10月14日、やはりと言うか、予想に違わず沢田綱吉は守護者やら居候やらの面々に囲まれていた。
もみくちゃにされてややぐったりしているがまんざらでも無さそうだ。

骸は目を細めた。
となりのクロームが不思議そうに彼を見上げた。

沢田綱吉が大勢に囲まれていると安心する。
恋人というには淡白すぎる自覚はあった。甘い言葉をささやけないわけではないし、事実今まで関わった相手にはそうしてきた。
ただ、そうしたくない。
「君なしじゃ生きられない」なんて考えるだけで胃が焼けつくようだし、綱吉から言われたとしたら骸は綱吉を手酷く傷付けずにはいられないだろう。
二度とそんな風に言えないように。
骸を見つけて驚いたように目を丸くして、まるで、来るなんて思いもしなかったように、期待なんかしてなかったという風に、嬉しそうに笑う彼が好きだ。
その笑顔を見るたびに骸は、彼が自分なしでも生きていける人間であることを確認する。
そうしてとても安堵する。
安堵している自分にも、安堵する。

「骸様、」
「凪、君はプレゼントを渡してきなさい。僕は少し用がある。後で迎えに来ますから」

物言いたげな彼女を促すと、こちらに気づいた一人が声をあげた。

「あ、クロームちゃんじゃないですか!」
「ハルちゃん…」

クロームがぐいぐいと引っ張られて賑やかな集団に混ざったのを見届けると、骸はためらいなく背を向けた。

沢田綱吉が自分なしで生きていけることに安心する。
自分が彼になんの義務もないことに安心する。
身軽さを失うことは骸にとって死に値した。
今までどんな重圧や苦しみにさいなまれていても、骸は本質的に自由だった。彼は自分とその手足のためだけに生きることができたからだ。
自身以外に、振り回されたことはなかった。
他の人間と比べたら断然彼が好きだったし、彼のために行動するのも嫌いじゃない。
それでも六道骸はきっと沢田綱吉だけのためには生きられない。
なによりボスである沢田綱吉が、六道骸だけのためには生きられない。
その事実に直面して絶望するようなことがあれば、終わりだと骸は漠然と思っている。

「どちらかが、」

骸は呟いた。

「どちらかがもたれた瞬間に終わりだ」

人は支えあうだとか、愛は惜しみなくあたうだとか。
恋人ならお互いのすべてを求めずにいられないだとか。
誰が言ったのかは知らないが、そんなわけないじゃないか。となりに立っているのが精一杯だ。
それで満足できなくなったら、苦しみしか待っていない。
絶望だ。依存の先に待つのは行き止まりだ!

息苦しく感じて骸は胸をおさえた。

祝いの言葉はクロームを迎えに来たときに贈ろう。
なんでさっきはなんも言わずに帰ったんだと彼は怒るかもしれないが、しかめ面の方が頬を染められるよりいくらかましだった。





「あれ、骸帰っちゃったんだ」
「ボス気づいてたの」

辺りを見回して綱吉が言ったので、クロームは少し驚いて返した。

「うん。でもあいつにぎやかなの苦手だから離れてるんだろうなって。なんだぁ、帰っちゃうのかぁ」
「…さびしい?」
「な、」

ちょっと赤面して口ごもってから、綱吉は「そりゃ、ね」と苦笑いした。

「骸がいるのといないのとじゃ全然違うよ」

それから思わずといった風に呟いた。

「やっぱり避けられてるのかなぁ」

その声がほんとうにさびしそうで、クロームは困ったように目を伏せた。

「しっかり手を握っていることよツナ」

近くで黙って聞いていたビアンキが、憂いのある声で言った。

「きちんと向き合わなければ、愛は怪物に等しいのだから」

そして少し迷ってから、彼女は言葉を続けた。

「愛に身を委ねるのは、ひどく恐ろしいことよ。けれど、逃げる人間は幸せにはなれないわ」

そう言って、胸の前でゆるく手を握って見せた。
綱吉は自分の手を見た。
それから、ぎゅっと握った。

「うん、逃げないで、ちゃんと骸に聞いてみるよ」

眉を下げて笑った彼に、ビアンキは目を細めただけだった。

「逃げているのはきっと、ボスじゃないの」

来た道を振り返ってクロームがつぶやく。
綱吉が不思議そうに首をかしげても、クロームは曖昧に笑うだけだった。








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