六道骸は、時折酷い頭痛に襲われる。
右目の奥から脳髄にかけて走る痛み。
目蓋の上からそっと右目を押さえ、六道骸はため息をついた。
それもこれもこの眼球が歪んでいるせいだ、と、六道骸は考えている。
なぜ眼球を歪んでいると判じたかというと、沢田綱吉が彼の周りの世界を、美しいと言うからだった。
彼の少年は愚直と言って良いほど嘘がつけず、馬鹿のようにまっすぐに物事を見ていた。
その彼が世界が美しいというならば、なるほど、きっと世界は美しいに違いない。
以前は、彼が世界の裏を知らないからだと決めつけていたが、マフィアを率いるようになり、汚い駆け引きにもずっぷり浸かるようになった今ですらそう言うのだから、それは真実に違いないのだと今は認めている。
はなはだ不本意ではあるが。
しかし、この右目が映し出す世界は相変わらず、醜悪だ。
それはなにも世界の暗部を指して言うのではなく、その上に安穏と座って下らないことで悩んでお幸せに暮らしている数多の人間達もひっくるめて、醜悪と言うのだ。
特にマフィアというやつはいけない。
ヘドロが凝り固まっているんじゃないかと思うような腐臭がする。
そんなやつにすら彼は笑って肩を叩いたりするのだ。
解せない。
だから、六道骸は自分に見えているものが間違っているに違いない、と、思うしかなかった。
歪んでいるのだ。
そして、事象が歪んで見えるということは、それを写し出す媒体が歪んでいるということなのだろう。
残念ながら六道骸には心当たりがあった。
右目である。

再び走った痛みに六道骸は眉を寄せた。

…歪んだ眼球は、頭蓋には収まらない。
それが脳髄を圧迫するので、ああ、気が狂いそうだ。
何度見たって世界は醜悪だ。
血と内臓、骨や肉塊にまみれた周囲を見渡して、六道骸は舌打ちした。
壊したっていいんじゃないのか。
それとも歪んで見えているだけなのか。
わからない。
正しさを測る定規は残念ながら六道骸から離れた所にあったので、今すぐに確認する術を持たなかった。

「沢田綱吉、」

世界で唯一、真っ直ぐなもの。
ただ、どうしようもなく彼に会いたかった。








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テーマ「人外ファンタジー」
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