「なんかさあ、言葉にしたことって、ホントになりやすいらしいぜ」
「へぇ?」

がりがりとシャーペンで頭をかきながら山本が言ったので、綱吉は首をかしげた。

「あ、鏡に向かって『私はきれい』って言うやつ?この前テレビでやってた」
「そーそー。それとおんなじでさ、『記憶力抜群!』とかも効くんだって」
「えっそうなの?!」
「言った言葉が頭に刷り込まれるんだってよ。つまり俺らも天才は夢じゃないってことなのな!」
「それは・・・どうだろう・・・」

にこにこ笑う友人の前に広がる空欄に、綱吉の笑いはひきつった。
外は夕焼け。二人は補習。数学のプリントは白い。
あんまり白くって目に染みるんじゃないかってくらい白い。
(でもそっか。ホントになるのかぁ)
綱吉は頬杖をついて外を眺めた。
頭の中には皮肉な笑みを浮かべる男の顔がある。
こんな自分でも、言葉に出せば彼を助けられる存在に近づくことができるだろうか。
意外と世界は捨てたもんじゃないと教えてやれるだろうか。



六道骸は真っ暗な道をすたすた歩いていた。
沢田宅を目指しての道だった。
ボンゴレ関連で面白い情報が入ってきたから教えてやろうと思っている。
対価に何らかの便宜を引き出せれば海外での活動がもう少し楽になるだろう。
街灯の黄色い光で影が伸び縮みする。
目的地を視界にとらえ、骸は足を速めながら思案する。
玄関から行くのでは、母親に挨拶し子供たちを蹴散らしたのちに階段を上るという手間が必要になる。
窓から行けばアルコバレーノあるいは沢田綱吉に直接会えるだろう。
手短に済ませることができる。
塀を足掛かりに飛び上がり、幻術で足場を補いつつ窓に手をかけた。
不用心にカーテンの開いている窓からは、何かを言いながら歩き回るまぬけな姿が丸見えだった。
似合いもしない真剣な表情だ。
さらにはある程度大きな声のようで、内容は聞き取れないが声が漏れている。
何をしているんだ。
ちょっと呆れてから骸は窓を開けた。
突然の登場に目を丸くして驚く彼の姿が予想にあったから、勢いよく無遠慮に開けた。

「こんばんは沢田、」
「俺は骸を幸せにする!!」
「えっ」
「えっ」

骸のあいさつは綱吉の声にさえぎられた。
綱吉はポカンと口を開けている。
骸も無表情に硬直している。
目を丸くして驚く彼の姿を予想したのであって、まさか自分が驚く羽目になるとは小指の爪の先程も考えていなかった。
幸せにする。幸せにする?
プロポーズか?
そもそも、つまりは、彼はさっきからこの台詞を練習をしていたということなのか?
呆然としていると、ハッとしたように綱吉がぶんぶんと両手を振った。

「あ、いや、これは、ちが、」
 
言いながら顔を赤らめられたのではまったく意味がないなと骸は至極冷静に思った。
冷静に思いはしたが、手のひらはじっとりと汗ばんでいる。心なしか動悸もする。

「帰ります」

ピシャンと閉めた窓の向こうで「違うんだってぇ!」と叫ぶ声がした。

顔が熱い。












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