リボーンの誕生日を祝って大盛りあがりを通り越して騒々しくなってきた会場を抜け出して、綱吉は執務室へのドアを開けた。
ばか騒ぎは楽しいけど、これ以上飲まされてはたまらない。

重厚なデスクの前には応接用のテーブルとソファーがある。
ふかふかの絨毯は気持ちいいが、未だに靴で踏むのに抵抗を感じてしまう。
後ろ手にドアを閉めて一息つくと、ふんわりと紅茶の香りが漂ってきた。

「…獄寺くん?」

内緒で出てきたのになぁと苦笑してから勘違いに気づく。
そういえば彼はリボーンが用意したテキーラですっかり出来上がっていた。
じゃあ誰だ?

「あんな煩いのと一緒にしないでいただけますか」
「うわぁ…」

眉を寄せる顔さえも麗しく、六道骸がポットを片手に仁王立ちしていた。
ご機嫌斜めのままに紅茶を注いで、テーブルへ並べる。

「もらってもいい?」
「どうぞ」

彼のいれる紅茶が好きだ。
自分でやったのでは出せないような、きれいな色と深みのある味には惚れ惚れしてしまう。
あるいは、紅茶をいれる彼の手つきが好きだ。
槍ではなく陶器を握るその指先が、オレにとっては幸せの象徴なのかもしれない。

うふふなんて笑ったのを見咎めて、六道骸はじっとりとした視線を向けてきた。

「ずいぶんと上機嫌じゃありませんか」
「え、ああ、うん、まぁ」

そりゃだってうれしいからね!

「あれ」

カップを持ち上げると、何かがおかしいような気がして綱吉は首をかしげた。
が、違和感の原因を突き止める前に「飲まないんですか」と不服そうに言われたので、綱吉はさっくりと原因究明を放棄した。

まぁいっかぁ。

一口二口と飲んでなごんでいると、急に指先の力が抜けた。

ガチャン

「え?」

ばったん!

ソファーに倒れこんだオレを、骸がニヤニヤしながら見ているのがわかった。
しまった盛られたと思うも後の祭り、既に体はぐにゃぐにゃだ。

「こんなにあっさりやられるなんて君もまだまだですねぇクハッ!」
「む…っくろぉ」

こんにゃろぉおぉぉと罵倒したって口が動かないのでもごもごとしか聞こえない。
爆笑してやがるぞちくしょう。

悔しがる綱吉を、骸は「よいしょ」と担ぎ上げた。

綱吉の目には割れたカップと絨毯に染み込んでいく紅茶が見えている。

た、高いのに…!!

ちなみに高いのはカップと絨毯の両方だ。
綱吉は青ざめた。
そんなことにはお構いなしに、六道骸は鼻唄を歌いながら執務室のドアを蹴り開けた。

「あ!じゅうだい、め…」

うれしそうな声が呆気にとられたように途切れたのが聞こえた。
ああ、不味いことになった、な!


怒号と爆風が吹き荒れるなかを、六道骸は高笑いしながら綱吉を誘拐していった。
肩の上で遠い目をしながら運ばれていく綱吉は、それでも恋人の愛情がうれしくてたまらないのだ。

ランデブーランデブー!!










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