ピアスでじゃらじゃらした耳が、まっさらになったときの寂しさを綱吉は繰り返し思い出す。
眠る前の、青白く冷えた耳。
その耳にかけられた藍色の髪が、うなじに流れていた。
彼は綱吉より背が高いのに、思い出す後ろ姿はいつもわずかにうつむいている。
耳の凹凸に触れると、彼はくすぐったそうに笑った。
そして大抵は、そのまま振り返って綱吉にキスをした。

彼の耳。それから、彼の手。

まっさらな耳にピアスをつける時の彼の手から、綱吉は目が離せなかった。
わざわざ自分の体に金属を貫通させるなんて理解しがたかったけれど、つい、息をつめて見つめてしまうのだった。
理解しがたかったからこそかもしれない。
あんなにきれいで、的確で、あやうい手を綱吉は他に知らない。

なぜ、あの手を離せたのだろう。

今でもふと、夜、一人でコーヒーを飲む時や、月がひどくきれいな時に寂しさのような強烈な悲しみに襲われる。
薬指にはめたプラチナの指輪を投げ捨てて、今すぐ電話してしまいたくなる。
開口一番わめいてしまいたくなる。
「骸、おまえが好きなんだ!」
そうしたら、なにか、また始められるかもしれない。
二人で飲むコーヒーや、熱烈なキスなんかを。
けれどそうしない。
あの行き止まりを綱吉は選ばない。
愛してたって、どんなにかけがえがなく思っていたって、幸せをゴールにすえてしまった時点で、二人でこれ以上行けるところなんてなかったのだ。
男同士で、マフィアのボスと危険因子とで。
綱吉は幸せになりたかったし、骸を幸せにしたかった。
一緒に不幸になる気は、なかったから。

綱吉も骸もそれぞれに結婚して、不幸もそつなくやり過ごして、幸せにやっている。
二人の前には未来がある。
望んでいたことなのに、綱吉は時折、どうしようもなくあの行き止まりが恋しくなって、身勝手な願い事をする。
彼の、ピアスの穴が疼けばいい。
そうして、そこに触れていた指先を思い出して、あの頃の、息がつまるような二人を思い出したらいい。

彼に不幸が訪れませんように。
ただ、少し悲しんで、いつまでも自分と繋がっていますように。

卑怯だ。
綱吉は目を閉じる。
まぶたの裏で繰り返し青白い輪郭が揺れている。

この泣き出しそうな気持ちを吐き出すあても、もう、ない。




あの日に捨てた行き止まりの夢を、繰り返し見てしまうのはなぜだろう。












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