バレンタインデーが近づいてくるとそわそわするのは男子中学生の性である。
綱吉だってそわそわする。
ただ理由はちょっと違った。
貰うんじゃなくて、あげるんである。

(どれにしよっかな…)

バレンタイン当日のデパートで、綱吉は商品ケースを凝視する。時々おねーさまやらおばさまやらに押し退けられて、謝りながら凝視する。
生チョコ、トリュフ、ブラウニー、ブランデー入り、くまの形、ハート、いろいろ。
そして結論をだした。

まったくわからん。

どれが好きなのかなんて検討もつかない。
しかしそれを聞いたのではプレゼントの意味がない。
綱吉は「ふぅむ」と唸った。
売り場には陽気な歌が流れている。
綱吉はおもむろに財布を取り出し中身を確認、野口さんの存在を認めると「よし」と思い定めた。

(よし、予算1000円で一番高級そうなやつにしよう)

安易というなかれ。悩むよりも建設的な考えではないか。

結果、トリュフになった。

なけなしのお小遣いがレジに吸い込まれるのを見送って、金色の紙袋を受け取った。
重厚なラッピングに綱吉はうきうきした。
チョコマニアで好物には口うるさい骸だって、これなら喜ぶに違いないのだ。ちょっとにやけたりするはずなのだ。
時々見せる、そうゆう気の抜けた顔が綱吉は好きだ。
たまらなくかわいい。
唇にチョコがついたままだったりするとなおかわいい。
ただ大抵彼は色っぽく唇を舐めあげるから、そんなことは滅多にないんだけども。
綱吉は色っぽい骸も好きである。

「ただいまー」
「あらツッ君、骸君来てるわよ〜」
「げ、あいつ四時に来るって言ってたのに」

時刻は三時四十分だ。
部屋に入ると、彼はベッドの上で本を読んでいる。

「ああ来たんですか」
「いやオレの部屋だからここ」

本だと思っていたそれは、よく見れば綱吉の漫画だった。

「お前がギャグマンガ好きだとは思わなかったなぁ」
「暇つぶしですよ。それより、」

早口に言って、骸が包みを突き出した。
ぐいっとやられて綱吉がのけ反る。
ピンクの箱には赤いリボンがついている。

「僕のおすすめの店です」
「え、あ、うん、ありがとう。こっちもはい、その、ハッピーバレンタイン?」

まごつきながら包みを受け取った。
渡す手順なんて全く考えていなかった綱吉だった。失策である。
だから、なんとなく間違えているように思いながら、ずずいと袋を差し出した。
骸は「ああ、どうも」と言って受け取った。
目が泳いでいる。
二人はめいめいのチョコを持って沈黙した。
実は、骸はいろいろ考えていた。
渡すときはもちろん、受け取るときの台詞、表情から何から何までプランを綿密にたてていた。
が、緊張して水泡に帰した。
よりによって「ああ、どうも」とはこれ如何に。
言ってしまったものは仕方がないが、パニックだ。

「た、たべる?」

綱吉がおずおずと申し出た。
とにかく現状を打開しなければならない。
ちょっと間を開けて、骸が重々しく頷いた。

「食べましょう」

かくして、神妙な空気のままに二人はべりべりと包装を剥いだのだった。
部屋があんまり静かなので、下で騒ぐランボ達の声が聞こえる。
綱吉は箱を開けて「おおう」と声を出した。
きれいなチョコレートが色とりどりに並んでいる。
ちょっと迷ってから、左上の丸いチョコを口に放った。

「あ、おいしい。なんだろ、中になんか入ってる」

骸がちらっと箱を見やって答える。

「それはガナッシュが入ってるやつです」
「へぇ、こっちは?」
「プラリネ」
「これは?」
「ブランデー」
「げ。オレ酒は苦手なんだ。あげる」
「くふ、オコサマですねぇ」

オコサマで悪かったな。
綱吉はこの手のからかいには慣れっこである。
ひょいとつまみ上げたチョコを、骸は綱吉の指ごと、ぱくんとやった。
もぐもぐ。
生暖かい口内で舌がうごめいて、綱吉の指先の輪郭を丁寧になぞり上げた。
綱吉の背筋に雷が落ちる。
最後に硬い歯がやわく甘噛みをして、ちゅっと音を立てて唇が離れた。
六道骸は涼しい顔をしている。

「…えっ?」
「えっ?」

え?今のって普通なの?
綱吉は考えた。
はたして恋人からチョコを貰う際に指まで食べるのは当たり前なのか。どうなんだ。
綱吉にはわからない。
世間一般の恋人というやつには、とんと縁のなかった綱吉だった。
彼はなおも考える。
つまりあれか、オレも貰うときにはああしなきゃいけないわけか?

「うへえ!」
「君に色気を期待した僕が馬鹿でした」

がっくりと肩を落とした骸(スキンシップのあとに「うへえ」じゃしかたない)は、すねたように口をヘの字にしつつトリュフをつまんで差し出した。
若干涙目だ。

「どーぞ。おかえしです。こっちもなかなかおいしいですよ」
「…!!」

再び綱吉の背筋に雷が落ちた。
目の前には白くて形のいい指に挟まれたチョコがある。
ココアパウダーが少しその指先を汚している。
おいしそうだ。いや指じゃなくてチョコが。
骸が固まる綱吉を不審そうに見ている。
綱吉は腹をくくった。
これ以上は待たせられない。今こそ期待に応えるのだ!

「ありが、とっ」

えいやっとくわえこんだ綱吉に、驚いたのは骸だった。
ぶっちゃけ予想外である。
現実を処理しきれない骸の脳にさらなる情報が伝達される。
綱吉が指を舐め、た。

「ぷはっ!…ご、ごちそうさま」
「う、わ、」
「お、おい骸?」

さっきまで仏頂面だった顔にかぁっと血が上っていく。
わなわなと震えて叫んだ。

「破廉恥なッ!!」
「えええええぇ!!」
「ど、どこでこんなこと習ったんですかアルコバレーノですかスモーキンボムですか!!」
「いやお前が先に舐めたんだろ!!」
「それとこれとは別問題だ!!しかし、へぇ、僕がすれば君もすると?!」
「別問題っておま…ん?」

なにやら雲行きが不穏ではないか。
綱吉が首を傾げた瞬間。


ちゅっ。


骸が体制を元に戻しても綱吉は暫く放心していた。
みるみる耳が赤くなる。目が丸くなる。

「さぁさぁどうぞ綱吉」
「む、」
「む?」
「無茶言うなぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


嫌がる綱吉を捕まえようとする骸、逃げる綱吉。
取っ組み合いでどたんばたんと煩くなった二階へ、奈々のお叱りが飛んだのは言うまでもない。
綱吉からのキスをめぐる勝負は、ホワイトデーまで持ち越しとなったのであった。
頑張れ、恋する男の子!









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