腹だったか、胸だったか。
身体中が脈打っているのを感じながら、目を開けた。
目の前で薄茶の目が恐怖に揺らいでいる。
視線の先は腹だった。
(ああ、腹だったのか)
身体中の傷が痛みを伝えてくるので、もはやどこを撃たれたのかすら、わからなかった。
どうやら彼が止血しようとしてくれているようだが、その手の感覚さえ、なかった。


「むくろ」
「、」

応じようとしたが、ひゅう、と、喉が鳴っただけだったので、口の端で笑った。

「笑える状況じゃないだろ…!」

笑える状況でしょう。
滑稽…、あるいは幸福だ。
かつて殺意と憎悪の対象だったもののために死ぬ、とすれば滑稽極まりない。
愛する人が看取ってくれる、とすれば、ひどく幸せなことだ。

沢田綱吉は、「六道骸」の知るなかで、もっとも眩しい光だった。
夜空にただひとつの星に等しかった。
手は届かない。
それでもずっと、共にある、光だった。
(すべてを共有できなくても、わかりあえないことがあっても、僕は彼の手を握れるし、笑い合うことができる。大切なのは、それだけ)

楽しかった、と、思う。
でなければ今、唇に浮かぶ笑みの理由が見つからない。
けれど、楽しかったとするなら、悔いがないとするなら、今、視界を揺らす涙の理由が見つからない。

「骸、大丈夫だから、すぐ医療班が来るから…っ」
「つなよし、」

舌がうまく回らないのが忌々しいが、なに、あとたったひとこと。
もう、むずかしことはわからない。
たった、ひとことだけ、

「        」

ひゅう、と、身体の奥から吐き出したそれは、たしかに彼の耳朶にふれた。
これからは二度とその手を握れない。
それでも最後の最後、この一瞬、すべてを分かち合うことができた。
それだけで、六道骸は満足だったのである。



(彼を愛した死体の話)








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