夢想 | ナノ

異界に来て数日が立ったある日。


空都は戦にも出ずに陣営にいた。


他の者達はそれぞれ次の戦の準備をしているのが空都の目に入る。
それらを横目に見ながら空都は手伝う事をせずにふらふらと歩いて行く。
目の前に丁度良い大きさの岩があったので座り、何をする事もなく空を眺めていた。
勿論晴れている訳ではなく、どんよりとした空模様なのは相変わらずである。



「……」



今、この場にいない友の義経はと言えば、かぐやという仙人と共に過去に行っている。
いや、行くと言うよりはその者の記憶から過去に辿って戻っている、という事らしい。

まだ空都はかぐやという仙人と共に過去に行った事がないので、聞かれた事しか分からない。
過去に戻るのはどういう感覚なのかも分からないのだ。


まぁ、只過去に戻るだけなのだからそんなに変わらないのかもしれない。


空都がそんな事を思っていると、陣営の隅にある光輝く陣に動きがあった。
どうやら義経達が過去から戻ってきた様である。



「義経……っ」



やはり側に友がいないのは少しばかり寂しくもあったのかもしれない。
空都は義経が帰って来た事が分かるなり岩から飛び降りて、駆け足で光輝く陣に向かって行った。



橋を渡り、陣の近くまで来た所で空都は義経を探す。
次々と光輝く陣から人が現れてくる中に義経の姿が見えると、空都の表情は途端に明るくなった。



「よ、おかえり!」



この言葉を言うのも久々な気がする。
少なくとも、元いた世界より今の方が空都にとって何もかもが嬉しい事に違いはなかった。



「おお空都か!
お前がわざわざ出迎えなくとも、後で俺が顔を見せに行こうと思っていたのだが…」



義経はそう言いながらも、どこか照れ臭そうにしている。



「そんなの良いよ別に、これは俺の勝手だしな!」



空都は笑いながら言った後、戻ってきた者達を見た。
いつも、という訳ではないが過去に行っている者達の中に混ざって新しい者がいたりする事を空都は知っている。
どうやら今回、新しく仲間になった者がいるみたいだ。

その仲間を見た空都は義経に聞く。



「義経、あいつは……?」

「あ……ああ、あの者は仲間になった忍だ」



ちらりと後ろを見てすぐに視線を空都に戻した義経だが、何処となく視線が泳いでいる気がする。

空都は義経のそんな態度を見たが、あえて気付かない振りをした。



「ふーん、忍ねぇ……。でもよ…結構肌出てるよな」

「…う、うむ……そうだな」

「……義経?」

「な、何だ空都。俺は何も見てなどいないからな」



嘘だ。

空都は義経の態度を見て確信した。
何故かと言うと、義経が露出の多い女性を苦手だという事を知っているからである。
元いた世界でもそんな女性が目の前に現れた時、義経は面白い位に慌てていた事があった。

それと比べて今はそんなに慌てていないのを見ると大分露出に慣れてきたのだろうか。

空都がそんな事を思っていた時、突然声をかけられた。
義経が後ろを向くなり悲鳴を上げ、その者から少し離れる。


何だ、慣れてなかったのか。


俺はそんな事を思いながら声をかけてきたその者を見た。



「あら、ごめんなさいね義経。驚かすつもりはなかったのだけれど…」



そう言って少しばかり微笑むその者は、先程義経が言っていた忍だった。



「い、いや…驚いた俺が悪いのだ…。
と、とにかく…は、話があるのだろう?」

「落ち着け義経」

「おお俺は落ち着いている!」



態度といい、明らかに落ち着いていない義経を空都は何とかして落ち着かせようとする。

忍はそんな空都達の様子を見ていてこんな事を口にしていた。



「義経と貴方…仲が良いみたいだけど仲間同士?」



と。
勿論、義経はその事について真っ先に言葉を返した。



「仲間…?いや、それは少し違うな。
俺と空都は友なのだ」

「あら、そうだったの?」

「いやぁ…友と言っても、旧友だけどな」



友と言う言葉で一括りにされたくなかったので咄嗟に付け加える空都。



「へぇ、知らなかったわ」



忍は驚いた様にして義経と空都を見る。
だが空都が旧友と言った瞬間、僅かに忍の表情が変わった事に空都は気付かずにいた。



それから少しばかり他愛の無い話をして、それぞれ己のテントに戻ろうという事になった時。



「ねぇ貴方、ちょっと話聞いても良いかしら?」



不意に空都を引き留めた忍。

空都は特にする事が無かった為、義経を先に帰らせて忍とその場に残った。



「で、忍の話って何だ?」

「…少し、気になる所があるのよ」

「気になる所?」

「ええ」



忍は小さく頷いてから、表情を険しそうにする。

何故だかその場の空気が重くなった様な、これから嫌な話を切り出しそうな…。
嫌な感じが頭を過った。


そんな空都の予感は、嫌なほど当たるものらしい。




「義経に、旧友なんて……いなかったわ」




言葉を聞いた途端に、世界が暗転した様な感覚に襲われた気がした。それから続けて忍から言われている言葉が、空都の耳に入らない。


目の前にいる忍は、俺に向かって何を話しているんだろうか。


俺は、義経の旧友、なのに……。

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