Tさまへ!:骸ツナがお風呂に入る話
綱吉は脱衣所でパーカーに手をかけた。
でもって「えいやっ」とまくりあげた瞬間に、なにやらバタンと音がした。
バタン。それは一般的にはドアの開く音。
不思議に思って鏡越しに入り口を見ると、ばっちりそいつと目があった。
「…え?」
「…は?」
「むくろォオォォォオォ?!」
振り返った視線の先、おとなりさんの骸くんがパジャマを片手に、目をまぁるく見開いていた。
なんでだ!
骸がニヤァと笑って言う。
「くふ、しかたのない人だ。そんなに僕の裸が見たかったんですか!」
「いやオレ先にいたよね?!むしろお前が覗きだよね?!」
叫ぶ綱吉に「相変わらずうるさいですねぇ」とか言う骸の方は相変わらずクールだ。
くやしいので心の中で罵った。このイケメン!
しかたがないから綱吉は脱ぎかけた服をもとに戻した。
話をするのに上半身丸出しは寒かったのだ。
「そもそもなんでお前がウチにいるの」
「お風呂壊れちゃったんですよねぇ。さっきタッパー返しに来た時、奈々さんに言ったら『うちで入っていったらどうかしら』、と。天使ですよね」
「風呂壊れちゃったの?!うわー、大変そうだな」
「ええ大変です。だからお言葉に甘えてお借りしますよ」
言い終わらないうちに、骸はざかざかと服を脱ぎはじめた。
あ、お前が先に入るのね!
まぁいいけどさぁ、と、ため息をついた。
骸の横暴にはとっくに慣れているのだ。
そのままぼーっと骸の方を見ていると(だって出口はやつが塞いでいる)、あとシャツとパンツだけの段階になって、ピタリと手が止まった。
嫌そうに睨まれる。
「いつまで見てるつもりですか」
「え、や、べつにお前が出口ふさいでるから…っていうか、」
よく見てみると、さっきまでムカつくぐらいマイペースだった骸がなにやら居心地悪そうにしている。
涼しい顔をしているけど、耳が赤いような。
もしかして。もしかすると。
「骸、おまえ、照れてんの?」
「な、ば、こっこの僕にきゃぎって」
「かんでるかんでる」
綱吉は思わずにやけてしまった。
だっていつもスカしてる骸が照れている!
この機会を逃すまいと、動揺する骸ににじりよった。
得体の知れない力がみなぎってくる。
わきわきと手を動かす綱吉に、さすがの骸の顔もひきつった。
「ななななんですか」
「まあまあ恥ずかしがるなって!男同士だろ!」
「ふっざけるな、あ、こら!」
どりゃっ!
日頃の怨念を込めて、そりゃもうたっぷり滴るくらい込めて、綱吉はパンツを引きずり下ろした。
「…」
「…」
「神様は不公平だ…」
ご立派でした。
うなだれる綱吉の前で開き直った骸は堂々と下半身をさらしていたが、やがて、すっと手をあげた。
「そういう君は、」
まずい!
綱吉が身構えた時には遅かった。
「どうなんですかッ!」
「〜〜っ!!」
あわててしゃがみこんだが、それでも骸にはばっちり見えたらしい。
哀れむように見下ろしながら、鼻で笑った。
「んだよなんか言えよバカァ!」
「可愛らしいですね」
「だまれちくしょぉおぉぉ!!」
お前なんか風呂で溺れればいいんだ…!
呻く綱吉に彼は片眉を上げた。
「言えの次はだまれですか。第一、シャワーでどうやって溺れるってんです」
「シャワーじゃないよ湯船だよ!」
「湯船…ああ、僕、つからないんで」
「え?」
「は?」
綱吉は目の前の男をじっくりと眺めた。
引き締まってバランスのいい筋肉…ではなくて、心配になるくらい白い肌の色とかを。
骸が身動ぎするのも気にしないでひたすら見ていた。
でもっておもむろに手を握った。冷たい。
「な、なんですか」
「骸…オレとお風呂入ろう!」
「え、な、はぁ?!」
驚愕する骸をよそに綱吉はポイっと洋服を脱いでその腕をつかみ、
「いいか…冷え性改善は風呂からだっ!」
渾身の力で骸を湯船に押し込んだ。
バシャン!!
あがろうとする骸を押さえるために綱吉もバシャン!!
「100数えろ100!」
「君は僕を煮物にするつもりか!」
「なんないよ日本人なめんな!」
「僕はイタリア人だッ!」
暴れる骸にがっちりとホールドをかけると、不思議なことに一瞬でおとなしくなった。
なんでだろうなぁと首をかしげてから、綱吉は青ざめた。そしてすぐに赤くなった。
まずい。これはまずい。
(これ抱きついてんのと一緒――!!)
ごくり。
唾を飲み込む音が妙に大きく聞こえた。
「よ、よぉし骸、そのまま100な、100!一緒に数えるぞー!」
ひきつったように笑いながら、綱吉はさりげなく、あくまでさりげなく体を離そうとした。
そろりそろり。
15センチくらい離れたかというところで目があった。
据わった目をしていた。
力強い腕がのびて、離れようとした綱吉の体をぐい、と引く。更にそのまま抱え直して、言う。
「ほら、数えるんでしょう。いーち、」
「みっ、みみみみもとでしゃべるなぁぁぁあぁぁぁ!!」
ぞわってした!ぞわって!
立場変わって暴れる側になった綱吉に、骸は押さえつける力を強めた。
「クハハハハハハ逃がしませんよ!!」
「ヒッ、や、やめろォオォォォッ!」
「いいんですか?そんなに騒ぐと、」
綱吉が骸の言葉の意味を理解する前に、バタバタと駆ける足音が近づき、バタンバタンという音がつづいた。
バタン。それは一般的にはドアの開く音。
制止が声にならない悲鳴となって喉に張り付いた。
曇りガラスの向こうに小柄な体が映る。
バタン!!
「ツナ兄大丈夫?!」
息を切らせて飛び込んできたフゥ太と目があって、浴室に静寂が訪れた。
ぴちゃんという水音のあとにようやく骸が「おやおや…だから言ったのに」と呟いた。
いや「おやおや」じゃねーよ。
綱吉は骸の腕の中、素っ裸で、かつてないほど心の底から願った。だれかたすけて