義経の旧友と武将の話 | ナノ

気遣われて心配して

「空都さん、ちょっとお話したい事が……」


テントの外から誰かに呼び止められたが、無視をする。
俺は今から漸く寝ようとしてたんだ。


「あの、空都さん」


無視。
俺は暇じゃないんだ。というか寝かせろ。


「うーん、どうしましょう…とても大事な話があるのに困りましたね……空都さん、聞こえてますかー?」


煩い、無視だ無視。

空都が寝た振りを続けていると先程の声が間近に聞こえて来た。


「…空都さん、強敵と戦いたくありませんか?」


その一言に体が反応してしまい、ガバッと素早く起きる。


「強敵?!いるの、…か……」


だが起きて後悔する事になる。

そこにいたのは、先程から笑みをずっと浮かべている仙人がいたからだ。
いつの間にかテント内に入っていて、目の前で行儀よく正座をしている姿が見えた。


「ああ、やっと起きてくれました!起こすのが大変でしたよ空都さん」

「お前……!」


にこやかに笑っている仙人の顔に一発お見舞いしたかったが、グッと堪える。

眠りを妨げられただけだろ。
落ち着け、俺。


「いやぁ、空都さんってとても可愛らしい寝顔をしているんですね。思わず触りたくなりましたよ」


いや、やっぱり殴りたい。
可愛いってなんだ、可愛いって。


「……で、用があったんだろ?さっさと話せよ」

「あはは、そうでしたね」


俺は笑っている仙人の顔を見る。

この仙人はたまに冗談を言うときがあるけどさっきのも冗談だったのか?
そんな疑問が頭の中でぐるぐる回っていると、仙人が懐から何か取り出した。


「…何だそれ」


俺は気になる事を言えば、仙人は待ってましたと言わんばかりに話し出す。


「ちょっとした薬草です。空都さん、最近の戦いで疲れ気味でしたよね?
なので、疲れが取れる様にと持って来ました」


スッと手に置かれた薬草を見て、この仙人は俺の身を案じている事が見て取れた。


「……そっか、ありがと」


何だ、最初からそう言ってくれれば良かったのに。
でもどうしてそんな些細な事を気にするんだ?

そんな疑問を投げ掛ければ、当たり前と言うように仙人は言葉を返す。


「それは勿論、人間達をサポートしてあげるのが私の役目ですから。体調を崩したりして、戦いに響いたら大変です」

「……それだけで、わざわざご丁寧に薬草渡しに来たのかお前」

「はい」


仙人は頷いて、相変わらずにこやかに笑っている。

何だが取っ付きにくい仙人だ。
まあでも、他の仙人よりはマシかな……とは思う。


「この薬草は後で食うよ。…仙人は早く寝たらどうなんだ?これから他の奴等の所にも行くんだろ?」


この仙人は余程人間の面倒を見るのが好きらしい。
なら俺以外にも、薬草を渡したりするんだろう。

当たり前の様に。

そこまで考えて俺はふと思った。
誰が、この仙人を心配するのだろうか。
確かに仙人は長く生き、不死身で死ぬことはないだろう。
でも怪我はする。危険な事が起きたりする場合もある。

なら俺が心配くらい、したっていいんじゃないか?
さっきの薬草のお礼だと思えばいい。


「仙人、この袋持っていっていいぞ」

「袋、ですか?」


俺は側に置いていた小さな袋を掴んで仙人に渡した。


「何も聞かないで受け取れ!俺はもう寝るから」


仙人に無理矢理押し付けて俺はさっと横になり、背を向けて寝る体勢に入る。テント内から早く出ろオーラを出すのも忘れない。


「空都さん…?」

「……」


仙人の顔は見えないけど声からして、多分困った表情をしてるだろうなと俺は思った。


「おや、寝ちゃいましたか……」


俺が起きない事が分かると仙人が離れていく気配がした。

これで漸く寝られると思った俺だったが、仙人がテントから出ていく寸前で聞こえた言葉に再び起き上がる事となる。


「そうだ空都さん。私の事は神農、と呼んで下さいね?空都さんとはこれからも仲良くしたいですし…」

「………はッ?!」


ガバッ、と上半身を勢いよく起き上がり出入口を見る。
……が、先程の仙人は既に外に出てしまっていた様で誰もいなかった。


「別に仙人、でも良いじゃないか……」


俺は誰もいない出入口を睨み付けてから、また横になる。
そして小さく呟いた。


「……なんか真面目だな、神農って奴」


そういう仙人は、意外と嫌いじゃないかもしれない。


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