刀装シリーズ | ナノ






調味料を作りたい1




戦に倒れるのがーーー刀の習い・・・か。
阿津賀志山ーーー厚樫山にて燭台切光忠は朦朧とした意識の中、思った。



隣を見る。目を閉じ仰向けに横たわっている、僕と深い関わりを持つ彼を見て、微かに聞こえる呼吸音に少し安堵した。

もう使えないと、思ったのだろう。先ほど自分達の主である彼女に帰ってこなくていい、ごめんね≠ニ宣告された。このままでは破壊するのも時間の問題。刀である僕が望むのは可笑しいかもしれないがーーーああーーせめて穏やかな場所で眠りたい。

幾分か、意識を気力でもちなおす。そう強く思いながら真正面を見る、上半身を起こし背を木に預けたもう一振の彼をみた。

「・・・ここよりーーマシだと思うところに移動するよ・・・同田貫・・・君・・君はどうする?僕達につい・・・てくる・・・?・・・ゴボッ」

「そんな体で、移動できるの、か?俺も、言えたもんじゃねえけど、な」

「さあ、どうだろう・・ただ・・・大倶利伽羅を連れて・・・ーー眠りたい」

「・・・」

ついてくるかと問いかけた、吐いた血を袖口で拭う。実戦刀であることを主張する彼は、戦で刀が折れるのは道理と、しばし休憩中に話していたを覚えている。
何時も好戦的な色を宿している彼の瞳は、覇気のない濁ったまま。どことなく疲れきっていた。無理もない、僕達の部隊は僕達以外、中傷重傷のまま出陣させられたせいか、歴史修正主張者との抗戦でーーー崩壊した。中途半端に、手入された僕達三振は生き残ってしまったのだから。

苦しそうだったけれどようやく解放されるといった表情で、折れた刀の姿に戻った彼等を見て、悲しいというより羨ましい、と思ってしまったのは僕が疲れているからだろうか。 黙ったままおもむろに立ち上がる同田貫は、不器用だが労わるように大倶利伽羅を背負った。その行動に彼は自分達についてくると判断した。 口ではどうのこうの言うが、彼は存外優しい。


最初こそ、僕達の主は優しい女性だった。
彼女と過ごしたのは、半年間のことだったけれど。擦りキズ一つで手入を行い、軽傷で取り乱すほどだった。進軍は想像通り慎重で、好戦的な一部の者達の反発は少々あったらしい、僕達みんな彼女のことを好ましく思っていた。せっかく人の形を得たのだから、人間らしい生活をしましょうといって、僕達に人と同じような生活を与えてくれた。お礼といってはなんだけど、刀剣の中でも調理のできる僕は彼女に料理を振舞ったら、美味しいと喜んでくれた。審神者達がいうレアな太刀は居なかったが、和気藹々としたーーー幸せというのだろう暮らしをしていたと思う。

だけど、ある大きな演練で彼女は恋に落ちてしまった。刀剣の中でも最強、レア、一等、美しいと言われるーーー蒼い月に。男士に。

最初こそは、夢見る乙女のような彼女だったが、鍛刀や厚樫山を何回、出陣しても彼≠ェこない焦りから、どんどん本丸の状況は変わっていた。簡単に言えば、無理な進軍、手入の時間削減、資材の調達・減少、人らしい生活などはなくなっていた。その頃には彼女は僕達のことなど、とっくに見えていなかった。恋は女を変えるというが、良い方ではなく最悪な方向に変えてしまった。


次第に僕ら刀は折れていき、本丸はあれ荒んでいった。それでも、憎みはしたけれど誰も彼女を祟ることも、謀反を立てることもしなかった。恨めなかったのだ。彼女の零すごめんね≠フ言葉に。それが、ただつぶやく言葉だとしても。

変わる前の彼女に思い馳せて。
周囲を警戒しつつ、ゆっくりと進んでいた僕達がある場所に、一歩踏み出すと不思議な空間へと切り替わった。本丸が見えた。噂に聞いた放置本丸?と、思ったが空気が澄みすぎて、そして荒れてなどいない。寧ろ、これは。

「おいおい、嘘だろ」
「神域より?」

驚く同田貫くんに背負われた大倶利伽羅ーー倶利ちゃんが呟いた。彼等の言う通り、僕は息を呑んだ。普通の本丸に見えるここは、とてもじゃないが神気に満ち溢れていた。完全とはじゃないが、人間が入ればなんらかの影響を受けるだろう。そして、僕等には緩やかだか優しい気が流れ混んできた。

「倶利ちゃ」
「黙れ」
「起きた、の?あ、れ」

倶利ちゃんに喋りかけようと口を開くと、気が緩んだのか意識が遠のくーーーヒトの形が保てず刀姿に戻った。それが合図となり他の二振も、大きな音立てて落ちる。


大きな木の合間から暖かな日が射し込んでいるーーーー少しずつ消えていく・・・誰かの足音が聞こえる・・・どうなるのだろうーーああ、せめて穏やかな場所で。

15/5/2

[ 16/106 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -