夜。暗闇に景色が沈んでいる。
綱吉は真っ暗な空に頭を押さえつけられている気分だった。
ぐったりしながら家に帰ると、酔っぱらいがコタツに足を突っ込んでいた。
思わずしかめっ面になる。
酔っぱらいは黒のセーターを着ていて、そのセーターからは筋ばった首筋が伸び、てっぺんには端整な顔がのっかっている。
彼、六道骸は、時々こうして綱吉の家に押し掛ける。
匂いとビンとで、綱吉は現状を把握した。
「ワインか」
「君にしちゃあ良いワインだったんで、つい飲みすぎました」
「…え!オレの飲んだの?!」
こたつの上のビンをひっつかんでラベルを見ると、この前取引先にもらったワインだった。
いかにも高価そうな外見で、ラベルはフランス語。読めない。
そもそも綱吉はあまり、ワインの銘柄にこだわりがない。
でもクリスマスに飲もうと思っていた楽しみがこんな平日に開けられてしまったものだからがっかりだ。
ビンの中身はもう五分の一程度しかない。
「ったくもうおまえってやつは!」
やけになった綱吉は、骸が使ったのであろうグラスに残りを注いでぐいっとあおった。
勢いよく上下する喉仏をニヤニヤと眺めながら骸は「おやおやもったいない」と歌うように言った。
最初はそうしてからかうような調子だったのが、だんだん目付きが妙な光を帯びてきた。
綱吉がグラスから口を離した時には、舌なめずりでもしそうな表情をしていた。
目がギラギラと光っている。
「おいこらやめろ酔っぱらい」
オレは疲れてるんだ。
綱吉がめんどくさそうに言うと、骸は「ああもったいない」となめらかに歌った。
先程とは違う、絡み付くような声だった。
しまいには怪しい手付きで背中をなぞりはじめたものだから、綱吉は深くため息をついて骸を引き剥がした。
「寝ちまえ酔っぱらい」
無理やりミネラルウォーターを飲ませて転がすと、案の定ぐうぐうと寝息をたて始めた。
綱吉の家で飲む時、彼はあっという間に酔っぱらう。
それからすとんと寝てしまう。
酔った骸の相手はしてもしょうがない。相手をして結局むなしい思いをするのはこちらである。
その、ナニがというわけではないが。
「あー、よいしょっとぉ」
こたつでは風邪を引くので骸の体を引きずってカーペットの上に移動させた。
毛布をかけてやりながら綱吉は愚痴をこぼす。
取引先のボスがさぁ、自慢話ばっかりでさぁ、話合わないし葉巻臭いし。で、帰ったら町の少年自警団が隣のファミリーといざこざ起こしてるし。血気盛んなのはいいけどさぁ!いいんだけどさぁ!なぁ聞いてんの!
「まぁ、聞いてないから言うんだけどさ」
聞かないでいてくれるから言うんだけどさ。
骸はぐうぐう眠っている。
無防備にさらけ出された首筋に、綱吉は目頭が熱くなる。
ちくしょう。
おまえのやさしさは大きいくせに分かりにくいよ。
綱吉の家には時々六道骸がやってきて、酔っぱらい、すとんと寝てしまう。
その度に綱吉は散々悪態をつく。
それでも起きない野郎に腹がたって、無理矢理腕を枕にして綱吉が寝る。
次の朝、骸がしびれた腕で綱吉をはたく。
文句を言い合っているうちに、綱吉は、すっかり元気になって、ぷりぷりしながら家を出ていくのだ。
ついでに骸も放り出す。
今回もその例に漏れず、綱吉は骸をドアの向こうへ押し出した。
「誰かさんのせいで身体中痛いんでいたわって欲しいんですけど」
「うっさい!宿泊費取るぞ!」
「そのわりにはサービスがなってないホテルでしたねぇ」
「ちくしょうめ!」
どつくと二倍で返ってきた。
骸が心底楽しそうに笑う。
こういう朝は大抵、うつくしい青空が目に染みる。