『よろしくおねがいします、』
月のように煌めく銀色と、すみれ色。
最初はただキレイだとばかり思っていた。
…けれど次第に怖くなった。
孤児の私にとって、ここはやっともぎとった居場所。
彼女はそれを脅かすだろうと、そう思ったから。
目が見えないと言うこと、アルテミシアという名前。
そんなフィリスさんの話もろくに聞かないで、カティアの手を握っていた。

***

「…でね、ソフィア先生が、」
聞こえてきた声に眉を寄せる。
鈴を転がすような声に、美しく成長した銀髪の少女を思う。
気に入らなかった。

二人の人影を認めて、足を早める。
「…ね、カティアはどう思う?」
「そうね、」
「カティア!!」
鋭く呼ばれた名前に、紫色の服を着た少女は驚いた様に振り向いた。
その隣で、銀髪の少女が笑っている。
ますます気に入らない。
「どうしたの、レナ」
「どうしたのじゃないわ。今日は一緒に裏の湖まで行く約束でしょう!」
「でもあれは午後にしましょうって、」
「わ、私は今行きたいのよ!」
渋るカティアの手を無理矢理に引っ張る。
カティアは困ったように笑って、ミーシャに謝った。
ミーシャは「気にしないで」と笑う。
まったくもって気に入らなかった。
しばらく歩いてから、カティアは口を開いた。
「もう、レナったら。そんなにミーシャのこと避けなくたっていいじゃない」
「…そんなんじゃないわ」
「うそつき」
くすくすと笑う声音が心地よかった。
手を握れば自分の居場所を再確認できて、安心して。
イライラが消えていく自分に少し呆れる。
「ミーシャはいい子よ?レナも仲良くしたらいいのに」
「知ってる」
だから、嫌いなの。
そう言ってもこの友人は理解してくれないだろう。

いっそ打算的でずる賢い嫌な子だったらよかったのだ。
そうしたら嫌って憎んでしまえた。
それか、不細工で内気で、なんの取り柄もなければ、ここまで複雑にはならなかったはず。

「変なレナ」
優しく言うカティア。

彼女もいつかミーシャに惹かれてゆくのだろうか。
私を捨てて行くのだろうか。
でも、だからといってミーシャを排除するようなことはできない。
それをしてしまったら、こんどこそ私が悪者になってしまう。
打算、打算、打算。
…汚い私はキレイなあの子に負けてしまうのだろうか。
「ちょっとレナ、聞いてる?」
拗ねた声で思考が中断された。
「え?」
聞き返すと、しょうがないわね、と、カティアは笑った。
「だから、今度は三人でいきましょうよ、湖に」
告げられた言葉に思考が追いつかなくなる。破綻する。
三人。それは、誰と誰と、誰?
真剣な目でカティアは言う。
「次はミーシャも誘いましょう?」

じわり、侵食される音。

何者にも阻めない月の光。
銀色が、私の世界に染みていく。

「どうして、」

あぁ、握った手が冷たい。








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