色々こなしていくのを見て少し落ち込んでいた。そんなことないですよと鯰尾さんやそのまわりを刀装兵達が励ましていた。


それまでは良かったのだ。

『じゃあモリみたいに魚仕留めることが出来るんじゃねー』

と、御手杵さんのその呟きを聞いていた審神者がそんな発言しそれに対して

『槍とモリは訳が違うだろう!?そうじゃないんだ!いや、同列にされてるなんて・・・でも、あんたならありえるその思考回路。魚なんか突いたことねえよ、人か歴史修正主義者だけだよ・・・』

とどんよりと御手杵さんは、哀愁漂い顔を片手で覆い項垂れた。 さりげなく色々言っているのはこの際、気にせず。

その一連の流れを聞いていた僕らはそれは無いという感想だ。鶴丸さんだけが、うずくまってぷるぷる震えていたけれど、楽しそうにしているのでほっておく。審神者が怪訝そうにその様子を見ていたが気にしないことにしたらしい。その後、御手杵さん・・・普段の様子に戻ったとは思ったんだけれど・・・結構、深刻に悩んでいたのだろうか。

声をかけようかかけまいか二人で考えていたら、ふっと近くに気配を感じてそちらに視線を向けた。そこにいたのは人差し指を口元にのばし、しっーーーとした格好をする鯰尾さんだった。

こっちに来て、と小声でそう言いこの場から離れる鯰尾さんに、僕らも顔を見合わせたが、そっと離れた。



『大丈夫、大丈夫。御手杵さんそのうちに元気になるよ、その兆候があったからさ』

もう会話が聞こえないだろうというところまで来て、ここなら大丈夫という顔をした鯰尾さんがそう言う。その言葉だけじゃ検討がつかないので、話がわからないよ?、ちょうこうとは?と疑問。

『次の遠征になればその時にわかるよ。いや、それまでにはふっきれているんじゃない?』

相変わらず濁したままではぐらかすようにしている。次の遠征まで・・・そう言われてもやはり気にはなる。それ以前に僕らの知らないところで御手杵さんに何かが起こったらしい。それをうかがわせるように、にこにこした表情で笑っている鯰尾さんの意図がわからない。

『俺が言いたいのは、当分あの様子だと思うから生暖かく見守っておこう』
『生暖かく、て・・・』
『ようはほっといてもだいじょうぶなんですね』

『最近の今剣は辛辣のような気が』

そのうちわかるのならもういいか。鯰尾さんは御手杵さんと仲が良い、この人がこう言うのなら間違いはないだろう。

それからは何かを悩んでいる御手杵さんを生暖かく見守りつつ、その間薬研と審神者が中心となり本丸清掃以外あまり使っていなかった倉庫の整理をした。ところで最近、薬研が少しづつ審神者に似てきたような気がする、気のせい?倉庫整理している間、審神者はまさに宝の持ち腐れ〜と食料を関係を見て言っていたが、これって何年も放置されてたけど食べられるのかな?とそれに薬研は、特殊な力がそのままだったから食べれるみたいだなと、軽い嗜好品を味見していた。

他には審神者はあいかわらず本丸の至るところに仕掛けた罠にはまる。鶴丸さんを木に縛りつけたが、今剣曰く審神者が規格外だからじゃ・・・と一日で六回も落とし穴に落ちたていたことにつっこんでいた。鶴丸さんに冤罪の可能性でてきたけど、本人は木に縛られてこいつは驚いたぜ!と言うから、誤解されるんじゃ。


そうこうしてるうちに次の遠征をする日がやって来た。
今回は鯰尾さん、鶴丸さん、御手杵さんの三人組で行ってくるらしい。それを審神者と本丸の住人達が見送り、残った僕ら短刀組は内番をしながら留守番と警備。

事件は夕刻に起こった。

ふっきれた表情を浮かべた御手杵さんが、大漁に纏められた魚を片手に持ちもう片方の手で自分の本体を持っていた。後に続く鶴丸さん、鯰尾さんの両手にも大漁の魚。二人とも苦笑ぎみに生暖かい表情をしている。本丸居残り組は、ぽかんとしていて誰一人動けずにいる。

『魚が宙に浮いとる・・・』
『この量どうやって保存するんだ?また調べないとな』

空中に浮かぶ魚介類が浮いているように見える審神者は、これでいいの!?とこんなんでいいの!?と動揺しているようだ。薬研は衝撃から復活したのか、魚の保存方法を模索していた。それも大事なことだけど・・・あれ?資材は?

妖精達が、水に濡れた御手杵さんの本体の錆を心配して手入部屋へと連行していた。



『御手杵さんはこの前試したんだ・・・そして、なんか覚醒した』

鯰尾さんが薬研の手伝いをしながら今回の全貌を話はじめた。
あの会話の後、三人で遠征してちゃんと資材を回収した帰りにたまたま大きな川の近くで休憩したらしい。その時に鶴丸さんがそのことを思いだして冗談交じりで、やってみたらいいんじゃないかと提案した。鯰尾さんも便乗して、水の中で動ける練習するていう気持ちでと渋る御手杵さんの背を押したらしい。近くにあった大きな川も流れが緩やかなのもあいまってやらなきゃ解放してくれなさそうだから渋々試したら

『意外と水の中でも平気だったみたい。 なんだか心配していたことがことごとく無効化されてて、あの人自身、一番衝撃受けてたよ。それから、今度海行ってみる?と提案したら、ずっと刀としての在り方に悩んでいたんだよ』

『それは悩むの当たり前だと』
『あんなおもいものよくみずのなかであつかえたものです』
『いくらなんでも無理だろう、と言いたいがその結果が・・・目の前にあるしな』

机に盛られた大漁の魚を見て再度思う。

『御手杵さん、結局どうしてそんなことできたんだろう?』
『ぶんれいだからでいいんじゃないですか?ぼくたちにんげんじゃありませんし、かたなもっててもみずのなかでうごけるということで』
『もう、そういうことにしておこうか。で、鯰尾兄達も一緒に試したのか?あんたらは、見物とか・・・なんで、落ち込んでんだ?』

刀剣男士とは?と悩みつつ考えることを放棄した僕らは、とにかく魚をどうするか考えようとした、ついでに薬研が鯰尾さん達のことも聞いた。
聞いた瞬間、落ち込んだように鯰尾さんが悔しそうに言う。

『目に塩水入ってそれどころじゃなかったんだよ!御手杵さんにできたのて才能の違い?俺達悔しい!鶴丸さん沖に流されそうになって大変だったよ』

『あんたらが、大人しくしてるはずないよな。手入部屋に連行』



今後、御手杵さんは魚介類に関して食材調達隊長に任命され活躍していく。
素潜りの才能が開花したうえに、刀剣男士なりに身体能力の高さが補佐し、海へ川へ獲れるだけの魚介類を回収してくる。鯰尾さん達もコツを掴めてきたとも言っていた。生活力が上がる一方、たまに僕ら何しているだろうといいつつふっきれていくのも近い日が訪れるーーーのだろう。




ちらっと隣を見た。

少しずつ打ち解けていくたびに、一緒にいる時間が増えていく。
こうやってたびたび刀装も作るようになった。本来の本丸では、刀剣男士が作業するものなんだけれど、何故かこの審神者は作れる。

でも、真剣に刀装兵を作っている審神者の姿に。
本当に好きなんだな、と思う。

審神者は一人でも金装をたくさん作れるが、刀剣といた方が更に作れる・・・のは通常の作用なのか。それを言えば、審神者は並兵も上兵だって素晴らしいじゃないか!と的外れな熱弁をはじめて、もう期待してない。この審神者の頭なのか、僕らが刀姿にしか見えないのが原因か、ずれた会話することも多いがだいぶ意思疎通はできるようになっているはずだ。

そろそろ所持数超えそうだ。この前も、御手杵さんへの発言に審神者自身も思ったのか、お詫びに槍兵を大量に増やしていた。わらわらと槍兵に群がれていた御手杵さんはこんなに作られても・・・と言ってたが、なんだかんだ大切にしているようだ。

現時点で剥がれることない刀装はたくさんいるから、刀装同士で手合わせするようになった。
内番にも参加しはじめたし・・・個性的、とその一言で片付けていいものか?


(今なら、でも)

好きに呼んでいいか。名前の件はずっと引っかかっていた。いざ呼ぼうと思っても躊躇ってしまう。

『・・・・・やっぱりいいや』

『・・・ん?何!?』

『ううん、独り言』

『えー気になるなー』

緩やかに交わされる会話にほっとした。そして、そのことに驚いてる自分がいる。人の姿になって戸惑いと、ただひたすら黒い感情に満たされ復讐を常に望んでいた。
この本丸のみんなと出会って様々なことが起こって、この審神者が来て今の僕がある。


今剣も。
薬研も。
鯰尾さんも。
御手杵さんも。

ーーー鶴丸さんも。僕も。

また変わってゆくのだろうか。ずっとこのままじゃない、この奇妙な関係もいつか終わりが来る。

(姉様、て呼んでもみようかな)

籠が山盛りになっていく光景を見ながら、ただ思った。




僕たちが何故ここに存在しているのか、そんなの分かっていたはずなのに。

不安定な環境だからと避けていた。平穏な日々にどっぷり浸かっていた。長く敵のことより本丸内でのことがあったからか、そして審神者のおこす行動で平和呆けをしていたからなのか、なんにせよ僕たちが油断していたことは事実で。



その日が、来るまで穏やかに日々を過ごしていた。

歴史を遡り戦をしている真っ只中だってことを、その戦に勝つため僕らがいることを。



15/10/7

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