凍てついた星を眺めながら、彼をくるむ毛布の色を考えた。
廃墟の上階は見晴らしがいい。
遠く、離れているから。
――夜の底で遺跡のように沈む町並みの、そのどこかで眠る彼は、幸せな夢を吸って吐いてしているのだろう。
死んだような世界の下で、明日に向けてふくらみつづける生の萌芽。
寒さを我が身に受容しながら骸は明確に拒絶される輪郭を察知している。
それが皮膚なのか、あるいはなにかもっと違うものなのかは分からない。
つまり同化にむかう末端は、かぎりなく近付く曲線でしかない。

(こんなにも汚れているのに、)
しげしげと手を見ながら骸は思った。
(この身には地獄を飼っているのに、)

冷えていく指先は、深海に沈む鯨の骨のように白く、ただし浮かんでいる。
固まることのできない血流が、この僕でさえ生きていると思い知らせるからだろうか。
しん、と、静かな夜の中でも、僕らは明日を疑わない。
信じるわけじゃない。
消失の可能性を知りながら、危うさを声高に主張しながら、それでも前提には明日がある。
疑わない。それだけのこと。
口元をマフラーに埋めた。
毛糸のそれは、彼が去り際に巻き付けていったものだった。
くたびれた青色。
骸は考える。
彼をくるむ毛布の色。
彼とよく似た茶色?
明るい橙?
赤やピンクかもしれない。
それとも水色。
夜のような、青――
どんな色だとしたって、それはきっとあの温度をもっている。
冷たい夜と同じでも。くたびれて褪せていても。
人間の肌のような生暖かさは、形容しがたいものを胸に連れてくる。
目を細めたのは眩しかったからだろうか。
こんなに暗い夜なのに?
こんなに暗い夜だから?
…きっとそうだ。
彼という光は、眠りについてなお、ぼう、と光っている。
あわいあぶくのように幸せを吸って、吐いて。
だからこんなにも眩しいようで、胸がこんなにも圧されるようで。
衝動的に、骸は両手を拭おうとした。
なぜだかは分からない。
でも、すぐにだらりと力を抜いた。
染みついた汚れであることは、とうの昔から知っている。

「沢田綱吉、」

光を見ていたいと思う。
こんなに眩しいのは初めてだから。
うつくしいものがあると信じてみたいから。
その輪郭を、軌跡を、見ている。
彼に、その光に、汚れたものがまざってしまわないように願いながら。
強く、強く、夢見て、夢を、観ている。
夜にも還れないまま。

胸を襲うなにかを、理解できないまま。











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