風呂からあがると骸がじっと外を眺めていた。
窓の向こうに広がる暗闇と対照的に、さらけ出された彼の上半身は白い。
同棲をはじめてから、彼も自分も、風呂上がりに下だけ履いてうろつくことが増えた。
ピカリと空に光が走り、数秒遅れて太鼓のような音が轟いた。

「雷ですよ」

ゆったりと振り向いて彼は言った。
丸みをおびた額に藍色の髪が濡れて張り付いている。
こちらを向く彼の後ろで、また光が、今度はくっきりと稲妻の形に走った。
照明を暗くした室内で彼の顔が一瞬影に沈む。
綱吉は唐突に骸の手を引き、絨毯の上へ押し倒した。
遅れた轟音が鼓膜に響く。
驚いた表情が、また新しい光に照らし出される。

ぴかり。ごろごろごろ。

「太鼓みたいだろ」
「何がです」
「この音。日本ではさ、鬼が太鼓を叩いて雷を降らせているっていう言い伝えがあるんだ」
「へえ」
「でさ、」

話しながら綱吉の唇が骸の上半身を辿る。
額から首筋、鎖骨、胸、肋骨まで触れてから、ちろりと舌を出し、形よく窪んだ彼の臍をなめあげた。

「隠してないと、人間の臍を取っちゃうんだ」
「臍を?」
「臍を」

へそなんてとってなにがたのしいんですかねぇ。

くすくすと骸が笑った。
薄い腹があわせて上下する。
綱吉は微笑んで、彼の腹に右手を滑らせた。

「だから隠してあげるよ」
「その鬼は、口には興味がない?」
「ないんじゃないかな。でも、」

骸がしなやかな両腕を伸ばす。
首にかかる体重を感じながら、綱吉は誘われるまま彼に顔を寄せた。

「俺は興味があるよ」

キスのために閉じた目蓋の裏には暗闇が広がっている。
骸を呑み込んでしまいそうだった夜の闇によく似た、底なしの暗がりだ。
それでも右手の下にしっかりと、彼と世界をつなぐ緒を守っているだけ、まだ安心だった。

「綱吉、」

なだめるような声がぐらぐらと綱吉を揺さぶる。

彼をつなぎとめておけなければ生きてすらいけないのに。

ぴかり。ごろごろごろ。

鬼の打ち鳴らす太鼓は、海の向こうでは崩壊の兆しだ。
骸は穏やかに、少し哀しむように、遠退く雷鳴を聞いていた。









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テーマ「人外ファンタジー」
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