「幻覚なんです、あれ」

骸が言った。

「無意識なんだ。君がいないと、勝手に」
「・・・なんで」
「さあ」

骸はまっすぐこちらを見て笑った。

「君がいなくなったら、生きていけないからじゃないですかね」

まっすぐすぎるその立ち姿が、彼の余裕のなさを表しているような。
綱吉はものすごい勢いで、かくれんぼだなんて浮かれた自分を後悔していた。
だって自分のその軽い気持ちが彼にどれだけの不安を与えたかを考えたら、土下座じゃすまないはずなのだ。
もし今突然骸がいなくなったら、なんて、考えるだけでぞっとする。
ましてや、俺は本当に、明日をも知れない身だっていうのに。

「ちょっと、なにしてるんですか」
「とりあえず土下座しようと思ってだな」
「どうせなら足でも舐めてくださいよ」
「あ」

顔面めがけて突き出されたヤツの長い足は、目算を誤って俺の頭を突き破った。

「「・・・」」

微妙な心境だ。痛くも痒くもないんだけど、ねえ?

「くふ、変な顔、」
「何だこれ気持ちわる、」

ついに二人して笑いをこらえきれず床を転げまわることとなった。
間抜け!
ひーひー言っている腹にチョップをかますとそれもまたスカッとめり込んでしまうものだから、ひどい、笑いが止まらない。

「ふう・・・決めた」

やっと二人の息が落ち着いてから、綱吉が言った。

「何をです」
「今度から俺ずっとおまえについてく」
「はあ?!」

素っ頓狂な声を上げて骸は飛び起きた。

「何言ってんですか、旅行に行くんじゃないんですよ!」
「いやおまえ忘れてるみたいだけど俺元マフィアよ?」
「いやですよ、いや、うれしいですけどやりづらいです留守番しててください」
「なんでだよ、俺がいっしょに行動するなら長期で海外とかも行けるから楽だろ。何がやりにくいのか言ってみろよ」
「・・・どーしてもですか」
「どーしてもだよ」

数秒間にらみ合ったが、骸が根負けした。
そもそもちょっとでも嬉しいと思っている時点で彼に勝ち目なんてありやしない。

「明日、発ちます。荷物まとめてください」
「おまえがな」
「ああそうでした面倒な!じゃあ全部捨てて行きましょう」
「もったいないという言葉を知っているのか!」

テーブルだってクローゼットだって食器だって全部全部そりゃあ綺麗なものだ。
それを、捨てる!なんて罰当たりなんだと、綱吉は骸に代わって神に詫びた。
ジーザス!(ただしイメージは白い髭の仙人のような神様だった)

「まあいいじゃないですか。そんなことよりこっち見てくださいどこいくか決めましょう」
「なにそれローマのガイドブック?」
「コロッセオでも行きます?」
「へえ・・・って、ただの旅行じゃないかよおおおお!」

新婚旅行です、とうそぶく骸に殴りかかる腕がないのが残念だ。
綱吉はソファに転がりながら目を伏せた。
ジーザス。
これがなんの解決にもならないことはわかってるけど、どうせなるようにしかならないんだ、と、乾いたローマの空気を思った。










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