針をたてたヤマアラシのようだ。
自分にしがみつく小柄な体を見下ろしながら思った。
みるみるシワになっていくコート。
多分、綺麗には戻らないだろう。
まあ、新品でないだけ良しとする。

「綱吉君」
「なに」

強張った声にため息が漏れた。
そこまでする必要がどこにある。

「殺しちゃいましょうよ、あんなの」

たとえば交渉先のボス。
たとえば古い役員。
どうせ大したこともできまいだとか、理想を振り回す青二才だのと言って、彼を愚弄するすべてを、殺してしまえばいいと思う。
馬鹿は死んだってなおらないのだ。
暴力や権力しか理解できない。
そんなくだらないものに心を砕く必要なんて、どこにもないのだと骸は思う。

「ね、ちちんぷいぷいですよ綱吉君。槍をちょっと振るだけで、世界がまた少し美しくなります」
「…だめだよ」
「なぜ?」

ああそんなに唇を噛み締めないで!
切れてしまう。
あんなもののために君の血が滲んでしまう!
今腕の中で震える体からは苛立ちと悲しみが溢れ出ているのに、彼はそれを小さな両手で押し留めている。
理解不能だ。
理解したくも、ない。

「殺せ。馬鹿は死ななきゃなおらない」
「そうだね、でも人間だ」
「だからなんだっていうんです……」

人間だから馬鹿が許されるのか。
人間だから傲慢が許されるのか。
ちがう。
世界はもっと純粋であるべきだ。

「殺したって、服従させたって、こっちの意思を分からせなきゃダメなんだよ」
「…わかりました。じゃあ洗脳しましょう」
「だから!それじゃあ根本的な解決にはいたらないだろ!」

こちらを睨み付ける瞳を理解したくなくて、腹立たしくて、泣きたくて。
歪んだ顔が彼の目に映っている。
根本的な解決?
そんなものなくたっていいじゃないか。
そんなもののために時間を無駄にしないで。
僕だけを見ていて。

「そうしなきゃ、本物はつくれないよ」

こちらを見つめる瞳は、揺るぎない硬度で僕を突き刺す。
君が望めば僕はいくらでもつくりあげてみせるのに。


でもそれは幻でしかないと、君は言う。








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テーマ「人外ファンタジー」
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