刀装シリーズ | ナノ






崩壊する日常3



がらりと、変わるには時間がかからなかった。

連日のように休息も与えられぬまま出陣と遠征を言い渡される。本丸内の均等をとれた状態も崩壊し、荒れ模様になっていた。多くいた刀剣達も、半数へと減っている。練度と出陣の場所が合わないせいで、耐えきれず折れてしまったり。練度の低い者を守り庇って、そのまま破壊された者もいた・・・残された者に、後追うように折れることをした者もいた。だけど、こんな状態でも刀は集まってくるので増えたり減ったりする。



手入に関しては放置。

あの男は手入ができなかった。いや、全てのことが出来なかったのだ。僕等を顕現させるだけの霊力はあったけれど、鍛刀も刀装も手入も出来ないのだ。

当初、引きずり出していた時に手伝い札を使うがそれぞれのことが出来ていたはずに見えたけれどそれは最初の幾月だけで、すぐに僕等だけでやるようにされたから気付かなかった。あれが出来ていたのは何処からか霊力を供給していたのでは、と歌仙さんが言っていた。歌仙さんは不器用なのだろうと思ってたらしいけど、違和感は感じていたらしい。よく感じればわかることなのに、僕等はそれを気にしていなかった。関わる機会も限られていたけど。

それから、この本丸が優遇されていたのもあの男の一族の力だった。実親が何かやらかし一族に見放され今まで好き勝手にやってたけれど融通が利かなくなり、あの男が本丸での生活が成り立たなくなったと、憂さ晴らしなのか殴りつけられた時にそう言っていた。それと、あの男があの刀≠求めるのは、最後の情けか利用されているのか一族から今後の支援をとちらつかせられたようだ。

刀には興味がない、わかりきっていたことだけれど。
(実質、僕等がやったんだけど)それでもレア太刀である、鶴丸国永・江雪左文字・一期一振がいるので、どういう判断かわからないが少しだけ評価されたと言っていた。

来たら儲けものだという程度のような気がする。現にあの男は刀剣男士の維持が出来ない状態なのに、そういった部分はなにもされていない。どういった事情か知らないけど、よくこんな性格の人間を審神者にしたものだ。ただ自分自身が楽に生きていたい人間なんかを。



そんな人間の判断で、宗三兄様達は破壊される状態に追い込まれたことも。



疲れていても馬の世話はする。いくらこの本丸が不思議な場所でも彼らは僕等と違って食事をしなければならない死んでしまう。体調の管理は僕等も同じだけれど、気を紛らわせたかったのかもしれない。

懐に入れたモノを取り出す。手に持った兄様が残した持ち物を握りしめる。
江雪兄様が僕の所為じゃないと言ってくれる。でもあの男を恨んでも、ああ、あの時なんで僕は動けなかったのだろう、とずっと悔やんでいる。

目から涙が溢れ落ちるのを感じる。袖で擦って拭くけれど止まらない。
隣にふっと、誰かの気配がする。隣を見れば、疲れきった顔している今剣だった。

『さよ・・・うまのせわかわりますよ。やすまないと』
『大丈夫だよ。いまのこそ休みなよ。酷い顔してる』
『さよのほうこそ』

板の壁を背もたれにして、隣り合い寄り添って座り込む。二人共、どこかを遠く見ていた。

今剣は岩融さんに庇われ残ってしまった者だ。
練度は今剣の方が高かったけれど、その時の部隊が岩融さん以外短刀で囲まれていたのと、軽傷と中傷のままの状態で最悪なことに第三の勢力に取り囲まれて逃げる術がなく、隙を作るため薙刀である彼が囮になると言って・・・今剣達を逃したそうだ。その途中、他の短刀も破壊されて残った者は満身創痍。なんとか帰ってきたけれど、目が虚でほとんど反応がなく。鶴丸さんが痛ましいものを見るような表情だったけど慎重に今剣の世話をしていたので、ここまで精神的に回復はした。喜んでいいのかわからない。

『・・・いわとおしやみんながはかいされたのぼくのせいです』

今剣が、ぽつりと呟く。

『ぼくがちゅうしょうでおもうようにうごけなかったから、とりかこまれたのがはやかったのです』

今剣の目にじんわりと涙が浮かぶ。僕は何も言えなくてただ自分の袖で今剣の涙を拭った。

辺りは重苦しい空気が満ちていた。




僕もだよ。

帰城出来ない状況。強すぎる敵。疲労と治らない傷。それでも、あの時、動けていたら兄様は破壊されなかったのかな。もっと、強ければ守れたのだろうか。

“小夜!逃げなさい!”

目の前に飛び出して、僕を庇い相手の刃を受けた兄の姿が忘れられない。同じ部隊にいた薬研に引っ張られながら、ずっと目線はそのままで。安心したように笑って、刀が砕け散った光景が忘れられない。

ーーー江雪兄様が陰でそっと涙を流していたことも、ずっと。




『一期!待て!殺す前に、君が刀解をされる!』
『お気持ちは痛いほどわかります!でも、鶴丸殿の言う通りです!』

『契約や刀解やもうどうでもいいのです、もう堕ちてもいい』



『一兄!今、鶴丸の旦那となんとかこの契約の隙を探している・・・っ!その手段を使うのはまだ早い!』
『残った兄弟達はどうすんのさ、一兄』

『薬研、鯰尾。不甲斐ない兄ですまない・・・後のことは頼んだ』



『『一兄っっ!』』


『鶴丸殿、江雪殿ーーー身勝手な行動を許していただきたい。

弟達のこと、よろしくお願い申し上げる』





一期さんが破壊された。あの男に。


短刀は狙われやすかった。いつかこうなるかもしれないとは思っていた。

あの男にとって暴力を奮うのにも、暴言を吐くにもーーー夜伽をさせるにも。ある境目から、他の短刀を外に出さずそれ≠ホかりに使うようになったのも。他の刀剣や一期さん達は外に行かないのにぼろぼろの弟や短刀達を見て、何回か尋ねたけれど頑として口を開かなく問いただす前に出陣させられていた。・・・一期さんがあの男にその訳を聞いた。夜伽の事実を知り絶望したような後悔するような怒りが爆発し、すぐさま審神者を斬り捨てようと動いたがその方法をとるのは刀剣にとっての最終手段だった。“その代償はとても重い”からだ。

あの男は殺気だった相手に、余裕な態度でにやにやと笑いながら折れても集まりやすい刀だから代えがきくと言ったそうだ。一期さんが、殺しにかかるには十分な言葉だった。でも、一番被害を受けていた乱が一期さんを必死に止めた。その必死さに一期さんはいったんひき乱に理由を聞く。

『乱・・・何故ですか!?・・・いや、キツく言い過ぎた、乱・・・すまない』
『謝らないで・・・一兄。あのね・・・一兄達が本丸にいない間・・・次郎さんが・・・僕の異変に気付いて、あの人に抗議しに行ったんだ・・・たぶん事実を確認したしだいで殺そうとしたのかも・・・』

『そんなことが・・・確か次郎太刀殿が折れた、ことだけは知っていたが』

『急いで、駆けつけたけど・・・一歩遅くて、次郎さん・・・刀解されちゃったんだーーーもう僕の所為で他のみんなが!一兄が、刀解されちゃうのは嫌だよ!』


泣きながら一期さんに抱きつく乱はこれくらい我慢できる、だから逆らわないで折られてしまうと必死に言った。乱は次郎さんが助けようとして、刀解をされてしまったのが酷い心の傷になってしまっていた。一期さんは、あの男に対してを怒りの感情を押し殺して乱は悪くないと優しく抱きしめていたーーー瞳だけは冷ややかに、昏い目の中に激情を宿して。


その様子を見ていた他のみんなは絶句。

『・・・刀解を行えたのか・・・汚いやり方だな』

鶴丸さんだけが低く声でそれだけ呟いた。



その事実に僕等が気がつくのには遅かった。

次郎さんはこの本丸の唯一の大太刀だった。その迫力ある見た目でもあるのであの男を圧倒していた、それで行動の制限にもなっていたと思う。戦闘の面でも頼りになっていて、何度か危機を跳ね除けてくれていた。でも、ある日本丸内で次郎さんの折れた刀を見つけて破壊に気がつく。同じ部隊の刀剣が、次郎さんが軽傷は負っていたけどまさかこんなことになるなんてと憔悴しきったように言っていたけれど、真相を追求する間などなく今までこの件を置いていた。

ここで発覚するとは、思って見なかったけれど。

堕ちる覚悟だったのか
次郎さんは乱を気にかけていたし、乱も次郎さんと仲が良かったからーーーなおさらだろう。


それから、程なくして乱が耐えきれず折れてしまった。


後に夜伽の事実を短刀のみんなから確認したけれど、黙っていたのもあり。
前田が、連日のように出陣させられぼろぼろの状態の兄達を見て、これ以上余計な気を使わせたくなかった逆らえば兄達を破壊すると脅されていた、と・・・破壊間際に言っていた。
刀といえど主導権を握ってしまえば従えさせやすかったのか、いつの間にか審神者ができることを調べたのか教えてもらったのか、刀解をちらつかせていたのだ。短刀の僕と薬研と今剣や一部は、あの男にとって好み≠ナはなかったらしくその対象≠ノ使われることは無かった。

ただ暴力は奮われ続けたことと遠征にばかり行かされたことで、遠ざけせられ気がつくのが遅すぎた。


そして、一期さんはその事実に耐えきれなかった。鯰尾さんと薬研はあの時止めれなかったことを、ずっと後悔し続けるだろうと泣きそうな顔で言っていた。自分達の言葉が届かなかったことを、一期さんの最後の願いがあの人の枷になってしまったことも。




夜が更けた頃だ。

断末魔の叫び声が本丸中に鳴り響くーーーあの男の声だった。

奇襲だと急いでみんな駆けつける。
審神者の部屋と続く廊下の途中、薬研が前を見て硬直して立っていた。その背中にぶつかりそうになるのをなんとか止めて、薬研が見つめる先を見た。

審神者の部屋だ。半開きの戸から、徐々に弱々しくなる声と肉を切り裂く音。衣の擦れる音がして、そしてーーー部屋から出てきた薄っら笑ったままの鶴丸さん。

いつもの真っ白の姿は全身血飛沫を浴びてまだらになっていた。蒸せかえる血の匂いと隙間から見える部屋の中は真っ赤に染まっている。

『つるまるの・・・旦那・・・まさか!』

薬研は顔を青ざめさせてつぶやいた。集まったみんなは呆然と言葉を失っていた。

金色の目をぎらぎらさせて、鬱蒼と笑いながら鶴丸さんがいう。


『もっと、早くにーーー片付ければよかったのになぁ・・・契約の隙を探すのに時間がかかちまった・・・確実に仕留めないと・・・・・・・・・な?』


驚いただろう?


白い人の周りに黒い靄がゆらりと、纏わせて。



15/6/21

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