皆さんにはおありだろうか。目が覚めたら部屋が一面バラの花だった経験が。
オレは初めてです。
沢田綱吉は呆然とあたりを見渡した。
バラ、バラ、バラ。
床に壁に天井に至るまで、大小さまざまな花器に活けられたバラが咲き乱れている。
頭がくらくらしそうなほど濃厚な香りだ。
超直感様が言うところによるとこのうちの二割程度は幻覚のようなのだが、え、八割は本物なの?マジもんなの?これ二百本は軽いよ?
ドン引きである。

「お目覚めですか」

ドアが開いた先にいたのはスーツでめかしこんだ美丈夫だった。
気合いの入り方が尋常じゃない。
頭湧いてんじゃねーのと綱吉は思った。
実際に後頭部は今日も元気に湧いている。噴水のようだ。

「クフフ…この聖なる愛の記念日に、君の瞳へ映る最初の男になれてうれしいですよ」
「帰って!!!」

枕を投げたら届かなかった。
憐れむような目で見ないでほしい。結構本気で投げたんだ。

「いやもうおまえ何企んでるの?!」
「おやおや今日はバレンタインですよ」
「かわいい女の子がチョコ持って告白する日だろ!ヤローは帰れ!」
「違いますね。イタリアでは恋人がプレゼントを交換し愛を確かめ合う日です」
「もっと根本的な間違いに気付こう骸。オレとお前の関係について」
「ああ夫婦でしたか」
「結婚してねーよキスすらしてねーよ」
「おねだりですか」
「何の?!」

話があんまり通じないので綱吉は頭をかきむしった。
イタリアに来てから骸は壊れた。頭のネジが飛んだ。
もちろん前から飛んでたけれど、こんなにひどくはなかったと思う。
鋭いまなざしだとか隙のない立ち姿、人でなしのクセに身内には甘いところ。
気になっていた。いつか一緒に笑いあえたらいいと思っていた。
それが、どうしてこうなった。

「なんなの?いやがらせなの?俺の嫌がる顔が楽しいの?」
「そんなことありませんよ」

骸がバラをかき分けて近づいてくる。
優しい表情で綱吉の頬を撫でたので、綱吉は思わずどきっとしてしまう。

「骸…」
「君の泣き顔は正直そそりますが」
「バカヤロー!!」

グローブを付けてぶん殴ったら壁の方まで飛んでいった。
もう知らん。



「骸様。そろそろボンゴレに本気で嫌われる日も近いかと」

千種は救急箱を差し出しながら言った。

「忠告ご苦労」

骸は笑って取り合わない。
が、内心ちょっと焦っている。骸にとっても今の状態は本意ではない。
イタリアに渡り本格的に守護者として動くと腹を決める際、骸がマフィア嫌いの自分を納得させるためには開き直るほかなかった。
つまり、沢田綱吉が好きだということについて。
好きなんだからしょうがない。マフィアじゃなくて沢田綱吉だからしょうがない。
開き直ったはいいが、自覚した分今度はどうも、調整が利かなくなったようなのだ。
とにかくからかってしまう。
何をやっても面白いくらい反応してくれるものだから、楽しくてついヒートアップしてしまうのだ。
好きな子と会話したくて何が悪い。
とは思いつつも、さすがにどうにかしなければと骸は腫れあがった頬を撫でた。

「それに骸様、沢田が見合いをするという情報が入っていますが」
「もう一度言いなさい」
「見合いです」
「もう一度」
「見合いです」
「ほう」

骸は立ち上がった。

「…いってらっしゃいませ」

千種がめんどくさそうに見送った
早足で廊下を歩いていく骸の雰囲気は凶悪だ。
今朝と恰好は同じなのに全く違う人物に見える。

「見合い。見合いねェ」

地を這うような声でつぶやいた。
許せないと思った。
あの男が他の人間のものになるなんて、どうしても。
バンと大きな音を立ててドアを開けると、沢田綱吉はびっくりしたように顔を上げた。

「ノックくらいってか、え、骸、何お前怒って、」
「沢田綱吉風情が見合いをすると言うので来てやりました」
「見合いって、あー、たしかにするけど」
「初対面の女性とうまく話せるんですか?君が?というか君ほど抜けた人間と家庭を持とうなんていう猛者がいるとでも?」
「ちょ、そこまで言わなくていいだろお?!イケメンは滅べ!!」
「僕にしておけ」
「は」

壁に押さえつけられて綱吉の目が丸くなった。

「僕にしておけと言っている」
「もしもーし六道サーン、またからかってんのー?」
「好きです」

真剣に言うのは初めてかも知れなかった。沢田綱吉はポカンとしている。

「好きです。君が」
「…やめろよ、そういうの」
「どういう意味です」
「お前はオレを嫌いかもしれないけど!オレはお前と仲良くなれたらってずっと…!」

綱吉はうつむいて唇を噛んだ。

「傷つくよ、骸」
「本気なんです」

綱吉の顎をすくって目を覗き込んだ。

「本気なんだ」
「うそだろ」

骸は答えずにキスをした。

「これでも、疑いますか」

骸は痛いほどの胸の高鳴りを感じていた。
綱吉は頬を染めて震えている。

「…ろ」
「え?」

聞き取れずに顔を近づけると綱吉は大声で言った。

「疑うに決まってんだろバカァ!!!」

みぞおちにストレートで入った拳に、骸の意識は飛んだ。



以降、あいかわらず綱吉は骸の告白を流し続けている。
だが千種の調べたところによると、どうも見合いの類はすべて断っているようである。













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