義経の旧友と武将の話 | ナノ

恋とは

「恋とは何なのでしょう…」

「……は?」



稲姫から言われた一言に空都は間の抜けた返事をしてしまった。



「ですから、恋です。恋とはどういう物ですか?」

「い、いやあの…何で俺に聞く!?」

「空都なら答えてくれそうだと、父上からお聞きしました」

「……」



空都の解釈が正しければ、稲姫の父上は答えられなかったと思える。

じゃなきゃ俺の所に稲姫を聞きに行かせる訳がない。
というか面倒事を押し付けた様にしか思えないのは何故だろう。



「あー…恋ね、恋…」



何故恋の事について聞きたいかよく分からないけど、ここは普通に答えた方が良さそうだ。
変な知識を持たれたら空都に被害が及ぶだろう。



「あのな、稲姫。恋ってのは……、
男が女に、女が男に惚れた時に芽生える感情が恋って奴だぞ」

「芽生える感情が恋、ですか…」

「まあもっと複雑な恋ってのはあるけど、説明すると面倒くさいからナシな」



そもそもこういうのは女同士でやるもんだろ。
恋とかの相談とか疑問とかさ。



「…じゃ、用は済んだなら俺はこれで」



帰る、と言おうとした時に稲姫から言われた言葉に耳を疑ってしまった。



「では、稲は空都に恋をしているという事になりますね!」

「…は、はあ?!」



一体何を言っているんだ稲姫は。



「お前、それ冗談…」

「冗談ではありません!稲は空都に惚れたのです!」

「…わ、わーっ!!大きな声で言わなくていいって!」

「え、何故です?」

「……っ!」



しまった、教え方が不味かった。

稲姫から真っ直ぐな目で言われるとは思いもしなかった空都は、少しばかり顔を赤くして慌てる。
周りに人がいないのが幸いだったが、兎に角今は稲姫の真相を確かめなくては。



「い、稲姫…その、ほ、惚れたっていうのは…」

「照れなくとも良いのですよ空都。私は空都の何事にも負けない強さが好きなのです!
その武、稲も見習います!」

「え、……はっ?」

「恋とは素晴らしい物ですね!
父上が仰った通り、空都に聞いて良かったです」

「あ、ああ…うん」



何だ、そういう事か。

稲姫に言われた事に空都は拍子抜けしてしまう。
惚れたのは強さだったらしい事に、空都は少しばかり落ち込む。


「いやぁ…、稲姫にそう思われてて俺も嬉しいよ。…でもな、恋とは違うぞ」



すかさず間違いを正すのも忘れない。



「え、そうなのですか?……恋とは難しいものですね」

「はは、まあ叶わない恋があるんだし難しいんだろーな」

「成る程…」



ふんふん、と素直に聞いている稲姫を見ている内に空都は顔が少しばかり赤くなっていたのに気付かずにいた。



「……?どうかしたのですか空都、顔が赤くなって…」

「えっ!?…多分、き、気のせいだから気にしなくていい!」

「あっ、でもまだ赤いですよ?」

「だ、大丈夫!俺は今から飯食いに行くからこれで…っ!」



稲姫に言われて空都は初めて赤くなっている事に気付き、慌てて顔を袖で隠す。
それから稲姫の追求にも何とかはぐらかしてその場から逃げるようにして去っていった。



「私が何か言ったのでしょうか…?」



その場に残された稲姫は空都が赤くなった理由を知る事はなかった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -