刀装シリーズ | ナノ






ブラック本丸の彼は悩む


赤眼と刀装兵の一連の流れを見ていた周りの刀剣達はどうしたものかと、どう行動していいのかわからないでいた。相手が誰であれ助けようとしてくれる事例は今回が初めてではない。これまであの持ち主に虐げられているのを、演練など通して他の審神者達が雰囲気がおかしいことに気づき、なんとかしようとしてくれたことがあった。
しかし、逆にその審神者達が酷い目に遭わされて巻き込まれてしまった。その審神者のその後知ることはなかったが、ただ遣る瀬なさに目を瞑った。それ以降はそんなこともなくなり、自分達も他の本丸が巻き込まれないように気をつけた。
元から政府も担当も持ち主側寄りなのをこれまでの態度で知っているので期待なんて出来ない。

お供の狐は、心底困ったように口を開く。

「どうしますか、皆様?この刀装達・・・我らを助けたいと申していますが・・・そもそも彼らはあの方の持ち物であの方の行動に勝手ながら動いている、と」

「あの人が大きく関わっているんだよな」

そうこの刀装達はつい先程、ここに来た三日月宗近≠フ持ち物である。
だが、三日月の行動もこの刀装のこともまったく訳がわからない。いや、石切丸とともにあの部屋≠ヨと続く廊下通る天下五剣を一目見たとき、演練で時折見かけた三日月宗近と何処か違うと違和感を感じていた。

この表現豊かすぎる刀装達を見て気のせいではなかったということか?

「あの刀は歴史修正主義者か、それよりなのか?ただ刀装ならまだしも、この黒い刀装はあれらのものだろう?・・・信用ならん。こちらの弱味につけこんで甘言で、この本丸を利用して落そうとしているのではないか?それか内部に潜り込むためか」

こちらの言葉がわかるのか。違う!と抗議しているような刀装兵達。

「自分達は怪しさの塊だけどそんなことさらさらする気もない。三日月の行動にも理由がある。黒い刀装達の勧誘行動はついしてしまったことだから、注意する!≠セそうです。ちょっと私めも理解の範疇が・・・怪しいという自覚はあるんですね」

刀装兵の伝えたいことを随時、通訳してくれるお供の狐。手の平に乗るくらい小さな刀装が必死にわたわた伝えてくるので、この疲れきった思考を放棄して若干・・・絆されてもいいじゃないかと思えてくる。だがいまだ残る理性的な部分が制止している。長谷部の考えも間違えではない彼の気持ちもわかる。侵入してきたこれを壊し、すぐさま疑惑のある三日月を対処するのが本来すべきことだろう。

こんな怪しさものの甘い言葉に耳をかすのは、刀剣男士として駄目だということはわかっている。しかしーーーもうなんでもいいから、この現状を打破したいと思っているのは事実。

戦の為に応えたというに、性欲処理の捌け口にされ無茶苦茶な指示や気分で無造作に扱われる日々は、感情を得た今ではこんなにも苦しい。
嫌悪感を耐え行為を耐える刀達をどうにもしてやれないのが悔しい。
時間が経つにつれ人の感情を自覚していくたびに、ともに戦った他の刀剣達が折れいく、消えいくのが悲しい。・・・戦をしているのだ、戦いの中折れるのならば仕方ない。傷つくのは当たり前だ。そう思おうとしても。

だが、痛みを感じるこの体に、傷を治さず放置されたまま手入れすらしてもらえないのは身に堪える。その感情が、持ち主に対する憎悪として変わっていく。

ーーーでも、どんなに憎んでいてもあれが主≠ネのだ。
物として刀剣としての心が頑なに殺す≠アとを拒んでいる。

(それも、もう少しで)

堕ちてしまいそうだ。

前に見た他の暖かな家族≠フような本丸のようにとは言わない・・・せめて、せめて、自分達を刀と扱ってほしい、最低限の人の生活や手入れ等してもらえるならばそれだけでいい。

契約で縛られ自壊もできない状態。現時点で破壊はぎりぎり免れているが、ずっと重傷で放置されている。本丸に侵入してきた刀装兵の行動、おそらくこの行動からあの三日月も自分達の為に動いているのかもしれない。

だから、それなら。藁にも縋る思い。こんな事態、初めてなんだ。

「とりあえず、広間にこいつらを連れて行こう。俺っちはこれを悪いものだと思えない。他の皆に相談しよう。もし、なにかあれば速攻で壊せばいい。それに、石切丸の旦那とも話をしておきたい」

「だが・・・いや・・・少しだけ様子を見るか」

薬研の提案に、納得できないのを押さえこむのは長谷部だったが彼もまた抱えた葛藤に苦しんでいた。主≠ノ刃を向けたくないのと、このままではこの本丸の刀剣男士達がずっと苦しんでいく、それかーーーということ。鳴狐や、一期、江雪も同じように、もしかしたら今の現状を、何か少しでも変えられるかもしれないとうっすら思いを抱くのだ。



まあ、しかし。

「それにしても、勧誘・・・されていたのですな・・・自分は!自分は、そこまで堕ちていたのか・・・!」

「あれでも・・・今は持ち主=E・・刀を向けるのを必死に抑えていましたが・・・もう・・・無理なのでしょうか」

「お供の狐・・・通訳してくれるのはありがたいが、追い打ちかけるような通訳は黙っといてくれや。広間に行ったら特にな、刺激的なことは控えてくれ。約二名、諦めかけそうになってる」

「あちらには、兄弟殿が居ますからな。わかりました」

お供の狐の通訳に衝撃与えられた約二名は崩れ落ちていた。



お、これはいけるかも?と追撃しようとする赤眼を、薬研の手の平から降りた刀装兵が背中を引っ張って引きずっていくのだった。銃兵に三日月を任せるのが少し心配だったから(何しでかすかわからない)、もう一つに任せたのが失敗したかもしれない。

指揮とるの大変。





大広間に行けば、傷だらけの刀剣達が各刀派ごとに奥の方で縮こまるようにして身を寄せ合っていた。ぐったりしている重傷者は横たわらせ、近くに守るように比較的動けそうな刀剣が控えている。

ビクともしない横たわる山姥切の頭を撫でいる彼の兄弟らしき刀達。

小夜左文字を膝の上に乗せ守るように抱いている宗三左文字。
そちらに、江雪が向かう。

「虎くん達大丈夫だから・・・ね・・・」

重傷の五虎退に同じく傷だらけの5匹の虎が心配そうに擦り寄る姿。

・・・見た感じ全体的に重傷は短刀が多いと思えた。周りに居る粟田口の兄弟達の側にいる鶯丸と鶴丸国永、広間に入る一期の姿を確認してか目があうとこくりと頷いてから目を瞠って驚いた表情をする。

「驚いたな・・・一期。君いつの間に・・・いや、薄々危ないと思っていたが・・・遂に・・・でも、正気にも見えるが?どういうことだ?」

「鶴丸殿、私は正気ですよ。肩に乗ってる・・・これには色々なわけが・・・ですね」

ちゃっかり頭や肩に乗ってる幾つかの赤眼の姿、ぎょっとしている鶴丸に目が死にそうな一期が答える。そんな心情も知らず、自由気ままに赤眼は他に闇堕ちしそうなのいないか広間をきょろきょろ見渡していた。

しばらくがっかりしたように肩を落として大人しく一期の頭や肩に座り直す赤眼。
なにか伝わってしまったのか、一期が再び崩れ落ちる。慌てて動けそうな粟田口の兄弟達が駆け寄っていた。ちなみに左文字でも似たような光景が。

それにしても、赤眼の反応からして意外と理性的なのが多いらしい。たぶん、喜ばしいこと?


「鶯丸殿、石切丸殿は?」
「まだ戻ってきていない、あれだな。あの三日月をかなり気になっていたからか、それとも主≠ニ二人っきりにするのはまずいのか。今のところ殺気もなにも感じないので大丈夫だろう」
「そうですか・・・」

「お前達の肩や頭に乗っている、それらは妖精達が言っていたやつか?今日はおかしなことばかりおきる」
「鶯丸殿は、相変わらずなのんびりな反応で。・・・はい、こちらは一応、様子見の形で全員でお話をしようということになったのです。私から見ても、敵意がなく・・・それに」

「長谷部もそれに納得したのか、珍しい。今頃、部屋に行ってるのではないかと思っていたが。でも、疑わしきは罰するか?」
「そうですね」

「のんびり会話してる場合ではないだろう・・・石切丸は信頼している。命を受けていない俺が動くまでない」

石切丸のことを聞くお供の狐に鶯丸が返答する。後に続く会話はなんとも穏やか。黙って聞いていた長谷部が会話を打ち切るように言う。

酷い目に遭わされているはずなのに、ここの本丸の刀剣男士はすごく寛容とういうか自制心が強いというか、闇堕ちしそうな一期や江雪でさえ穏やかに見えてしまうのだ。三日月から聞いた話では、こういう本丸はたいてい刀剣男士が攻撃的らしく、後任の審神者が悲劇的な目に合う確率が高いらしい。・・・なんとも言えない。


ここの本丸の男士こうなのに、あの審神者が無体ばかり働き続けるから、救いようのなさが際立つ。

もしかしてこの堪えているところがいい気にさせているのなら、あまりにも。

ここは練度が高く、れあ刀剣が多いから刀解や本丸の凍結という手段はとられないと言っていた。でも良い方捉えれば、ここまで理性的なら後任の審神者がつくことになるのであれば、人間にもよるが少なくとも悲劇的な確率になるのは低いかも?



・・・あ!

そうだ、証拠集め忘れてた!色々ありすぎたり、なんやかんや順調に進んでたらから、すっかり忘れてた。本丸にあるあの絡繰りが操作できたらいいんだけどー・・・あの絡繰りの中には審神者とか人間がぎゃふんと言わせるブツがぎっしり詰まっているかもしれないことを教えてくれた≠オ使い方をまだ忘れていない。実際のところどうなのかだけど、見ておいた方がいい。その場合、ここの審神者が刀剣男士にあれを使う仕事をぶん投げていることが前提でどこまで触れるのかが重要。

薬研の頭に乗っていた刀装兵は、弱い力で髪をちょいちょい引っ張る。

「ん、なんだ?」

刀装兵を掴んで手の平に移してもらう途中。

『ぎゃああああああああああああああああああ』

突然、本丸に男の喉太い叫び声が上がったのちバタバタと走ってくる音と戸が豪快に開く音。広間にいた全員がしばし硬直して、はっとして太刀や大太刀がその先へと向かう。これは、ついに三日月が何かしたに違いない!?


馬の荒ぶった鳴き声と、男の叫び声がまた本丸に響き渡る。
・・・薬研と視線を合わせて、連れてってもらった。



15/8/30

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