義経の旧友と武将の話 | ナノ

真剣な眼差し

戦の帰りの出来事だった。



「空都殿!」



歩いて陣営を目指していた空都の背後から声がかけられる。



「…あ?」



空都が声に気付き後ろを振り返れば、そこには凛とした感じの青年がにこやかにして空都を見ていた。
赤が目立つ衣装を着ているのが分かる。



「俺に…何か用?」



面倒事なら断ろうと思い、空都は青年に聞いてみた。



「いえ、用っていう程では…。
ただ、先程の戦を拝見させてもらいましたが…空都殿の武勇は見事な物でした!」

「あー…、うん…」



何故か目を輝かせて言っているものだから空都は少しばかり引いてしまう。



「空都殿はどうやってあの様な気迫ある強さを身に付けたのですか?
まさか友である、義経殿から教わったりとか…!」

「いや……そ、そんなにキラキラして言われると…だな…!」



何なんだこの青年は。
先程から珍しいものを見るような感じで見られていて居心地が少し悪い。

それに戦帰りだ。
早く陣営に戻って体を休ませたい空都は、質問をしてくる青年にはぐらかして去ろうとする。



「ええと、俺この後鍛錬とかしないといけないからさ、また今度な!」



苦笑いをしながら言えば青年はそうでしたか、と言ったから引き下がると思っていたが…。



「では、その鍛錬に私もご一緒させて下さい!」

「……はあ?」



引き下がる所か逆に食い付いてきたではないか。

全くもって面倒くさい相手と会った事に空都は後悔した。
こういう事ならば立ち止まらなければよかった、と思ったがもう遅い。



「空都殿の鍛錬を見れば、空都殿の強さが分かるかもしれません。
何より、私は強さを学びたいのです!」

「学ぶ?…なら、強さなら呂布の方が…」

「確かに呂布殿は無双の強さを誇りますが…空都殿の様な強さとはまた別なのです!」

「は…はぁ」



駄目だ、全然諦めない。

空都は中々引き下がらない青年に、折れそうになってしまう。
もうこうなると、青年と一緒に鍛錬をして納得してもらう他ない。
そこで得られる物があってもなくても、しないよりかは幾分マシな筈だ。

そう思った空都は、仕方なく青年の提案を受け入れたのだった。
その事を青年に言えば、青年の表情はパアッと輝き嬉しそうにして空都の手を取る。



「有り難う御座います空都殿!」

「…あ…あぁ。えっと、お前は…」

「あっ、言うのが遅れてしまいましたね!私の名は陸遜です。空都殿」



陸遜と名乗った青年はニコニコしながら掴んでいた空都の手を離した。



「り、陸遜は…その、何だ。学ぶのが好きなのか?」

「はい!学ぶ事は大事ですからね」



空都は陸遜の眼差しから、避けるように視線を外す。
今まで陸遜の様な者に会った事がない為、
どの様にして接すれば良いのか全くもって分からない。
だからなのか、言葉も普段通りに話せずにいる。

真っ直ぐな目で見られるのは少しばかり苦手だ。



「そ、そうか…」

「それよりも空都殿、早く行きましょう!」

「ちょ…、焦らなくたって鍛錬は出来るから…っ!」



待ちきれないのか陸遜は空都の手を再び取り、鍛錬する場所へ向かおうとしている。
どんだけ熱心なんだと思った空都だったが陸遜の輝いた目を向けられては仕方なく、されるがままにした。



「お、おい陸遜…!あんまり腕を引っ張るなって!」



だが少し、引っ張られる力が強い。



「早くしないと日が暮れてしまいますよ空都殿!」

「分かった。分かったから…っ」



陸遜に言われ、空都は苦笑いをするしかなかった。

これからする鍛錬の事を考えると、色々と陸遜に聞かれそうで疲れるだろうな。
と、空都がそんな事を思っているとは知らない陸遜は一人、鍛錬に向けて胸を躍らせていた。



「…ったく」



空都はその後ろ姿を何とも言えない気持ちで見る事しか出来ずにいたのだった。

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