それって良いもの?
2月14日記念SS。
落ちは義経になります。
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「空都、これを受け取るのです!」
「……へ?」
そう言われた時にいきなり首根っこを掴まれる。
後ろを見れば、満面の笑みをした女の人がいた。
手に何か包みがあるのが見える。
「いや、あの離してく……っ」
「ちゃんと食べるのですよ?良いですね!」
「は…、はあ……」
何だか分からないまま俺は包みを受け取ってしまった。
女の人はそれを見ると掴んでいた手を離し父上、稲はやりました!とかガッツポーズをしながら嬉しそうに言って去っていく。
っていうか、あいつ稲って言うのか。
包みを捨てる訳にもいかず俺は手に持ちながらぶらぶらしていると、再び空都と声がかかる。
「……」
後ろを振り向けば頭が痛くなった。
おい、何で俺に"女"が来るんだ。しかも三人。
それぞれに、違う装飾を施した包みを持っている。
何なんだ一体。
「おい、それって…」
「わらわから空都にぷれぜんとじゃ!有り難く受け取るのじゃ!」
俺の言葉を遮って、ずいっと包みを渡してきた女の人…いや子供だ。
有無を言わさない笑みをされて、俺は苦笑しながら受け取るしかなくて。
それに続いて他の二人も渡してきた。
「ウチからの物、食べなかったら許さへんで!空都ちゃん!」
「……」
また子供だった。
それにちゃんじゃない。俺は男だぞ。
「空都さん、いつも有り難うございます。私からの感謝の気持ち、受け取って下さい」
「…はぁ」
もう流れで受け取るしかないので、仕方なく受け取る。
子供…と言うより女の人だろうか。
他の二人よりは清楚に見える見た目だ。
「……なあ、これ何?」
中身を開けてないので三人に聞いてみる。
すると意外な返事が返ってきた。
「女子に聞くなんてもっての他じゃ!自分自身で確かめるのじゃ」
「そうそう、ウチらに聞くとかありえへんで!な、お市ちゃん!」
「そ、そうですね…」
「……」
つまり何だ?
お前らは中身を知らないままの俺に、何かを押し付けて逃げるのか?
そうなんだな?新手の悪戯か?
「……いや、それじゃ開けた時にどうすればいいか分からな…」
「役目は終わったのじゃ!早く退散するのじゃ!」
「そうやな!ほな、またな空都ちゃん!」
「……おい!」
子供二人はそそくさと退散していった。全く何なんだこれは。
「…あ、あの……中身は食べ物ですので、今日中にお食べになった方がいいですよ」
「……食べ物?」
お市、と言った女の人がすみませんと申し訳なさそうに頭を下げる。
この人はさっきの子供よりは全然良い人の様に思えた。
礼儀正しいからかな。
「あ、ああ。別に怒ってないから頭を下げなくていいよ」
「…ふふ、空都さんはお優しい方なのですね。では私はこれで……」
「あ…、食べ物ありがとな!」
お市に向かってお礼を言えば、微笑んでその場から去っていく背中を見る。
「……食べ物、ねぇ」
俺は一人その場に突っ立って渡された包み達を持つ。
食べ物にしては軽いからお菓子か何かだろう。そう思った俺は取り敢えず自分のテントに向かう為、歩き出した。
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「…………はぁ」
今日は本当に何があったんだ。おかしいだろう!
テントに着いた時には包みが4つあったのに今は数十個と増えていた。
あれから両手に抱えないと落としてしまう位に、色んな女の人から包みを渡されたのだ。
まるで嫌がらせの様に思えてしまうのは仕方ないと言うべきか。そもそも今までされた事がないのだから、何かあるんじゃないかと勘繰ってしまう。
「……皆して包みで渡すって、ある意味怖いな」
独り言を言いながら貰った包みを寝床に置く。
「……取り敢えず開けるか」
俺は最初に渡された包みを開けてみた。
確か、稲という女の人が渡した物だったか。
「……?」
包みを開けて中にあったのは、甘い香りを漂わせた茶色い物。
これは……お菓子なのか?
いや、それよりも何か茶色過ぎる。普通よりも。これは……焦げか?
「……」
でもお市が言った、"食べ物"には違いない筈だしな。
あの言葉には嘘はついてはいない。
それに捨てるのは勿体無い。
何より包みを渡した後の女の人達の表情が嬉しそうにしていたんだ。これは食べるしかない。男の意地だ。
「……よし」
俺は意を決して茶色の塊を1つ摘まんで口に放り込んだ。
途端に口に広がる甘さに顔をしかめる。
「う……。あっま……!!」
何だこれ、甘いぞ!
でもその甘さは次第にまろやかな甘味に変わって、口の中でとろけて消えた。成る程、これはお菓子だな。
良かった、俺が甘いもの苦手じゃなくて。
苦手だったら捨てていた所だぞ、これ。
「でも何で今日、女ばかりが俺の所に来たんだ……?何か特別な日とか…か?」
只の悪戯なのかこういう日だったのかよく分からないまま、俺はお菓子を1つずつ食べていく。
「……」
しかし結構な量だ。
こんな甘いお菓子を今日中に食べれるか不安になってきたぞ…。
俺が一人黙々と食べていると、テントの外から声が聞こえた。
「空都、いるか?」
この声は確か…。
「……っ。…何、用でもあるのか?」
口に含んでいたお菓子を一気に喉に流し込んで返事を返す。
「いや用事は特にないのだが、……?何をしているのだ空都」
「見ての通り、食ってる所」
テント内に入って来た者は目を見開いて驚いていた。
そりゃそうだろう。寝床に包みが山程あって、真ん中に座って食べている構図って可笑しいよな。
こんな光景、他の奴等に見られたら笑い者にされそうだ。
「……それは貰い物か?」
「そうだよ。何?義経も何か貰ったのか?」
俺がそう返せば義経は似たような物を貰ったな、と言った。
何だ、義経も貰ったのか。
「1つ、あやねに渡されただけだ。空都の様に沢山は……」
「……え」
ちょっと待て、俺が沢山貰ったって事か?
え……っ、それって俺だけ?俺だけなのか?!嘘だろおい。
「べ、弁慶は?」
「ああ、彼奴は卑弥呼から渡されたのを見たな」
「じゃあ…呂布は?」
「そうだな、貂蝉から貰ったと言っていたぞ」
「いやいや、待て待て……ちょっと待て」
何?他の奴等は1つしか渡されてないのか?
それを聞いて俺が呆然としていると、義経は苦笑いをしながら言った。
「これはあやねから聞いたのだが…今日は、ばれんたいんと言う日なのだそうだ。何でも、異性が日頃から好意を寄せている者に真心を込めて、作った甘味を渡すのだと……」
「ごほっ!!!」
義経から言われた言葉に、食べていたお菓子が喉に詰まった。
慌てて胸を叩いて何とか胃へ流す。
あ、危なかった。
「だ、大丈夫か空都?」
「……何とか。で、何?
この大量の包みは全部好意を持った女って事か?しかも手作りっ!?」
「そ、それもあるが、世話になっている者からも渡される日でもあるそうだぞ。それに関しては異性、同性問わないらしいが……」
「……異性、同性…」
その言葉を聞いた途端、この包み達の中に混ざって数人、男に渡された物があるのを思い出した。
ああ、なるほどそういう事だったのか。
んで、手作り…。
「吃驚した、全員好意を持ってるとか冗談じゃないぞ……」
「ははは、空都は人気があるのだな!」
「義経……他人事だと思って…!」
思わず摘まんでいたお菓子を義経に向けて投げようとした時、目の前に差し出された物を見て俺は動きを止めた。
「……へ?」
包み?
これって……?
俺が驚いた顔をして義経を見れば、にこやかに笑っていて。
「空都、いつも感謝している。有り難う」
と、一言だけ言って固まっている俺の手を掴んで包みを持たされた。
「……へ?」
急な事でまともに思考が回らなくてポカンとしていると、頭を義経にクシャッと撫でられる。
「ああ、その甘味はあやねが作った物だ。俺は如何せん甘味を作るのには向いてないらしい…。
だが、気持ちは他の者には負けていないつもりだ!」
「……あ、ああ。……あり…がとう……?」
頭の中はまだ混乱していたけど、何とかお礼を言う事が出来た。
それに、義経が他の女の人達の様に嬉しそうな表情をしているのを見たら、まあいいかなんて思えてきた。
こんな日があるなんて吃驚したけど、皆が嬉しそうな顔をしているならそれで良いか。
それなら尚更、貰ったお菓子は残さず食べなきゃいけないな。
俺は義経に頭を撫でられた後、貰った包み達を見ていた。
「じゃ、義経のは最後に食うよ」
そんな事を言ったら、義経は面白い位に慌てていた。
…あれ、最後に食べるのは駄目だったか?