刀装シリーズ | ナノ






ブラック本丸でやらかした

ーーー触れる間際、懐から見慣れた小さなものが素早く飛び出した。

それはその勢いのまま審神者の額に飛びつき突き刺す。

ぶっすり。

「ぎゃあああああ」

手で叩かれるのを避け飛び退く小さいものーー刀装兵と、両手で額を覆う審神者は転がりまわっている。刀装兵は、ふんすっとした表情でそれを見ていた。

・・・。

飛び出してきた懐をもう一度確認した。小屋から出たときはまったくいなかったというのに。

「・・・お主。いつの間に」
「ぴっいいいいい!」

やったぜええええというような表情で小さな剣を持って片手を挙げるのを見て、興奮してるらしく、取り敢えず詳しいことは後で問い詰めよう。転げ回る審神者の尻目に茫然としたままの石切丸へと再び問いかけを。

「今の光景は偶然だが、俺がこの審神者をどうにかすることなぞ容易いぞ?この自信満々なところから、本丸にも何か仕掛けているようだが・・・これを捻り上げて吐かせればいい」

俺は隠していた姿を曝けだしたが、石切丸はもう驚くことなく苦笑したような疲れた雰囲気が漂うだけだった。自棄になってはいないな?


「君はもしかしてあの℃O日月宗近か・・・・・・厚樫山で変わった三日月がいると以前どこかで聞いたことがある。

あれでも、私たちの主なんだ。恨みたくも憎みたくもない。だが、このままでは私たちは・・・もし状況が少しでも改善できれるのなら協力してほしい」


これを審神者とするのは、頑として変わらぬ態度にこれ以上何も言うまい。代わりがいくらでもいると言われたのにな。持ち主が要らないと捨て去るか他に譲るまでこの審神者が持ち主なのか。刀剣も難儀のものよ。その姿に懐かしく思うが。元より殺すことは前提にしてなかった、様子からして深く憎悪までにもいかない。状況を改善か・・・よし、さっそく改善してみるか。

それにしても、どうやら俺のことを知っている様子だ。結構目立った動きしていたりするからな、どんな噂が囁かれているのやら。

「虐げられていながらこれを主とするのか・・・なあ、審神者。主思いの刀剣達でよかったな?」
「ひっ!」
「この様を見て、少し優しくしてみないか?」
「だ、黙れ!物の分際で人間に指図をするな!お前らなんか、命令すれば、すぐに従せられるんだ!・・・あれ?」

懐から何かを取りだそうとしたみたいだが、なかなかでてこない。ひたすらごそごそと探している。探している間の、奇妙な沈黙が変な雰囲気へと変わっていっている。

「あれ無いぞ!?なんでだ!?ちゃんと仕舞っていたはず!?」

目に見えて膨らんでいく焦っている様子に、どうしたものか・・・待っているのもな?そう考えていると足につんつんとした感触がした。下を向いて見ればーーー刀装兵が、はいっ、と両手に掲げて差し出したように持っている。なにやら禍々しい物体。


お前か。


転がりまわって会話している最中に盗ってきたのだろうか。なんにせよ、それを受け取り片手に持つ。


「探しているのはこれか?」

未だに探している審神者にそれを見せつけるようにしてーーー

「あっ!それは!かえせーーー」
【バッキイイイイイイイ】
「えっ」


片手でそれを粉砕する。


審神者は最初なにがわからない表情をしていたが、壊したことを理解したのか絶望したような表情と、石切丸がうわあという表情をしていた。感覚でこの本丸を覆っていた縛りがやわらいだような気がする。消え去っていないのは、そこかしこに補佐するものが散りばめられているのだろう。

「なあ、審神者。手札これだけか?」

「その呪具が壊されるなど、そんなことが、壊すならなにかしら影響をうけるはずだぞ。この本丸に入った時点で俺に逆らえないはずだ!」

審神者は予想しえない事態に狼狽えている。少しずつ後退している、逃げれるとでも思っているのか。

「刀帳を見てみたらいい。俺はここの本丸に入ってないぞ?」
「刀剣と審神者の主従において名乗りは大切。お主は俺の口上を聞いたか?」
「そんな馬鹿な!そんなことくらいで・・・」
「ああ、あの術式か?そんなの、お主がこの本丸に俺≠ニいう侵入者を許したのだから無効になっている、小さな不都合も塵と積もればなんとやら。さて?いい加減そろそろ俺の姿をちゃんと見てみろ」

「は?なん・・・黒い靄に、目が赤い・・・お前歴史修正主義者側か!?」

通常とは異なりそう見えているらしい俺の姿は、敵の容姿に近いと以前知り合いの審神者に言われたことがある。

「おい!お前。なにをつ立っているんだ!早く、それをなんとかしろ!」

先ほど話を聞かずにしていたのはどこのどいつだったか。

「石切丸よもう一度聞く。今の状況が変えられればいいんだな?審神者は替えなくてもいいんだな?」

「え?いや、まあ・・・え?」

「ーーーなあ、審神者。真名≠フ効力。神々との約束≠フ効力。すべて使ったらどうなると思う?」

その一言で叫び声を上げ審神者が逃げだした。その意味を知ってはいるんだな。あの体型だというのに何気に逃げ足が早い。

転がるように部屋から出て行く、一直線に門の方へ逃げて行くが、まあ間違いなく現世の方であると思う。あちらに襲われたとでもいうのだろうな、誤魔化して自分の行なった行為を隠すというのならこれの上にいる連中はこれと似たりよったりか。
さて、逃げたとしても逃す気はないので焦らず追うことにしよう。こんなこともあろうと、門に少しばかり細工をしといた。


硬直したままの石切丸の手を引き促し連れていく。それからーーー肩にちゃっかり乗っかている刀装兵を見て思う。まさか、な。

(こやつ、一つだけか?)




ーーーその門は何故か馬達によって遮られていて、この本丸の刀剣男士の頭や肩に乗る、留守を言い渡したはずの刀装達を発見することとなった。


刀装達が気づきいつもしっかりと刀装の代表らしきがあわわとしている。他の汗をだらだら流す刀装兵と赤眼は蛇に睨まれた蛙のように硬直していた。恒例のようにぶすぶす刺してくるあの赤眼を、指で摘んでぶら下げ避けながら言った。

「・・・御前達、いいつけを破ったな?」

審神者を追いかけてみれば、何故か馬小屋に居らず八頭の馬達が門の辺りを包囲している。馬が立ちはだかっており審神者は逃げれないようで、おまけに馬達は積年の恨みとでもいうかのように、その恐ろしい蹄を審神者の目の前でちらつかせていた。

前方には馬。後方には三日月を筆頭とした刀剣達とその他の者達。

現在、先程の部屋でのやりとり≠ナそれまで審神者が刀剣達が反抗できないように縛っていた術を無効にしたため抵抗できるようになっている。もはや審神者には逃げ道などないだろう。審神者が恐怖に堪えきれず命乞いし始めた姿に・・・突然、審神者の豹変により意味もわからず困惑していた刀剣達は変化に気づいたらしいのかそれから色んな感情を抑えたような、その姿を冷ややかに見ていた。何も言わずとも今までこんな人間に恐怖を抱いていたのか≠ニいう感情が冷えていっているように見えた。

その傍ら三日月の肩には懐に忍びこんでいた、やったぜ!とやりきった表情している刀装兵がいる。隣には石切丸が交互に周りを見ているが、さっぱり検討つかないだろうよ。他の刀装達の傍らにいた薬研藤四郎が代表するように、困惑した表情でこちらに尋ねてくる。

「あんた何したんだ?あの大将の様子・・・」
「なに、少しばかりこちらにも抵抗する手段をちらつかせたこと。もう、今までしてきたことをする気力はないのではないか?・・・この馬達は・・・いや」

刀装達が目をそらしているので、こやつらの仕業だな。最終的に逃げる気力も削いだからよしとしよう。

思ったよりことが進んだ。しかし結局、石切丸とは碌に話していない・・・これからどうするか?
一応順序を立てて進めても、それの通りにはいかないものだ。四つん這いで逃げようと足掻いている審神者。俺は逃げようとする赤眼達を回収し袖にぽいぽい放り込みながら考えた。

「実はこいつらが、この手筈を整えてくれたんだ」
「だいたい察しはつく」
「つくのか・・・こいつらはなんなんだ。あんたにも言えることだが」

説明しずらそうにしてはいるが喋りはじめる薬研。姿を見れば中傷のままだ。他の刀剣の姿も見渡せば、薄汚れていたり軽傷でいたりする。



俺の姿に気づいたへし切長谷部に物凄い早さで抜刀された。

「き、貴様!逆行軍だったのか!?」

そういえば、姿を隠していなかった。まあ、いい。





「審神者、この本丸にいる刀剣をすべて手入しろ」
「ひいいいいいいいいいいいいいい」


長谷部は気にせず手入部屋へと自主的に案内してくれる妖精達に礼を言い、審神者に近づき引っ掴んで連れていく。



「え・・・主?え!?」

「旦那・・・俺もよくわからないが、手入してもらえる機会だ。重傷者を優先したいから手伝ってくれ」

「大丈夫なんでしょうか、鶯丸殿」

「なんとかなるんじゃないか?あれはまた別物だ」

状況についていけないその場にいた刀剣達は哀愁が漂いはじめていた。




怯えている審神者に刀を少しちらつかせれば、すぐさま手入へと行動した。鍛刀用の資材や手伝い札もたんまりあるため、時間はかかったもののすべての刀剣が回復した。審神者は今まで自分のしたことが、刀剣にーーー神に裁かれるんじゃないかと、ひたすら震えていた。実際は命令すれば聞く者もいるが、もう敵わないと反撃を諦めている。

この様子だと当分?もう手出ししてくることはないだろうと推測する。それに、また今の状況になったとしても以前のようにまったく抵抗はできないわけでない。

それから刀装達によって一つ残らず補佐していたものを発見し破壊した。溜まっていたらしい澱みらしきものは、赤眼が吸収したらしいが驚くことばかりする。ついでに先ほど破壊した残骸が、俺に残っていたらしく、それももれなく吸収した。げぷうっとしている赤眼を復活した短刀達が恐る恐る観察していた。





第一部隊が中心となり今後の本丸のついて話あうこととなる。

「模索しながら、現状を改善していくよ。主の性根もこれから矯正していけたらいいんだが・・・ある程度、おかしな動きはしないか近侍という名目で監視しておこうと予定はしている」

「夜伽で傷付いたものもいます・・・少しずつ癒していければ・・・」

「主の周辺にいる輩も、似たり寄ったりかもしれない。もちろん、政府の人間もな。今後、主を変えたとしてもなにをしてくるわからない。しばらくこのままでいいじゃないか?」

「本来、味方のはずの奴らまで気にしないといけないなんて・・・嫌になるね」
「・・・いつの世もですな」



「三日月、君達はどうする?確かに君には問題は色々あるけど、君達のお陰で私達は解放された・・・君がよければこの本丸の一員と、でもいわない。本丸に入るのが嫌なら、それでもいいし・・・できることなら君とその子達にもお礼がしたい」

「礼はいらんが、このまま放って帰るのも無責任。そうだな。帰ろうかと思ったが、お主らがいいのなら暫くこの本丸が安定するまで、ここへ滞在させてもらおうか」

「ぴっ」







今日は長い一日だった。一通り問い詰め、説教した後。体にまとわりつく意気消沈した刀装達を見つつ、手に擦り寄る銃兵を撫でた。

「今回、御前達が色々してくれたのか、俺はあまりしとらんの」
「ぴっー・・・」
「なに責めてる訳ではない。ただ、な」


ありがとう。手助けしてはくれたんだろう


そう言えば刀装達はよじ登ってきた。その心遣いに俺はとても癒されている。



15/9/22

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