車と女の趣味は似るという。
任務の際、六道骸はシャープな輪郭の、紺の乗用車を乗り回していた。
彼の服装と同じで「かっこいいけどちょっとナルシストな感じ」、と、綱吉は評している。
評しているので、車と女の趣味がうんぬんというのは眉唾物だと思っていた。
だって彼の恋人である自分の総評は、地味でダメ。
かっこいいなんて言われたことはないし(ハル達は除く)、ナルシストはさすがにないと思う。
あるいは、自分は男なのであてはまらないだけかも、と、考えていた。


この、車を見るまでは。


「…骸。これお前の趣味?」
「そうですけど。あとは凪ですか。なにか文句でもあるんですか」
「いや文句はないけどさ!あの、普段の車は、」
「あれは仕事用です。仕事とプライベートを区別出来ないのは三流ですよ」

涼しい顔でのたまって、六道骸は運転席に乗り込んだ。
慌てて綱吉もそれに続く。
助手席に座った綱吉がシートベルトを締めるのを確認してから、骸はアクセルを踏み込んだ。
流れていく風景。
そのなかのショーウインドウに映った自分達の姿を見て、沢田綱吉は「ねぇよ」と呟いた。
ベージュの丸いフォルム。
フロントガラスに揺れるクマのマスコット。
芳香剤の匂いがなんとなくパイナップルに似ているのは気のせいだと思いたい。

ねぇよ。

上機嫌で運転する骸を見やって綱吉は頭を抱えた。
そういえばこいつ学ランの下にクマのTシャツ着るようなやつだったな、とか、チョコが好きだったな、とか考えてみれば確かにこの車は彼の趣味と一致しているのだった。

そしてこれが彼の本来の趣味なら、自分との共通点に心当たりが、ある。
色素が薄いとこだとかお世辞にもがっしりしているとは言えない体型とか。
まぁ、自分はここまでかわいらしくはないが(そう思っているのが自分だけだと綱吉は知らない)。
とりあえず、ああ、なんてこと、世間の言うことは正しかった!

ふと後部座席を見て、綱吉は更にぎょっとした。
パイナップル型のクッションと、魚のクッションが、でーんと鎮座している。
…やわらかそうだ。

「…骸、あれは一体」
「凪の手作りです。なにかあるんなら聞きますよただし賛辞しかうけつけません」
「うん、とってもすてき超すてき」

隣からの圧力に辟易しながら綱吉は前に向き直った。
まさかあれがパインとマグロだなんてそんな馬鹿な。
たまたまだ、きっと。
綱吉は強く願いながら天を仰いだ。
しかし悲しいかな、超直感殿が言うことには、あれはマグロで間違いないようだ。
なんて恥ずかしい。
通りで最近柿本さん達の視線が生暖かい訳だ、と、綱吉は顔をおおった。

「なんですか百面相なんかして。…この内装が気に入りませんか」

後半の言葉が少し不安げに揺れていたので、綱吉は慌てて否定した。
や、まぁたしかに意外だなとか恥ずかしいとか思ったけどさ。

「なんか落ち着いて好きだよ、これ」

そう言ってやれば、彼は「そうですか」と言ってハンドルを切った。
無表情だけれど嬉しそうな恋人が、心底かわいいと思う。








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