義経の旧友と武将の話 | ナノ

無礼者!

「おーい」


少しばかり離れた場所から何者かに呼び掛ける空都。
その者の後ろ姿を見れば一目瞭然だ。
特徴的な三日月の兜といえば一人の人物しかいない。
何故空都はその者を呼んでいるのかというと、ただすれ違った時に気になったから、が主な理由である。


「おーい、聞こえてるのかー」


だが空都は名前を知らない為に名前抜きで呼び掛けるのだが、困ったことに相手には反応が全くない。

相手は聞こえているのかいないのか…。

それは多分、前者だろう。
少しばかり離れているとはいえ、十分に声は届いている筈だからだ。


「……うーん、反応なしか」


空都は三日月兜の者が無視を貫き通しているのは分かっていた為、何か良い案はないかと考え、そして閃いた。
すぅ、と息を吸い込んでから言葉に出す。


「あー…、そこの餓鬼ー!お前だ三日月坊主ー!」

「ええい煩いわ!わしは三日月でも餓鬼でもないわ馬鹿め!!」


即座に三日月兜の者が反応して振り返り、キッと空都を睨む。
意外といけるもんだな、と思った空都は次からこの手を使うことに決めた。


「あ…いや、だって名前知らないから仕方なくだな……」

「黙れこの馬鹿者めが!わしの事を知らぬなど無礼極まりないわ!」

「え?いや、ちょ…っ」


空都に言われた事に腹を立てたのか、三日月兜の者は睨みながら空都の側まで来て怒鳴った後、腰にあった拳銃を向けた。
空都はそれを見て慌てる。


「お、おい!幾らなんでもそれは無いんじゃないか三日月坊主!」

「わしは三日月坊主と言う名ではない!」

「だってそれ以外になんて言ったら…」

「貴様に教える名など無いわ!」

「え、…じゃあ三日月坊主って呼べって事か?」

「さっきわしが言った事を忘れたのか貴様ーッ!」


三日月兜の者を更に怒らせてしまったらしくニ、三発と発砲されたが運よくかわした為空都は無事だった。
とにかく三日月兜を落ち着かせようと謝るが煩い、馬鹿めなどと言われてしまい聞いてもくれない。
だが拳銃はどうにかして下ろしてもらえた。


「さっきは本当に悪かったって!」

「本当にそう思っておるのか貴様は」

「当たり前だろ、三日月!」

「……全く反省しておらぬではないか!」


相手からまだ名前を教えてもらっていない為、三日月としか言えない空都。坊主が抜けた事以外には変わりがない。

相手も相手で一々呼び名に怒るだけであり、名前を言おうとはしないのでこのままでは埒が開かなくなる。
どうしようかと考えていた空都は一度、正直に話してみる事にした。


「な、なあ…頼むから名前教えてくれないか?俺はその〜……、義経と同じ世界から来たからお前の事知らないんだ」


これが駄目ならばどうしようもないな。

そう思っていた空都だったが、相手から返ってきた言葉に少し驚いた。


「何じゃと…?何故それを先に言わぬのだ馬鹿め!そうと知っておれば、わしがこの様に怒る事などなかったわ!全く……」


愚痴を言いながらもすんなり聞き入れてくれたのだ。

なるほどな、と空都は三日月兜の性格を少なからず分かった気がした。
妙な所で頑固になるという事を。
後は態度が直ぐ様変わる所だろうか。
空都が武将の中でも何だか取っ付きにくいな、と思った瞬間である。


「仕方ない、特別にわしの名を教えてやろう」


ふふん、と少し偉そうにしている姿はまるで餓鬼みたいだとか空都は思ったが、口には出さず我慢した。
折角名前を教えてくれる気でいるのに、餓鬼とか言ってしまったら再び拳銃を取り出して発砲しかねない。それだけは避けたい。


「……」


相手は気紛れな奴なんだ、何とか堪えろ、俺!

空都は自身に言い聞かせながら、喋ってしまう衝動を我慢する。
三日月兜は空都がそんな風に思っているとは知らずに名乗るために言葉を続けた。


「良いか、その耳でよく聞け!……わしの名は伊達政宗、天下を取る男よ!」


伊達政宗、確かに三日月兜はそう高らかに発言した。


「……」


だが何故かその言葉を聞いた空都の顔は、徐々に険しくなっていく。
それに気付いた三日月兜…いや、政宗は少し空都を睨む。


「何を不服そうな顔をしておるのじゃ!わしはきちんと名を名乗ったぞ」

「い…いや……」


名前を教えてもらった相手には申し訳無いが、俺の中の何かが拒否をしているらしい。

空都は苦笑いをしながら政宗に向かって返事を返した。


「そのー、折角言ってくれたのに悪いんだけど……」

「何じゃ、何かあるならさっさと言わぬか」


政宗は腕を組みながら空都の言葉を待つ。


「やっぱ三日月って呼ぶよ、俺」

「な……っ?!」


素直に名前で呼べばよかったものを、空都は三日月で呼ぶことにしたようだ。それを聞いた政宗は肩をわなわなと震わす。


「……こ、こ、この…馬鹿者ーっ!わしは三日月ではないと何度言えば分かるのじゃーーーっ!ええい、今すぐそこになおれ無礼者めがっ!!!」

「わぁーーっ!?仕方ないじゃんか!というか三日月、拳銃を俺に向けんなーっ!」

「三日月三日月と煩いわ馬鹿め!わしの拳銃の餌食となれッ!!!」


命の危機を感じた空都は政宗の前から逃げ出すが、政宗は許すわけがない。


「うわあっ!本気で撃ってくんなよ三日月!」

「わしの事をまだ三日月と呼ぶか、貴様ーッ!」


その後は言わずもがな、空都が追いかけ回され散々な目に合っていたのだった。


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