「……あれ?」 森の中を気分転換で散歩していたら、木の上に人影が見えて俺は立ち止まる。 いやでも、木の上に人ってそんなバカな事がある筈なんか…。 「…あったよ」 近付いてみれば、人影からハッキリと人の姿が見えた。それにしても何故木の上にいるんだろうか。 どこの奴か分からないが、通常の精神じゃないのは確かだ。いや、この世界が異界なら有り得る…のか? 「でもなー、木の上から落ちたりしたら大変……」 そこで空都の言葉が切れる。 何故かと言えば、木の上に立っていた人が突然飛び降りたのだ。驚いて言葉が出なくなるのも無理はない。 「嘘だろ……っ?!」 見ている時に落ちるとかどういう事だ。俺のせいなのか!? じょ、冗談じゃないぞ…。 まさか死んだんじゃ、という事が頭に過って慌てた空都は、人が落ちたであろう場所へ急いで向かった。 落ちた場所に来てみれば地べたに横たわっている人を発見した。空都は息を切らしながらも恐る恐る近付き声をかけてみる。 「お…おいっ!だ、大丈夫か?!」 …が、返事はない。 うつ伏せでいるので表情が見れない為、空都は取り敢えず肩を叩いてみる。 「おいっ!」 空都は戦で人が死ぬのは見てきたが、戦ではない死を目の当たりにして気が動転してしまっていた為気付かずにいた。 その人の首筋辺りに札があった事を。 「……息、してない?」 その事に気付かない空都は倒れている人が、息をしていない事に段々と焦っていく。 嘘だろ、こういう場合はどうすればいい?人工呼吸?いやいや違う気がするぞ。こういう時は背負って陣営に帰るべきか?いや、その前に出血しているなら血止めをするのが先なのか? 「ど……どうすれば……!あぁクソ……」 頭を抱えながら、ああだこうだと唸っている空都の背後に人影が忍び寄って来たのだが、勿論その頭の中は目の前の人の事しかないので気付くわけもなく……。 「…お困りの様かな?」 「うおぁッ?!」 突然背後から聞こえた声に驚いた俺は、何とも間抜けな声が出てしまった。 「おや、驚かせてしまったかな?」 「あっ、当たり前だ…ッ!」 こんな風に驚くなんて人生で初めての事だ。 最悪だ、としか言えない。というか恥ずかしい。 俺は後ろを振り向き、声をかけた者にキッと睨んだ。 「お、お前誰だよ…!」 相手を見れば、真っ白な狩衣を着た奴だった。 俺の知らない人だったけどそんなのは関係ない。初対面だろうがこんな恥ずかしい事を見られたのだ。少しキツく当たっても俺は悪くないだろう。 いや、相手が悪いんだ。 「私が悪かった。そんなに驚かれるとは思わなかったのだ。…だから、あまり睨まないでほしい」 「知るか!」 即答してやる。 「…ふむ。それならば私がどういう者か……。まずは、ご覧になられた方が手っ取り早い」 「は?」 相手の言っている意味が分からないでいると、突然指を前に出し何かをし始める。印を切るようにした後に、少しの言葉を呟いたかと思えば懐から札を取り出した。 人を型どった札に見えたそれは、狩衣を着た奴の手からみるみる内に形を変えていき始めた。 「札が…?!」 只の札が、動くように形を変えているのを直ぐには理解出来るわけもない。 何だか気持ち悪いな、と思っている間にいつの間にか札が「人」になっていて俺はただ驚く事しか出来ずにいた。外見は武士その者にしか見えないのに。 これは一体何だ。 それを空都が言う前に相手から言い出された。 「これは私の式神だ」 「…しきがみ?」 「そう、私の力になってくれている式神達だ」 狩衣を着た奴はそう言うと俺の後ろへ目を見やる。俺はその視線が気になって後ろに顔を向ければ、再び驚く出来事が起きた。 「な…!?」 数分前に木の上から落ちてピクリとも動かなかった人が、何事も無いかの様にその場に立っているではないか。出血している様子もなければ、骨が折れている訳でもない。 いたって普通に立っている。 「な、なんで……」 何で死んでいない? そんな事を思わず口に出していたら狩衣を着た奴から出た言葉に、驚く事しか出来ずにいた。 「私の式神達は、それ位では死ぬことはない」 「…お前、一体……」 式神という、見知らぬ力を持ったこの男。狩衣を着た目の前の男は一体誰なんだ。 空都の頭の中をその疑問がただぐるぐると回っていた。 異界に招かれた者と異界へ訪れた者。 異界という世界でこの出会いがどうなるかはまだ、分からない。 ただ、1つだけ言えるのはこの二人の出会いで物語が動き出したという事だけである。 |