刀装シリーズ | ナノ






語る短刀の昔話2



僕は鍛刀ではなく落とされて拾われた刀だった。それも初期の部類にはいると思う・・・実はこの本丸で長くいるのは今残っている短刀の三人。様々な理由があって、一度も折れずに最初の一振のまま存在している。まだこの本丸出来たばかりの頃、その三人と初期刀であった歌仙兼定さんの四人で本丸をしばらく維持していた。

僕等の前の主というのはーーあの男≠ヘ、とてもやる気の無い人間だった。あの男は本当にすべてのことに対してやる気がなかった。(最近、実装されたという来派の刀もやる気が無いのが売りと噂らしいけど、その刀とはまた別の、そんなもんじゃない)

記憶にあるなかでも豹変するまでは、ほとんど特別なあの部屋に閉じこもり、審神者が本来やるべきことであるのを全てこちらに任せていた。お前らの好きにしろ、勝手にやれ≠ニいう主命を下し、戦ごとならまだしも、僕等は当時人になりたてだから人間のすることには理解し行動に移すのが本当に苦労した。なので、人のような生活をちゃんとするようになったのは彼女が来てからだ。

なかでも、薬研と歌仙さんはまず人間の使う機械の操作方法を覚えて、政府に報告する提出用の書類を作成するのにものすごく苦労したという。途中で、器用な方の薬研でもうまいように扱えない物体に苛立ちのあまり破壊しそうになっていた。全員で止める騒ぎだ。焦った歌仙さんがあの男に、刀剣男士にでもわかるようにそれの扱い方もしくは内容が読める説明書かなんかないだろうか、と聞きにいった。あの男は、面倒くさそうであるが基本は教えてくれたらしい・・・最初からそうしてくれと結構腹立ってたらしい歌仙さん。青筋を立てながら僕等に愚痴をこぼしていた。(歌仙さんは愚痴は雅ではないと自覚していたけれど、はきださないとぶん殴っていただろうな)

そもそも刀にやらせていいもの?審神者の仕事をよほどやりたくないのかそれとも無理矢理やらされているのか、それにしても中途半端に任すのはあまりにも無責任すぎる。と何度か心の内で思ったことか。事情はあるかもしれないけど僕等の主≠ノなったからには最低限のことはして欲しい。僕等を顕現させたのは紛れもないあの男だ。全員そうは思っていたけれど、歌仙さんがいうには最初からそんな感じらしいのですでに主≠ニ認識するには印象が地の底まで落ちていた。それでも、僕らは僕らなりの関係を改善しようと努力したつもりだ。後から・・・それが無駄骨だったと深く思ったけど・・・。




薬研達がそれに手こずってる間、僕と今剣は馬当番を担当することになった。出陣の際にはこちらがお世話になるし生き物なので面倒をみないと、らしい。やらなければいけないことで、馬当番には向いていないと思っていた僕には馬が怯えているようにしか見えなかったので憂鬱だった。そんな僕を呆れることなく率先して支えてくれたのは今剣。馬の機嫌を取ることが得意な今剣がいてくれたので面倒を見る間、特に困ったことなんてなかった。

でも、正反対すぎる性格。僕自身、自分でも暗いて思っていたし、周りを明るくさせる今剣には少しだけ劣等感を持っていた。だから苦手意識があったかもしれない。だけど、ある日。

『さよはどうして、うまがきらいなのですか?』
『馬が嫌いな訳じゃないよ・・・動物にはこのドス黒い気みたいなものがわかってるんじゃないかな。・・・怯えてるんだ』

餌を与え中に、なんとなく聞いてきた今剣の言葉がきっかけとなって、常々思っていることを話してしまったのだ。

『おもいこみですよ!うーん、そうだ!ためしにあたまをなでてみてください』
『撫でるなんて』
『さよからうまにあゆみよらないと!・・・うまにはわかるんですよ。だいじょぶ、さよがうまのことをたいせつにしてるのはつたわっていますよ』
『出陣に必要だから面倒見てるだけだよ』

『そんなことないですよ。うまがえさをたべてるときとか、からだをあらってあげてるときとか、すごくやさしいひょうじょうでさよはみてるんですよ!』
『・・・っ!』

撫でてみろと急に言ってきた今剣に、僕は躊躇っていたけれど思わぬ自分のことに動揺した。指摘されるまで、自身のことなのに気付かなかった。

(僕はそんな表情していた?)

おそるおそる、馬の頭を撫でてみる。馬は餌を食べる動きを止めて、こちらを見た。それから、僕の手に嬉しそうに頬擦りをする。

ーーーなんだ。怯えてたのは僕の方だったんだ。


『・・・今剣、ありがとう』
『どういたしまして!』

もっと言いたいことはたくさんあるけれど、その一言を言うだけが精一杯でとても心の中は優しくて暖かいものが溢れそうだった。しばらくそうしていて、様子を見に来た薬研と歌仙さんが僕等を見て、少し目を見開いたあと優しい顔して頭を撫でられた。どうやら僕は周りに心配されてたのかなちょっと恥ずかしくて嬉しかった。後で、苦手意識を持っていたことを今剣に話して謝ったら、そんなの知ってた。でもそのくらいでへこたれる自分ではない。諦めて仲良くしよう≠ニ言われて、沸騰しそうなくらい恥ずかしかった。

これが僕と今剣が仲良くなったきっかけだった。



それから、畑については人数も少ないしそこまで手をまわせなかったから、そのまま放置。馬の餌とかは倉庫らしきものにたくさんあったから心配はいらなかった。食事は必要ないものだと思っていたし、忙しいすぎてそれどころじゃない。入浴は大きな風呂場はあるもののお風呂の入り方とかわからない、そもそもそんなことしていいのかすらわからなかった。あの男とは必要最低限の会話しかしていなかったし。でも、ずっとそのままでは気持ち悪い感覚を持ってしまったので井戸水で体を拭うくらいはしてた・・・歌仙さんは雅じゃないと、ぼやいていた。

鍛刀や刀装や手入は審神者であるあの男がいないとどれも成り立たないので、なんとかあの部屋から引きずりだした。手伝い札は常に使い舌打ちされるたびに、嫌な気持ちになるけどみんな自分自身を納得させて我慢していた。でもそれも御上にどうにかしてもらったのか、この本丸限りだけど刀剣男士だけで行えるようになった。これで引きずりだすことはしなくていいけど、もう呆れしかでなく、それを機に僕らはもうあの男に何かを思うことを捨てた、あれはああいう人間なのだ、と。

その頃には、鯰尾藤四郎さんと前田藤四郎が仲間に加わっていた。二人ともあの男への反応はだいたい僕等と似たようなもの。だけど、忠誠心の高い前田はとても落ち込んでいて、鯰尾さんは馬当番の件であの男と一悶着あったらしく不穏な動きをしていたので、全員監視の目を光らせていた。審神者との信頼関係などないに等しいので、最悪な方向にこじれないようには均等に保っていたから。


そんな毎日を忙しく過ごしていたある日、日課ではあるけど色んな要因で実質三回しかしてない、鍛刀の課題を終わらせるため鍛刀部屋にいた。しかし事件は起きた、レア太刀?らしい刀(当時レアの意味が理解できてなかった)ーーーーー鶴丸国永さんがやってきたのはみんな驚いた。そんな反応に満足したのか、鶴丸さんは上機嫌。人員的に、鶴丸さんの参入は喜ばしい変化だ。先の時代に行くのに、刀が打刀の歌仙さんと脇差の鯰尾さんばかりに負担がかかってしまっていたから、太刀である鶴丸さんがものすごく心強かった。練度に関しては、歌仙さんが急がず少しずつ上げていこうという方針にしてくれてるので大丈夫だろう。

一応、新しい刀が来るたび義務としてあの男に面通しをしてるため、申し訳ないけど上機嫌のままの鶴丸さんを連れて行く。まあ、それも・・・あの男の態度ですぐ変わったけれど。あの男は、鶴丸さんを見るなりいつもの反応とは違い、ねっとりした気持ち悪い目線で舐めるように見ていたのだ。流石に、その場にいた全員がその気持ち悪い視線の意味に気付いたので、どん引きしながらなんとか雰囲気を変えようと動こうとした時。鶴丸さんが鶴丸節を炸裂させたので、最悪な方向にいったん免れた。あの男は、舌打ちして残念なものを見るように鶴丸さんを一瞥して部屋に帰っていった。僕等もあれの近くに居たくないので、さっさととんずらして妖精のいる鍛刀部屋に避難した。


『細身だし、確かに女装させたら見えなくもないけど・・・もうあれが主なんて!』
『歌仙聞き捨てならないこと聞こえたんだが』
『本当に気持ち悪いですね!』

『鯰尾兄の時よりも、酷いなあれは・・・』
『そのうち、たんとうでだきょうしてひがいがでないかしんぱいです』

『まさか、性的対象に見られるとは・・・驚いたぜ。気分のいいものじゃないが』
『・・・あの目線、やっぱりそうだったんだ』
『あああ、なんだあの雅も風流の欠片もない人間は!俗物にもほどがある!』

『主君・・・』
『前田、げろ・・・大将に絶対、床とかの単語を言うなよ。様子がおかしかったら何か命令をくだされるまえに俺っちでも鯰尾兄でも誰かの所に逃げろ』


口々に言う刀剣達。いい知れぬおぞましさに、僕ら短刀組は妖精を抱き込みひたすら紛らわせていた。


この時の予感が、後に様々な苦痛を暗示してることにまだ誰も気付かない。



15/6/5

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