「ミーシャ、ほっぺにご飯粒ついてる」
金髪の友人は、笑いながら言った。
そのとなりで、黒髪の友人は黙々と口を動かしている。
「ほんとにお前ら兄妹だよなぁ、やることがよく似てる」
細められた目に、冷たいものを感じるようになったのはいつからだろう。
自分の隣でエレフが眉を寄せるのが、気配でわかった。
「お弁当で好きなものを最後に残すのも一緒。驚いた顔も一緒。やっぱ血が繋がってるとやることが一緒だよな」
「そう…?」
にこにこと、何時ものように屈託のない彼の笑顔に、気のせいかとも思う。
けれど、ここ数日、彼はことあるごとにさりげなく――本当にさりげなく、私達双子の血の繋がりを強調するのだった。
その度に、彼の目の奥に冷たいものが宿る。
エレフは、気づいていないようだけれど。
ちらりと横目でうかがうと、なんだか嫌なことでも思い出したような顔をしていた。
「そーだよ。な、アレクもそう思うだろー?」
「私を共犯にするな」
呆れたように切って捨てる彼女に、オリオンは「ひっでーの」と呟いて苦笑した。

「ミーシャ!エレフ!生徒会長が探してたわよ!」
廊下から聞こえた声に振り向くと、フィリスさんが呼んでいた。
「あんのバカ兄貴……!」
「レオン兄さん、どうしたのかな。ごめんね、ちょっと行ってくる。行こう、エレフ」
「……ミーシャが行くなら」
うながすと、エレフは渋々頷いた。
「いってらー」
ひらひらとオリオンが手を振る。
そうか、あれは冬の海の色によく似ているのだ。
席を立ちながら思った。
彼の目は、淋しい冬の海の色。

***

「女々しいぞオリオン」
「こんな好青年捕まえてそんなこと言うなんて、アレクったらひでーの」
双子が完全に教室を出てからの会話。
アレクサンドラは鼻を鳴らした。
「では陰湿だと言い換えようか」
「うわ、容赦ねーな」
ひくり、と口の端がひきつる。
この友人は男より男らしい。
そのうえ鋭い。
「血の繋がりを強調し……あいつらの関係が許されるものじゃない事を、意識させる。それが狙いか」
ほら、こんなにもはっきり、俺の意図を察している。
「ばれちゃった?」
「ミーシャはお前の意図を気にし始めているぞ。エレフは…気づいてないな、あれは」
あいつは妹に直接関係すること以外には鈍いからな。
遠い目をしながらアレクはぼやいて、続けた。
「今更血の繋がりで躊躇うような二人じゃないだろう」

兄妹だから。
世間一般で禁忌とされる恋情。
けれど、そんな決まりに縛られるような二人ではない。

「わかってるさ」
けらけらと、心の底から笑った。
そんなことは昔から知っている。
だからこそ、こんな嫌がらせができるのだ。

縛られなくったって、気にはする。
そんなエレフの、苦々しい顔を見るための嫌がらせ。

笑い続ける俺を、彼女は真っ黒な目で見据えた。
そして言う。
「…馬鹿者が」
その響きがあまりにも優しくて。
あぁ、なんていい友人に恵まれたことか!

(応援してやるよ、不細工ちゃん)
心の中で親友に話しかける。
(俺の敗けだよ。ミーシャにはお前がお似合いさ)
だから、
「このぐらいの嫌がらせは、許してくれよな」
親友からの返事はもちろんない。
かわりに隣の友人が呆れたようにため息をついた。








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