部屋へ帰れば綱吉がいて、ふわふわごろごろしながら返事をするのが当たり前だった。
骸は自分の目的のため本格的に暗躍を始めていたけど、必ず夕食は部屋で食べるようにしていた。
きちんと綱吉の分まで用意された食卓に、綱吉は時々愚痴る。

「幽霊に食事機能が付いていないのは理不尽!」

だって骸の作る料理はいつもおいしそうでつやつやなのだ。
骸は大抵、それに同情して見せながらケタケタ笑う。



「ただいま…骸?」

綱吉がいつもより遅く帰ってくると、骸が部屋の隅に向かって正座していた。
声をかけた瞬間、戸惑ったように振り返って目を見開いた彼はいかにも不審だった。

「なにやってんのおまえ、壁に向かって一人でぶつぶつ。怪しいぞ」

骸はもう一度部屋の隅を振り返ってから、ひどく憔悴した様子でため息をついてから立ち上がった。

「骸?」
「なんでもありません。遅かったですね。今日はどこまで行ってたんですか」
「え、ああ、ちょっと川越えた電気屋まで…」

物体に触れないということはテレビもつけられないということで、ちょっと退屈すると綱吉は電気屋まで足を伸ばしてニュースを見たりなんかする。
今日は遠出してみた。
で、遅くなったわけなんだけども。

「…怒ってんの?」
「…そうですね、できるだけ家にいるようにしてください。テレビが見たいんならつけっぱなしにしておいてあげますから」
「ちょ、おま、光熱費!」

青ざめた綱吉に骸はうめいた。

「お願いです、綱吉」
「え、あ、うん」

綱吉は面食らってしまった。
すがるような顔だったのだ。
自分を迎えに来たときでさえ嫌味でエネルギーに満ち満ちていた骸が(あの、骸が!)弱々しく見えるなんてあるんだろうか。
異常事態じゃないのこれ。
若干失礼な思考の流れでも、真剣に綱吉は心配した。

「骸、」
「なんですか」
「なにかあったら、言えよ」

ちょっと、動きを止めてから、骸は笑った。
ご飯にしましょうと言って歩き出す背中は、綱吉の胸にざらついた不安を残して遠ざかっていった。



その、夜。



(おー…月が綺麗)

綱吉はむくりと起き上がって、窓辺に近づいた。
カーテンの隙間から、キンと冷えた月が見えている。
しっかり見たくなったので、窓を抜けてベランダに出た。

「なんときれーなお月様。ビールが欲しいね」

そのままぼうっと見ていると、浮かんでくるあんな顔こんな顔。
獄寺君はちゃんと寝てるだろーか。
というか骸が本気で解体しにかかってるのならさすがにボンゴレも無事じゃすまないんだろう。
ああでもザンザスがいればある程度は安泰かなあ。
戦闘面では雲雀さんもいる。
ああ隼人、君の胃が心配です。

「あと正ちゃんだよなぁ」

胃痛持ちといえば彼である。あとスカルとか。
みんなてんやわんやだろう。…俺はこんなに暢気でいいんだろうか。

「…綱吉?」
「おきちゃったか」

おーいここだよ、と顔を出そうとして、やめた。
ちょっとかくれんぼしてやろう!
にやにやと緩む口元を誰が見るわけでもないのに押さえて、綱吉は窓のぎりぎりにしゃがみこんだ。

「綱吉、どこにいるんです」

部屋の中で骸が歩き回る音がする。
ばたんばたん…ってオイ、クローゼットの中にはいないだろさすがに。
つっこんだりムフフと笑ったり忙しい綱吉の耳に、やや切迫した様子の骸の声が届いた。
意地悪しすぎたみたいだ。

(そろそろ出よ)

「むっく、
「ああ綱吉こんなところにいたんですか。返事ぐらいしてくださいよ心配するでしょう」
…んんっ?」

待って待って。俺発見されてないよ!!

慌てて首だけ突っ込むと寝室はもぬけの殻。
リビングの電気がついていて、骸の声がするからそっちにいるんだろう。
綱吉は走った。
正確には走っちゃいないんだけども、とにかく急いで行ったわけだ。
飛び込んだ先では、骸がキッチンで何かを温めている最中だった。
ゆったりと漂ってくる甘い匂いは…ココア?

「むくろ、」
「おや、だんまりはやめたんですか、つなよし、」

そう言いながら骸はこちらを振り向いて、驚いたように動きを止めた。

(ああこれはまるで、さっきの)

骸が一瞬の硬直の後に動かした視線の先を、綱吉は今度こそはっきりと見た。
電灯に照らし出されたそれは、すねたような顔で机に突っ伏す、まぎれもない綱吉の姿だ。
綱吉がそう認識した瞬間、それは羽音のような音を立てて消えた。

「…なんだよ、あれ」

骸は立っている。
その背後でぶくぶくと鍋が煮立つ。

「ちょ、ああもう俺触れないんだってば!早く火ィ止めろって!」

あわてて近づいて騒ぎ立てると、骸はようやく気づいたように火を止めた。
大好きなココアが焦げてるよ。
ふたたび、思う。

(やっぱり異常事態じゃん!)








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